編集長が語る!講義の見どころ
感情をコントロールする方法をデカルトに学ぶ/津崎良典先生【テンミニッツ・アカデミー】

2025/11/11

いつもありがとうございます。テンミニッツ・アカデミー編集長の川上達史です。

様々な誘惑についつい負けてしまう、恐怖心にとらわれてしまう、嫌悪感にとらわれてしまう、依怙贔屓(えこひいき)してしまう……。そのような自分の感情に動かされてしまうことは、誰しもあると思います。

それをどのように克服できるのか。

実は、哲学者のデカルトが、この問題に真っ正面から取り組んでいるといいます。本日はそのことをご紹介いただいた津崎良典先生(筑波大学人文社会系教授)の講座を紹介しましょう。

◆津崎良典:デカルトの感情論に学ぶ(全2話)
(1)愛に現れる身体のメカニズム
デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2562&referer=push_mm_rcm1

最初に津崎先生が取り上げるのは、デカルトと友人のシャニュの手紙です。「愛についての書簡」と呼ばれるやり取りです。

まずシャニュが、こう質問します。

《あの人ではなくこの人に友愛の念を感じるとします。しかも、その人の長所をまだ知らないのに友愛の念を感じるとしたら、そのように私たちを仕向ける秘密の衝動があるはずですが、それが一体なんなのか、私には判然としません》

さて、なかなか難しい問いです。相手のことを詳しく知る前に、相手を好ましく思ってしまうのはなぜか? というのです。

これに対する、デカルトの答えは次のようなものでした。

●なぜかわからないが、ある人に惹かれるとき、そこには少なくとも身体レベルでのメカニズムが働いている。

●ある人に初めて会って強く印象づけられると、脳にはそのときの印象がいつまでも残っていて、その後も似たような人に出会うと、積極的にその人に対して好意を感ずる。

●自分(デカルト)は「子供の頃、同じくらいの年齢で、少し斜視の女の子が好きだった」が、その後も長いあいだそうだった。

非常に真摯に論を展開していきますが、デカルトは「斜視についての自分の理解が変わったら、自分自身の女性の好みも変わった」ことに着目します。津崎先生は以下のようにおっしゃいます。

《ようするに、身体レベルが原因でつくられた自分の好みは、実は精神レベルでの変化が起きれば変わる、とデカルトは言っているのです。ここで言っているのは、精神と身体、心と体のあいだに生じた「条件づけ」です》

そして例に出すのが、犬の調教です。犬に「おすわり」と何回もいえば、犬は座るようになる。これが「条件づけ」です。

では、心と体をどのように条件づけるのか。

そのことをデカルトは『情念論』という本のなかで論じていると、さらに津崎先生はお話を進めます。ここでデカルトは、恐怖について論じています。

津崎先生は、次のように解説します。

恐怖に対して「消えよ、消えよ」と力んでも消えない。しかし、「恐怖を引き起こした原因とは直接に関係のないもの、できることなら正反対のものを想像しよう」と意志することによって、恐怖という気持ちが抑えられる。

それをデカルトは次のように説明しています。

《たとえば、自分のうちに大胆さを引き起こし、恐怖を取り除くには、そうしようとする意志をもつだけでは不十分である。危険は大きくないとか、逃走するよりも防御するほうがつねに安全であるとか、勝てば誇りと喜びを得るだろうが逃げれば心残りと恥しか残らないとか、そう確信させてくれる理由、対象、実例を、しっかりと考える必要がある》

具体的にはどのようなことか。津崎先生は次のように解説くださいます。

《例えば、ライオンがわっと来て怖いと思っても、精神レベルで「いやいや、ライオンから逃げたら恥だろう」と考えたり、あるいは「ライオン、案外怖そうだけれども、よく見てみると、鎖で繋がれていてここまで来ないだろう」と思ってみたり、あるいはわっと来たけれども「大丈夫。ここには防御のガラスがある」と精神レベルで注意を向けることによって、怖くなくなる、ということです》

デカルトは、古代ストア派の哲学者と違って、アタラクシア(激しい感情の動きに左右されない平静不動の精神のあり方)は絵空事だと考え、「感情がなければ人生は味気ないが、その犠牲にならないようにすることが重要だ」と考えていたのだといいます。

「自分自身の感情に、ついつい躍らされてしまう」ようなとき、ふと、「そういえば、デカルトがこんなことをいっていたな」と思い起こすだけでも、踏みとどまる一助になるかもしれません。

哲学を、自分の心の大切な支えとするヒントが満載の講座です。ぜひご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆津崎良典:デカルトの感情論に学ぶ(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2562&referer=push_mm_rcm2


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