編集長が語る!講義の見どころ
《今を知る》危機のいま、「ユダヤ人」を学ぶ/鶴見太郎先生&特集【テンミニッツ・アカデミー】
2026/04/15
いつもありがとうございます。テンミニッツ・アカデミー編集長の川上達史です。
イスラエルとアメリカによるイラン攻撃が、世界全体に深刻な影響を拡大しつつあります。そして今回の攻撃は、イスラエルのネタニヤフ首相が、アメリカのトランプ大統領を引き込むかたちで行なわれたともいわれています。
イスラエルは、その建国以来の歴史のなかで、われわれの目には過剰とも映るほどの「報復戦略」をとってきました。攻撃された場合、何倍、何十倍とも思われるほどの「徹底的な報復」を行なうことで、自らの生存を確保しようとしてきたのです。
今回のイラン攻撃も、イスラエル側からすれば当然、イランによる核開発を断固として止めなければ自らの生存が危うくなるという危機意識もあってのことでしょう。イラン政府と革命防衛隊がこれまで、イスラム教テロ組織を積極的に支援してきたことも大きな理由となっています。
とはいえ、このようなイスラエルの戦略は、日本人の理解を超える部分があることも否定できない事実です。
このような事態を理解し、自分自身として判断を下すためには、やはり歴史的経緯をしっかりと知らなければなりません。さらにいえば、日本人の多くはユダヤ人とユダヤ人の歴史について「十分に知らない」ことも事実でしょう。
そもそも、ユダヤ人とはどのような人たちなのか。一神教で選民思想があるともいわれるユダヤ教とはいかなる宗教なのか。ユダヤ人の歴史とは。そして、これまで欧米を中心に差別されてきたのはなぜか。歴史の中で繰り返されてきた迫害や虐殺の実態とは?
現代社会を理解するうえでも、世界史を理解するうえでも、ユダヤ人理解は必須です。今回の「今を知る講義まとめ」特集では、この問題に真正面から取り組み、深掘りしていく講義を集めました。
■今を知る講義まとめ:ユダヤ人とは何か?
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=287&referer=push_mm_feat
◆鶴見太郎先生:ユダヤ人とは?なぜ差別?お金持ち?…『ユダヤ人の歴史』に学ぶ
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=6195&referer=push_mm_rcm1
◆鎌田東二先生:ユダヤ教の神話…天地創造、モーセの十戒、死後の世界
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4761&referer=push_mm_rcm2
◆島田晴雄先生:「スタートアップ・ネーション」イスラエルを知るために
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2844&referer=push_mm_rcm3
◆島田晴雄先生:イスラエルの歴史を学ぶ~シオニズム運動と英国の三枚舌
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=259&referer=push_mm_rcm4
◆島田晴雄先生:古代イスラエルの歴史…メサイア信仰とユダヤ人の離散
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=274&referer=push_mm_rcm5
■ピックアップ講義:教養としての「ユダヤ人の歴史とユダヤ教」(鶴見太郎先生)
本日は特集から、鶴見太郎先生(東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻准教授)の《教養としての「ユダヤ人の歴史とユダヤ教」》講義をピックアップして紹介いたします。
鶴見太郎先生は、『ユダヤ人の歴史――古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで』(中公新書)を2025年1月に発刊。サントリー学芸賞(2025年)を受賞され、新書大賞(2026)第2位にも輝いています。
この本を読むと、ユダヤ人とは何か、ユダヤ教とは何かが明快に見えてくると同時に、ユダヤ人という軸を一本立てることで、世界史の流れが見通せるようになります。
今回のテンミニッツ・アカデミーの講義では、この本をベースにしつつ、鶴見先生ご自身に、とてもわかりやすくご解説をいただきました。
ユダヤ人について様々な言論が飛び交うなか、いまこそ知っておくべき内容が満載です。
◆鶴見太郎先生:教養としての「ユダヤ人の歴史とユダヤ教」(全9話)
(1)ユダヤ人とは誰のことか
ユダヤ人とは?なぜ差別?お金持ち?…『ユダヤ人の歴史』に学ぶ
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=6195&referer=push_mm_rcm6
まず最初に、この講義シリーズの全話の流れを紹介しましょう。
(1)ユダヤ人とは誰のことか
ユダヤ人とは?なぜ差別?お金持ち?…『ユダヤ人の歴史』に学ぶ
(2)厳格な一神教と選民思想
一神教とは、選民思想の真相とは…ユダヤ教の「最終目的」を考える
(3)3つの一神教、それぞれの物語
信じる神は同じだが…ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の異同点
(4)ユダヤ人と金融
金融業にユダヤ人が多い理由、そして大国興亡史の裏面のユダヤ人
(5)キリスト教と反ユダヤ思想
ユダヤ人迫害を生んだ「権力者・ユダヤ人・民衆」の三者関係
(6)陰謀論とユダヤ人
ユダヤ人を巡る「陰謀論」の裏を読む…ロシア革命とユダヤ人
(7)ポグロムとホロコースト
歴史の中のユダヤ人大量虐殺…ポグロムとホロコーストの違い
(8)シオニズムとユダヤ教
シオニズムは伝統的なユダヤ教とは異質…イスラエル建国の背景
(9)ユダヤ人の多様性
ユダヤ人は一枚岩ではない…米国ユダヤ人のイスラエルへの違和感
まさに、ユダヤ人について知るべき様々なことを、網羅的にお話しいただきました。
まず知っておくべきは、「ユダヤ人とはいかなる人たちなのか」です。
鶴見先生は、この問いに対して「ユダヤ教を核にして、それを中心にまとまっている人たち」という定義を提示されます 。
しかし、これだけでは理解したことにはなりません。日本人が知っておくべきは「ユダヤ教を信じる」とはどのようなことか、です。
キリスト教などでは、「心の中で信じる」ことがすなわち「信仰」だとされる場合も多いものです。しかし、ユダヤ教は「心の中で信じている」だけでは足りないのです。重視されるのは「実践」です。
日々の生活(とりわけ家族生活)のなかで、十戒や安息日や食に対する規制などの戒律を、どれだけしっかり実践するか。そして『聖書』や『タルムード(ユダヤ教の律法やそれにまつわる議論をまとめた書)』をいかに学び続けるか。それがとても重視されるのです。
ユダヤ教を軸に、戒律を守り、学びを重ね、家族的なつながりを大切にすることで維持されてきた共同体。その強固なつながりが、西暦73年にローマ帝国により滅ぼされて世界に四散して以降も、なお「ユダヤ人」としてアイデンティティを保ち続けられた大きな理由の一つでした 。
ユダヤ人としてのアイデンティティ保持のもう一つの大きな理由は、「ユダヤ教」の特異性にありました。すなわち「一神教」としてのあり方です。
古代世界において、各地域に成立した共同体では、それぞれがそれぞれの「神」を信仰していました。古代の中東でも、バビロニアやエジプトなど、それぞれの地域に確固たる信仰が形成されており、それぞれが「守護神」的な存在だったといいます。
この場合、他国との戦争に負けることは「自分たちの守護神が相手の神に敗北したこと」を意味します 。敗者は勝者の神に乗り換えることもありました。
しかし、古代ユダヤ人がユニークだったのは、そこで「一神教」という発想の転換を行なったことです。
世界に多くの神々がいるとすれば、戦争で負けたら神が負けることにもなる。しかし世界に神は、万能の創造主ただ1神なのだとすれば、そのような勝ち負けを超越した存在になります。しかも、戦争に負けたり、天変地異が襲ったとしても、それは「神が与えた試練」だとされるのです。
これは、強大な勢力に囲まれたユダヤ人社会が、たとえ敗れたとしてもなお信仰を軸に共同体を保ち続けられる知恵だったのかもしれません。
この一神教の考えが、世界史に大きな影響を与えていきます。ユダヤ教も、キリスト教も、イスラム教も、信じている神は「同じ」。つまり、ヤハウェもエホバもアッラーも同一の神だと、各宗教ともに認めているのです。
では、それぞれの違いは何なのか。そこは講義の第3話をご覧ください。
さらに、「ユダヤ人はお金持ち」「金融業での成功者が多い」というイメージについても、鶴見先生は歴史的背景から明快にご解説くださいます。
『旧約聖書』には「同じ宗教を信じる同胞から利子を取るようなお金の貸し付けを行なってはならない」という規定があります。しかし、たとえばユダヤ教徒とキリスト教は異教徒ですから、(もちろん制約はあるとはいえ)利子をつけての金融業も行なえたのです。
さらにいえば、ユダヤ教が「学びの宗教」だったので、その読み書きリテラシーにより、自ずと金融業務にも長けることとなりました。また各地にまたがるユダヤ教の「信用ネットワーク」が金融業展開の安全安心を担保していったのです。
しかし、そのようなユダヤ人の特質、さらにキリスト教に元々ある「反ユダヤ主義」的なあり方が、古来、ユダヤ人の差別をも生み出していくことになります。
金融業で富を生むことへの妬みや偏見。さらに、ユダヤ教の戒律に起因して「キリスト教徒の子どもの血を儀式に使っている」といったデマを生むことにもなります。
また、差別や迫害の背後には、「権力者・ユダヤ人・民衆」の三者関係もあったといいます。権力者は、ユダヤ人の金融や管理能力などを利用しつつ、いざというときには、民衆の不満をそらすための「スケープゴート」にすることもあったのです。
近代に至っても、「ロシア革命はユダヤ人の陰謀だ」「ユダヤ人が世界支配を目論んでいる」などの陰謀論が数多く生まれていきます。
このような「陰謀論」の表と裏についても、鶴見先生は真正面から解説していきます。
さらに、パレスチナの地にユダヤ人国家を建設しようという「シオニズム運動」にも光を当てていきます。実はシオニズムは、伝統的なユダヤ教の教義とは異質なものだというのですが……。この部分も、まさに必見です。
そして、鶴見先生が講義最終話で強調されるのが「ユダヤ人の多様性」です。われわれはともすれば「ユダヤ人」と一括りに考えてしまいがちです。しかし、それがいかに間違いかを様々な例で論証くださるのです。
強硬な姿勢を崩さないネタニヤフ政権に対する、イスラエル国内での大規模な反政府デモ。アメリカのユダヤ人の「イスラエル観」もけっして一枚岩ではないこと……。
「ユダヤ人だから」と決めつけるのではなく、歴史的経緯と、内在する多様性に注目すること。それによって、深く正しい理解に到達できます。
いま私たちが直面している「分断」や「偏見」を乗り越えるための「教養」の姿が浮かび上がってくる講義です。ぜひ、ご覧ください。
(※アドレス再掲)
■今を知る講義まとめ:ユダヤ人とは何か?
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=287&referer=push_mm_feat
◆鶴見太郎先生:教養としての「ユダヤ人の歴史とユダヤ教」(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=6195&referer=push_mm_rcm7
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テンミニッツ・アカデミー編集部