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安倍談話は「おわび」の主語を「私」にしなかった

戦後70年談話所感(4)おわびと歴史修正主義への懸念

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/明治大学研究・知財戦略機構国際総合研究所特任教授
情報・テキスト
内閣総理大臣談話の閣議決定に当たっての記者会見(2015年8月14日)
首相官邸ホームページ(http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/actions/201508/14kaiken.html)より
毎日新聞2015年8月13日(木)朝刊に、「戦後70年首相談話に望む(4)負の歴史 向き合って」と題して、歴史学者・山内昌之氏のインタビューが掲載された。聞き手は政治部松本晃記者。ここで山内氏が触れたことは、どの程度談話と照応しているのだろうか。(全4話中第4話目)。
時間:10:55
収録日:2015/08/19
追加日:2015/09/14
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≪全文≫

●「おわび」は首相談話に適切に盛り込まれたか


 皆さん、こんにちは。

 今日は、引き続き戦後70年に関する首相談話について考えてみたいと思います。毎日新聞社が私に事前に尋ねたインタビューの中に、「過去の首相談話にあった『おわび』が盛り込まれるかが注目されています」という問いがありました。それに対して、私はこう述べました。そのまま読み上げます。

「最終的には政治家が判断することだが、報告書では侵略と植民地支配にきちっと触れた。今の日本はその反省に基づいて戦後70年努力し、国際平和に著しく貢献する国家として毎日を生きている。それ自体が反省と謝罪の大きな現れだ。韓国を例に取れば、1998年の金大中大統領と小渕恵三首相の日韓共同宣言で、ともに未来志向になると信じたが、政権交代のたびに韓国世論の際限ない厳しさが出てくる。侵略、統治された側の痛みに少しでも近づく努力は当然だが、日本だけでなく、中国・韓国も歩み寄ってほしい。理解や歩み寄りを示してほしい。和解は『被害者』側にも赦すという寛容な姿勢がないと成立しない」


●「おわび」の主語を「私」にしなかった安倍談話


 「おわび」について、安倍首相はこのように語りました。

「我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました」

 内閣という公式の立場において、安倍首相が村山談話や小泉談話を受け継ぎ、強い言葉で反省とおわびを明言しているわけですから、今回「おわび」が入っていないという表現は当たらないと思います。

 しかし、二つの談話では主語が「私」と明記されていたのに、安倍談話ではされていません。この点は、おそらく今後も安倍談話に対して中国や韓国が批判する根拠になる。すなわち、安倍首相は本当にそのように思っているのかどうなのかといったレベルの批判や難詰です。

 この際、安倍首相は決然と主語を「私」として、明確に首相の信念の許す枠内で「侵略」の提議や範囲、「おわび」の相手や対象についても誤解を残さないようにした方がよかったのではないかというのが、私の印象と感想です。


●アジア諸国からの高い評価と平和維持への願い


 しかし、首相はこう述べています。

「その思いを実際の行動で示すため、インドネシア、フィリピンはじめ東南アジアの国々、台湾、韓国、中国など、隣人であるアジアの人々が歩んできた苦難の歴史を胸に刻み、戦後一貫して、その平和と繁栄のために力を尽くしてきました。こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります」

 こうした安倍首相の談話に対して、14日夜のうちにフィリピン外務省は、「戦争の惨禍を繰り返さないとする日本に同意する」と論評し、談話を評価しました。インドネシア外務省の論評は、「高く評価する。インドネシアはアジアのすべての国に平和維持への貢献を果たすように求める」というコメントを出しました。

 あえて申しますと、「アジアのすべての国に平和維持への貢献を」という表現は、さながら日本の過去を断罪することで、むしろ現在の東シナ海や南シナ海において近隣諸国の安全保障を脅かしている中国に対して呼び掛けたかのようにさえ思えるコメントでした。


●「悔い改め」へと一歩踏み込んだ安倍談話


 シンガポールの政府系チャンネルは同時通訳で安倍首相談話の発表光景を中継し、キーワードの「深い反省」と「心からのお詫び」が含まれたことを繰り返し報じたと伝えられています。

 しかも、村山談話と安倍談話は「痛切な反省」と「お詫びの気持ち」という表現では共通しており、英語では “deep remorseと”いう言葉を使っています。さらに安倍首相は、「先の大戦への深い悔悟の念(deep repentance for the war)」という表現を加えたことで、内外の識者や政府によって注目されています。

 これは英語国民にとって、「反省」よりも深刻な意味があり、「過去の非を悔い、行いを改める」という「悔い改め」を指すことが多いとされます。

 この表現は戦争責任に対する認識を示したものであり、これによって、「日本が受け身ではなく主体的であることを示し、日本が戦争の犠牲者や傍観者ではないことを表している」という、MIT(マサチューセッツ工科大学)のリチャード・サミュエルズ教授によるコメント(『日本経済新聞』8月15日朝刊)は、安倍談話がバランスの取れたものではないかということを言おうとしていて、評価しているわけです。


●最後の質問は「歴史修正主義者」への懸念


 最後に、毎日新聞の記者は、私に「首相は『歴史修正主義者ではないか』と懸念されています」と問い掛けました。それに対して、私は次のように答えています。

「日本は平和国...
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