●GDP統計海外部門の貯蓄投資差額で分かる各国の経常収支
経済の研究者をやっていると、いろいろなデータを見る機会が多く、変な話ですがあまりにもたくさんのデータを見させられるので頭が混乱することがあります。しかし、非常にベーシックなデータをじっと見ていて、たまに考えさせられることがあります。
そのようなデータの一つにいわゆるSNA統計(System of National Accounts、国民経済計算)、つまりGDP統計の中に出てくる部門別の貯蓄投資額のデータがあります。部門別というのは大きく分けて、企業部門と家計部門と政府部門に海外部門、この4つです。その部門で1年間に貯蓄がどれだけあって、その中でどれだけ投資に使われたか、その貯蓄と投資の差額、これは非常に分かりやすい言い方をすれば余剰貯蓄のようなものですが、これをGDPで割った数字が主要国間で比較されているのです。
例えば、海外部門の貯蓄投資差額のGDPで割った数字は、日本の経常収支を表しています。日本の経常収支、ドイツの経常収支、アメリカの経常収支、あるいはイギリスの経常収支を見たければ、海外部門の貯蓄投資差額を見ればいいのです。日本はGDPに対してプラスの経常収支を持っているわけです。
●意外にも英米より低い日本の財政赤字GDP比
私が考えさせられたのは、財政、つまり政府部門の貯蓄投資差額です。日本の貯蓄投資差額はマイナスで、いわゆる日本の財政赤字を表しているのです。つまりマクロデータにとっての財政赤字を表しており、当然日本は財政問題、大きな財政赤字を抱えているということです。これは分かっていたことではあるのですが、データを見て今さら考えてしまったのは、現時点でおそらくアメリカやイギリスよりも日本の財政赤字のGDPに対する割合が低いことです。確か、日本はGDP比3.5パーセントほどです。
なぜこういうことを思ったのかというと、実は日本の政府は膨大な債務を抱えていますから、債務に対して利払いが働いています。それを除いた、いわゆるプライマリー・バランスの赤字を見ても、GDPで3.2あるいは3.3パーセントあるわけです。ですから、それを両方合わせたら、日本の赤字はGDPの4~4.5パーセントくらいあってもおかしくありません。実際に財政収支として時々出てくるのは、このあたりの数字なのです。
●3項目で分かる日本の財政収支の赤字幅が小さいわけ
ところが、マクロのデータで見ると、GDP比3.5パーセントくらいしかないというのはなぜか。実はマクロで見た政府部門の貯蓄投資バランスは、3つの項目から成っていて、1つ目は(先述しましたが)今、世の中で非常に話題になっているプライマリー・バランスの赤字です。これは政府が一生懸命、財政改革や経済活性化策を行ってきて、かつてはGDP比6パーセントあった財政赤字、プライマリー・バランスの赤字を今、3.2パーセントくらいまでに持ってきたわけです。でもまだ3.2パーセントの赤字があります。2つ目は、いわゆる国債の利払いに関するものです。つまり、政府は膨大な国債を抱えていますから、これに対して利払い、あるいは国債費といえばいいでしょうか、これが財政赤字の2つ目の要素です。
そして、もう1つですが、それは何かというと、いわゆる社会保障基金といわれているものです。われわれ国民は医療や年金に対する保険料を払っていて、これが政府の財政に対して収入になります。そして、医療、年金、介護などの保険収入から支払いが行われており、それが支出となるのですが、この(収入と支出の)差額が結構、黒字になってきているのです。
これを全部合わせると、日本の財政収支はまだ赤字なのですが、実はアメリカやイギリスに比べても若干、赤字幅が小さいという状況なのです。
●非常に低い国債の利回り
もう1つ驚くべきことは、国債の利払いが非常に低くなっていることです。これは当たり前のことで、日銀がこれだけ低金利政策を取っているわけですから、それと連動した形で国債の利回りは非常に下がっています。この時点(2017年7月)では10年ものの国債の利回りはほとんどゼロに近いわけですから、理論的に考えると、今の政府が借金の一部を国債償還という形で借り換えると、事実的にはゼロパーセント、つまりまったく利子を払わずに借金ができるという状況なのです。
現実に今の国債に対する利払いは、過去に1パーセント、場合によっては2パーセントともっと高い金利の時に借りた国債がまだ残っていますから、こういうものを全部平均した利回りなのです。ただ、現時点で政府が負担している全ての国債の平均利回りは、おそらく1パーセントを切るような状況になってきていると思います。私が見たのは、国債と地方債の利払費は大体、8兆円から9兆円くらいの間という数字です。日本政府の国債と地方債の残高がどれぐら...