●ノーベル経済学賞で注目を集める行動経済学
行動経済学は最近、一般のメディアでも盛んに取り上げられています。かなり多くの人が関心を持ち、面白い本もたくさん出ているので、勉強している方も多いと思います。経済学の世界でも、これは非常に重要な分野です。
イスラエル出身の心理学者でもあるダニエル・カーネマン氏が、2002年に行動経済学で第1回ノーベル経済学賞を取って、非常に注目されました。さらに2017年は、シカゴ大学のリチャード・セイラー教授がやはり行動経済学でノーベル賞を取ったので、非常に注目されている分野だと思います。
セイラー教授は私が留学したロチェスター大学で何年か先輩でした。当時キャンパスの中で飄々と歩いていたのをよく覚えています。まさか将来ノーベル賞を取る学者に成長するとは思わなかったですが、非常に印象深い人です。
●合理性を重んじる伝統経済学の枠からはみ出す意味
行動経済学は何が面白いかというと、いわゆる古典的・伝統的な経済学との違いです。伝統的経済学では合理性を非常に重んじ、人間は合理的に行動するということを前提にして、いろいろな議論が組み立てられています。
もちろんこれには理由があります。仮に人間の行動がいちいち合理性にかなうとは考えないとしても、合理性から右や左に外れる人が出てくる中、全体で見れば大衆の行動は大方真ん中あたりになっているはずであると見ると、いろいろなことが読み取れるわけです。
例えば、マクドナルドで200円のハンバーガーを売っているとします。200円のお金を出してハンバーガーを買う人は、そのハンバーガーに200円以上の価値を見出しているから買うわけです。「自分はこのハンバーガーを食べることに100円程度の価値しか認められない」と言いながら、200円払ってハンバーガーを食べるようなことは、あり得ません。
そういう意味で見ていくと、実際に行われている価格や需要、供給の裏側に、人々がそれをどう評価するか、あるいは企業がそれを作るためにどれだけコストがかかっているかということが読み取れるため、そこから経済の深い分析が起こるのです。
そういう意味では、今でも合理性に基づいた経済学が基本ではあります。ただ、そういう中で、カーネマン教授やセイラー教授が非常に説得的な議論を展開しているのは、「そうはいっても、人間には癖がある」とい...
(リチャード・セイラー著、キャス・サンスティーン、遠藤真美翻訳・日経BP社)