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ローカル・トゥ・ローカル-地方を結ぶ新ビジネスモデル

ハブ・アンド・スポークからローカル・トゥ・ローカルへ

伊藤元重
東京大学名誉教授
情報・テキスト
東京や大阪などの大都市を介さず、直接世界とつながる。あるいは地方どうしが直接手を結ぶ。これからの地域の発展・活性化・自立のカギを握るのは、「ローカル・トゥ・ローカル」だと語る学習院大学国際社会科学部教授・伊藤元重氏。もう大都市一局集中の時代ではない。そのとき、世界はどう変わるのか?
時間:10:32
収録日:2016/08/25
追加日:2016/09/21
≪全文≫

●地方と地方を結ぶ新しいビジネスモデル


 先日、夏休みということもあって、家内と北海道の北方にある利尻島と礼文島に行きました。礼文島は高原の花が非常にきれいで、トレッキングもでき、素晴らしい。食べ物もウニやその他の海産物が非常においしいところで知られています。そこで地元の旅館の経営者がおっしゃっていたのは、礼文島はやはりお金に多少余裕のある人でないと来にくいのではということです。というのは、礼文島に行くには稚内まで飛行機で飛び、そこからまたフェリーで2時間ほどかけて港に着くという形になるため、ある意味、観光地として日本の中心地域から非常に遠いわけです。だから素晴らしいということもあるのですが。

 ところが、非常に面白いと思ったのは、礼文島にバスが2台、約100人の人が来て観光しているのですが、そのバスがFDA(フジドリームエアラインズ)という静岡県の鈴与株式会社がやっている航空会社だったことです。ここがチャーターツアーを仕立てて、約100人の参加者を松本空港から稚内までFDAの飛行機で運び、そこから貸切バスで礼文島や利尻島を回るという形なのです。

 なぜこれが面白いかというと、長野県の松本あたりから礼文まで従来の通常ルートで来ようと思うと、まず中央線の特急に乗って新宿まで約3時間。そこから羽田へ移動して、結構値の張る基幹線の全日空で稚内まで飛ぶという形でした。ところが、フジドリームエアラインズに乗ると、チャーターですから非常に安い料金で、松本から一気に稚内に来られるという形になっているわけです。これは実は、航空業界の人たちの言葉でいう「ローカル・トゥ・ローカル」とか「ポイント・トゥ・ポイント」という動きになっていると思います。

 なぜこれが可能になったかというと、一つはやはり航空自由化がどんどん進んで、いま申し上げたFDAのような新しい会社が数多く出てきたことがあります。それから、それをうまく利用するために、地方空港がそれにうまく乗っかりながらやってきたということです。これは今後の日本の経済を考えてみるときに、非常に重要な点だと思います。

 今、地方空港は、どちらかといえば空きが多いのですが、先ほどお話ししたように、例えばチャーター便を使い、地方と地方を結ぶことによって、これまでとは異なるビジネスモデルが出てくる可能性が生まれてきているということです。


●ハブ・アンド・スポークとローカル・トゥ・ローカル


 このローカル・トゥ・ローカルは、実はグローバル化に関してもいわれていることです。昔は飛行機の航空ビジネスというと、ハブ・アンド・スポークが中心でした。日本でいえば成田空港・羽田空港に全国から飛行機や鉄道がやってきて、そこから大量の人を乗せて、ニューヨークや上海やフランクフルトなどに飛び、そこからまたローカルに行く。ハブの間を大きな航空路線で結び、そこからそれぞれの地域でスポークに広げていくというのが、一番効率的な航空の在り方だといわれてきました。

 確かにそういう面はありますが、一方ではこれには大きな不便もあります。例えば、先ほどの信州の人の場合、特急などで羽田まで来て、そこから稚内まで飛んで、そこからまた移動しなければなりません。ですから、もし自分の住んでいる松本の空港から稚内まで直接行ければ非常にありがたいのです。

 したがって、航空業界でも、より規模の小さな飛行機でローカル・トゥ・ローカルを飛ばそうという動きが非常に伸びてきているのです。日本の地方空港と、例えば中国や東南アジアのいろいろな空港を結ぶ直行便も、非常に増えています。地方の経済を活性化させる上で、ハブを介した関係ではなく、むしろポイント・トゥ・ポイントで国内や海外をどう結び付けていくかが、非常に重要なポイントとなります。

 航空業界の流れを見ても、実はこれは非常に重要なポイントです。アメリカを起点として、20~30年前から航空の自由化が起こってきました。航空の自由化で料金が自由になり、参入が自由になりました。そこでアメリカで何が起こったかというと、格安航空会社がどんどん参入してきたので、非常に入り乱れた競争になり、ほとんど成功しませんでした。私がまだ若い頃、アメリカにはピープル・エキスプレスという、当時は一世を風靡した格安航空会社が登場して、一時はずいぶん話題になりましたが、もう今はどこに行ったか分からないような感じになっています。

 結局、何が起こったかというと、そうした再編を通じて、結果的には、現在のデルタを中心としたグループ、ユナイテッド航空を中心にしたスターアライアンス、アメリカン航空を中心とするワンワールド、この3グループにほぼ統一されて、それぞれがハブ空港を中心に展開する形になったわけです。例えば、アトランタの空...
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