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栄枯盛衰が激しい業界で、百貨店が生き残っている理由

日本の百貨店(1)食料品と化粧品売場に見る百貨店の強み

伊藤元重
東京大学名誉教授/学習院大学国際社会科学部教授
情報・テキスト
構造不況といわれてきた百貨店のビジネスが注目されている。これまでの主力だったアパレル不況を乗り越え、新しい主役に躍り出たのは食料品と化粧品。今、百貨店の店頭で何が起きているか。学習院大学国際社会科学部教授の伊藤元重氏にご解説いただく。(全2話中第1話)
時間:11:25
収録日:2017/11/27
追加日:2018/01/10
≪全文≫

●旧態依然?余裕綽々?百貨店に今、起きていること


 今回は少し変わったテーマでお話をしてみたいと思います。それは、日本の百貨店についての見方です。

 ご案内のように1991年にバブルが崩壊してから、百貨店はどんどん売上が落ちてきて、業界再編はもちろん進んだものの、どちらかといえば構造不況業種のようにいわれています。

 世界的に見ると、ユニクロやZARA、H&Mのようなファストファッションがどんどん拡大しています。日本でいえばコンビニエンス・ストアがどんどん売上を伸ばし、また最近ではアマゾンに代表されるeコマース(電子商取引)が伸びてくる中で、旧態依然としているように見える百貨店はなかなか厳しいものがあるというのはその通りです。

 しかし、よく見てみると、百貨店の変化の中にはいろいろ面白い動きがあると思います。そこで今回は、今、百貨店に何が起きているか、百貨店をどう見たらいいかということについて、少し詳しくお話ししてみたいと思うのです。


●栄枯盛衰に洗われた老舗としての「日本の百貨店」


 日本の百貨店は、非常にユニークな存在だと思います。今、日本を代表する百貨店である三越伊勢丹、高島屋、大丸、名古屋の松坂屋(現在は大丸松坂屋の一部で、J.フロントリテイリング傘下)などは全て、創業後何百年もたっている企業です。江戸時代にできた店が現在までずっとつながっており、しかも戦後ずっと伸びてきたわけです。

 一般的に、小売業は栄枯盛衰の非常に激しい業態になります。例えば、ダイエーは終戦後に中内功氏が始めた企業ですが、それから30年近くたった1972年に三越を抜いて、当時の日本最大の売上を上げました。約30年で日本一にのし上がったわけです。さらに、その後約30年たった2000年代前半にダイエーは消滅して、イオンの傘下に入りました。30年で急成長して、30年で吸収されてなくなってしまうという、非常に激しい動きを見せた事例です。

 成長という意味で見れば、今日本で話題になるような企業、例えばユニクロを運営するファーストリテイルや楽天、ニトリなどは、この30年ほどの間に急速に成長した企業です。一方、30年ほど前に日本で大店法(大規模小売店舗法)を撤廃する強力な圧力をかけ、世界のあちこちで破竹の勢いで伸びていた米トイザらスという玩具店は、2017年9月に破産申請を出しました。

 一般的には非常に栄枯盛衰が激しいにもかかわらず、何百年も続く百貨店がいまだに残っているというのは、何なのか。言い換えると、時代の変化の荒波を受けながらも、したたかに生き残っている特徴が、何かあるというべきでしょう。


●日本の百貨店は、世界的に高い売上高を誇っている


 それに加えて、さらに面白いことがあります。例えばアメリカでは、百貨店に類似した業態は、全小売業の1.2パーセントほどの割合しかありません。われわれが名前を知っているメイシーズやブルーミングデールズ、ノードストロームなどを全部合わせても小売業の売上の1.2パーセントぐらいしかないのです。

 日本の百貨店の売上は、全小売業の中で約4.2パーセントあり、非常に健闘しています。しかも1店舗当たりの売上が1,000億円以上の店が、日本には約10数店舗あるのです。

 これも実は驚異的なことです。例えばフランスに何店舗の店があるか分かりませんが、パリで売上が1,000億円(日本円で)を超えるかどうかのお店はおそらく2~3店舗ぐらいでしょうし、イギリスではロンドンのハロッズが超えられるかどうかというところでしょう。そういう意味でも、日本の百貨店は非常にユニークな存在です。

 なぜそうなのかについては、いくつかのポイントがあります。日本は非常に都市型の社会で、特に東京・大阪・名古屋を中心とした巨大な都市経済ができています。そこでは膨大な数の人が鉄道を利用して移動しており、そういうところに巨大な商業の流れがあるということが、一つの大きなポイントだと思います。


●「消化仕入れ」という百貨店ビジネスの慣習


 もう一つ、百貨店のビジネスが他と違うのは、「ベンダー」といわれる、商品のメーカーや問屋などの業者に依存した商売の仕方をしているところです。

 ユニクロやニトリのようにSPA(製造小売業)と呼ばれる新興勢力を見れば分かります。彼らは実際のモノの開発・生産・流通を全部自社で運営して、自社の店で売っています。つまり自社で開発した商品を売っているために利益率が高いわけですが、逆にそれだけのリスクも取っています。

 一方、百貨店では、アパレルや化粧品や食品などのメーカーが開発した商品を、百貨店と連携して売っています。例えば、百貨店のビジネスには「消化仕入れ」といわれる表現があります。

 いろいろなメーカーが百貨店の店舗に商品を置きますが、置いた段階では百貨店...
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