●社会保障の財源は確保できず、効率化が不可避である
これまでに話したことが高齢化の問題であり、また社会保障の問題がいかに深刻かという話をしてきました。また、そうしたこととともに人口の変化が起こってくるということをご説明してきたわけです。
それでは、それに対してどのような形で、対策を講じたらいいのでしょうか。当然ですが、社会保障費の支出はどんどん増えてきています。それに対し、どうやって、高齢化対策として有効な政策が立てられるのでしょうか。そして、政策としては「こうすればいい」というアイデアが出るかもしれませんが、実際にそれを社会の制度として実現していくとはどういうことなのでしょうか。そうしたことについて最後に触れたいと思います。
私たちの社会は、高齢者のために随分、社会保障のお金を使っています。他方、生産年齢人口が減ってきていますから、それを賄うため、それに充てるための税収も含めて財源は、だんだん乏しくなってきています。したがって、このまま続けていくと、わが国の財政、社会保障は持続できなくなってきます。それを持続可能にするためにはどうするかといいますと、できるだけ入ってくる財源を増やすという努力が必要なのですが、これも生産年齢の人口が減ってきますとなかなか難しい。他方で高齢者は増えてきますから、自然に社会保障費の支出が増えていきます。これをどのように抑制するかも課題になってきます。
社会保障費の支出を抑制し、一方で若い世代にその負担を増やしていくことになると、わが国の財政はますます持続可能性を失うことになります。ですから、持続可能な財政、その社会をつくっていくためには、できるだけ社会保障の支出を抑制し、サービスの効率化をしていくということになります。
●現在の政治制度では、意思決定構造が高齢化する
同時に若い世代の人たちをエンカレッジし、支えるような形での政策をつくっていかなければいけません。それが社会を持続可能にするために必要ですが、それが可能かといいますと、結論からいって、現在の人口構成と、現在の制度を前提にしている限り、なかなか厳しいものがあるといわざるを得ません。
どういうことかといいますと、「意思決定構造の高齢化」と書きましたが、スライドは総人口の中に占める有権者の割合と、有権者の中に占める年齢別の人口の割合を表しています。2016年に2つ書いてあり、実績と将来と、そして新制度、旧制度と書いてあります。お分かりのように、2016年から投票年度が18歳に引き下げられました。若い人たちの政治参加が増えたといえるわけですが、それも含めてどれくらい人口構成として効いているか、若い人たちの政治的な発言力がどれくらい有効なのかを、この表は表しています。
総人口中の有権者の割合ですが、子どもの世代が多かった時には、例えば1965年では63パーセントしかいませんでした。つまり、少なくとも37パーセントは二十歳未満だったのです。それがだんだんと増えていき、2016年以降の将来推計で2065年までに約83パーセントになっていきます。つまり、人口に占める有権者の比率が多くなってくるということです。政治参加もそれだけ広がるといえるのかもしれません。
ただ問題はその中身の方です。年齢でいうと、1965年では65歳以上人口の有権者に占める比率はわずか10パーセントでした。すなわち有権者のうちの10人に1人が65歳以上だったわけですが、それが2016年になるとほぼ3分の1、つまり3人に1人が65歳以上になります。これが2040年、そして2065年になると41.5パーセントから44.7パーセントですから、10人のうち4人、あるいはほぼ2人に1人が65歳以上に近くなってくるということになります。
当たり前の話ですが、それぞれの世代ごとに自分たちの利益に対する考えを持っていますので、それを実現してくれる政党に投票します。政党も、当然ですが、政権の座について、自分たちのマニフェストに書いた政策を実現しようとするならば、多くの支持を得て、多くの得票数を獲得し、多くの議席を占めることが重要になります。そのためには多くの支持が得られる政策をマニフェストで宣言することになります。そうすると、これは明らかなことですが、65歳以上の人にとって利益になることを表明して、選挙に打って出ることが、政党としても一番得票率を増やす可能性が高くなります。
少し古いですが、こちらは2009年の衆議院選挙における年齢別の投票率の違いを表したものです。これは将来変わる可能性もあると思いますが、戦後の選挙でいうと、だいたい次のような傾向が見られます。投票率は、20代、30代の人が低く、他方、60代以上になりますと(このグラフでは55歳以上...