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田中新兵衛とリヒトホーフェンが教える「美しい生き方」

「葉隠武士道」を生きる(2)「自己責任」と「運命への愛」

執行草舟
実業家/著述家/歌人
概要・テキスト
武士は刀を抜くべき場所で抜かなければ「武士道不心得(ふこころえ)」と後ろ指をさされ、お家断絶にもなりかねなかった。逆に、刀を抜いてはいけない場所で抜いても「お家断絶」である。時と場合を、絶対に間違えない「覚悟」が武士には必須であり、「すべてを自己責任で生きる」あり方を徹底していた。同様に、「自己責任」の生き方を徹底していたのが「騎士道精神」である。「武士道」と「騎士道」は、その点で人類の頂点ともいえる精神文化であった。そして、そのような「死と隣りあわせ」の『葉隠』的な考え方は、そのまま「運命への愛」に結びつく。(全12話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:15:30
収録日:2021/04/08
追加日:2021/07/16
カテゴリー:
≪全文≫

●田中新兵衛はなぜ、いきなり切腹したのか


―― 前回の「武士道の神髄」の講義で非常に印象深かったのも、切腹とは子孫にその家をつなぐこと、というお話でした。切腹して責任を取ることによって、ある意味で永遠に家を生かす意味があった。

執行 それは今言った理論のプラスアルファの結果論です。根本にあるのは「武士とは自分を殺すために生きている」という思想です。だからそれを実践した人は「武士らしい」ということになる。「武士らしい」と認められることで家が繁栄し、たとえば殿様から家を加増されたりする。

 江戸時代は切腹して死ぬことによって家が存続したり、いろいろないいことがあった。逆にいうと悲劇もあって、歴史上伝わっているのは、敵討ちをできなかった場合、家は断絶です。

 一番厳しいのは、武士は戦う集団だから、たとえば事故で死ぬなど刀を抜かないまま、戦う姿勢なくして死んでしまえば、「武士道不心得」となり、お家断絶です。そういうことが、結果論としてあります。

―― 背中から斬られるとか。

執行 一番ダメです。

―― 要するに逃げて斬られたと。

執行 そうとられるのです。必ず正面を向いて、刀を抜いていないと。だから私の好きな『鬼平犯科帳』では、辻斬りで死んだ武士がいると、鬼平が寄っていって刀を抜いてあげます。ああいうのが本当の「武士の情け」です。刀を抜かずに死ぬと、武士武士として認められない。それがお家断絶にもつながるのです。

 また厳しいのが、松の廊下も有名ですが、刀を抜いてはいけないところで抜いたら切腹になる。これもまた、お家断絶です。

 そこが戦争や暴力といったものと武士道との一番の違いです。武士というものは、死ぬための修練をする。それから、刀を使っていい場面と悪い場面についての一生涯にわたる仕分けを、絶対に迷わずにやる。命のやりとりをいつでもできる人間になる。それが、武士の修練なのです。

―― 時と場合を間違えない。

執行 絶対に間違えないということです。そのための修練で、それが『葉隠』に書かれている。だから間違えたら、それは「不覚」といって、その人の責任で死んでいただく。それも不名誉に。それは仕方がない、ということです。

―― つまり自分の行動にすべての責任を取る。

執行 責任ということでは、世界の頂点です。騎士道もそうです。武士道もそう。では『葉隠...
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