10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
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「天道と国体」の関係は「普遍と特殊」

吉田松陰の思想(下)松陰の思想の中核(4)同と独の調停

中島隆博
東京大学東洋文化研究所 副所長 教授
情報・テキスト
吉田松陰と金子重輔
東京大学東洋文化研究所教授・中島隆博氏は、吉田松陰の思想の内には、現在の世界情勢に通じる側面があると分析する。各国が持つ特殊性を尊重しながらも、そこからどうやって万国共通の普遍性を見出していくか。『講孟余話』を引きながら、松陰がたどり着いた「普遍と特殊」問題について中島氏が語る。シリーズ「吉田松陰の思想」第9回。
時間:11:06
収録日:2015/02/26
追加日:2015/08/10
吉田松陰と金子重輔
東京大学東洋文化研究所教授・中島隆博氏は、吉田松陰の思想の内には、現在の世界情勢に通じる側面があると分析する。各国が持つ特殊性を尊重しながらも、そこからどうやって万国共通の普遍性を見出していくか。『講孟余話』を引きながら、松陰がたどり着いた「普遍と特殊」問題について中島氏が語る。シリーズ「吉田松陰の思想」第9回。
時間:11:06
収録日:2015/02/26
追加日:2015/08/10
≪全文≫

●松陰は「誠」を原理として据える


 性善の議論にもつながってくるもので、「誠(まこと)」という概念があります。松陰はそれを大変重んじており、「誠」に関してこんなことを言っています。

 “根本にさかのぼって考えてみるのに、人間にとって本質的なものはただ一つ誠である。この誠をもって、父につかえれば孝となり、君につかえれば忠、友に交われば信となる。同様に名称は千百と異なっても、つまるところ一つの誠に帰するのである。”

 松陰は、非常に原理的な思考ができてしまう人なのですね。現象はいろいろと異なって見えるかもしれないが、しかしそれは、根本的な原理(この場合は「誠」)に帰着させることができるということです。そこから見ると、彼にとってはそれが批判の根拠になっていくわけです。ただ「誠」であればいいとぬるいことを言っているわけではなく、「誠」を原理に据えるというところまで、思索を深めることを要求するわけです。朱子学や陽明学も、「誠」に関して非常に形而上学的な議論をしていきますが、その点を思想の強度において継承していきます。そういったことが、松陰はできたのだろうと思います。それを自分なりに咀嚼して、自らの原理として使っていったのだろうと思います。


●「独」と「同」


 もう一つだけ、『講孟余話』からお話ししようと思います。大事な部分なので、長く読みたいと思います。

 孟子が食べ物の話をしている部分があります。食べるということは、哲学的に重要なテーマなのです。こう言っています。

 “膾炙(かいしゃ、※1)のように世間一般の人が好んで食べるものを食べ、羊棗(ようそう、※2)のように特に好きな人しか食べないものは食べない。姓(かばね)のように共通のものははばからないが、名のように特定の人にかぎられるものははばかる。これが孟子の考え方である。孟子が道を論ずる論じ方は、じつに精密だといわなければならぬ。この問題をもう少し拡げて詳しく説明させてもらおう。”
 ※1:なますと、あぶり肉のこと。
 ※2:なつめのこと。

 そして、こう続きます。おそらくここがポイントだと思います。

 “道は天下公共の道であるから、いわゆる同である。国体は一国の独自のあり方を示すものだから、いわゆる独(※)である。君臣・父子・夫婦・長幼・朋友の五者は、天下に共通の関係であるから同である。一方、わが皇国において、君臣間の義が万国に卓越しているごときは、わが国の独自性を物語るものであるから独である。[中略]全世界五大洲に共通する公共の道があり、またその中の一洲にはそれぞれ公共の道があり、皇国、漢土、諸属国にも公共の道があり、皇国内の六十六カ国にも公共の道がある。これらはみな、いわゆる同である。”
 ※特異なもの、独自なもの。

 こういうものの見方をしています。ところが、こう言っています。

 “一方、独についていうならば、一家の道は隣家と異なり、一村・一郡の道は隣村・隣郡と異なり、一国の道は隣国と異なるということがある。[中略]一国にあっては、その国の法を順守し、皇国にあっては皇国の国体を尊敬する。そうしたうえで漢土聖人の道を学ぶのもよかろうし、釈迦の教えを聞くのもよかろう。皇国のことを学ばなければならないのはいうまでもない。

 水戸学の人びとがいうように、漢土はじっさい日本と風俗・気象も似ているから、道もたいへん共通するところがある。ただヨーロッパ、アメリカ、アラビアの諸洲になると、土地も遠く隔た...
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