テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
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DATE/ 2016.06.06

第11回 おらび声

 ねず美ちゃんがうちに来てから姿を見せなかったキューちゃんが、ひょっこり現れました。

 美子ちゃんが牧さんから聞いた話では、キューちゃんは牧さんちにもしばらく帰ってこなかったそうで、久し振りに帰ってきたキューちゃんは、まったく違う猫じゃないかと思うくらい大きくなっていたそうです。

「まったく違う猫」というのはちょっとオーバーじゃないかと思っていたのですが、しばらく振りで見るキューちゃんは、確かにまったく違う猫になっていました。庭から中をうかがうようにジッと見ているキューちゃんは、顔がまん丸で、少し怖い顔になっていました。

Before ねず美ちゃんが来る前のキューちゃん。


After まん丸で怖い顔になったキューちゃん。


 猫って短期間でこんなに豹変するものかと思っていたら、ねず美ちゃんもこれまでとは違った反応をするようになりました。

 ねず美ちゃんはあまり鳴かない猫だったのですが、急にミャーミャー甘えるような声で鳴くようになりました。いつもネズミのように部屋を走り回っていたのに、やたらぼくや美子ちゃんの膝に乗ってきてゴロゴロいったり、ベタッと伏せてお尻をモジモジさせたりするようになったのです。

 それから1ヵ月ほどすると、夜になるとウニャ~ン、フンニャァ~、アンギャァ~とか、ヘンな声で鳴くようになりました。猫が発情して鳴く声を「おらび声」と言うそうですが(「おらぶ」とは、どこかの方言かもしれません)、そのおらび声がびっくりするほど大きいのです。

 あまりにもうるさいので、2階のぼくの部屋に猫トイレを運んで、夜はそこに閉じ込めることにしました。近所迷惑だし、ぼくらも眠れないので、ちょっと可哀想ですが仕方がありません。

 昼間はおらび声をあまり上げません。それでも体がムズムズするらしく、お腹あたりをナデナデすると、気持ちよさそうに目を細めて絨毯の上でゴロゴロ転げ回ります。夜になると、体をベタッと床にくっつけ、お尻を持ち上げ、後足でフミフミを始めます。そしておらび声を上げます。

 尻尾のつけ根あたりに手を置くと、おらび声が弱まることを美子ちゃんが発見し、100円ショップで赤ちゃん用の小さなオムツを買ってきて、ねず美ちゃんに穿かせてみました。すると、おらび声が弱くなったので、それからはいつもオムツを穿かせることにしました。

オムツをしたねず美ちゃん。目が悩ましい。


 オムツをしたねず美ちゃんが、後足をヒョコヒョコさせているのは可愛いのですが、なんだか目がうるんでいるようで、子猫というより女っぽく見えます。いままであんなに走り回っていたのが嘘のように、もの思いにふけっているような表情を見せるときもあります。

もの思いにふけるねず美ちゃん。


 ある日、美子ちゃんの友達が遊びに来て、おらび声を上げているねず美ちゃんを見て、「オトコが欲しい!って、ほんとにストレートな感じだね~」と言っていたそうですが、人間に比べれば動物の本能は素直なものです。猫は年に1、2回ですが、人間は年中発情しています。人間のほうがおかしいのです。

 ねず美ちゃんは、うちに来てわずか3ヵ月でおらぶようになりました。春はまだ少し先の1月半ばのことでした。

第1回 マキ・キュー

第2回 猫の駆け引き

第3回 ネズミのような猫

第4回 黒ホッカおじさん

第5回 騒々しい庭

第6回 猫に話しかける

第7回 チーコ物語

第8回 猫の乗っ取り

第9回 ねず美ちゃんの母性

第10回 猫の癒し