テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
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DATE/ 2016.08.08

第20回 ねず美ちゃん、2度目の出産

 たびちゃんが過保護になったのは、美子ちゃんのせいでもあります。

 たびちゃんを誰にもあげないで残したのは、ねず美ちゃんから子猫を2匹とも引き離すのは可哀想だったからですが、手の先と口の周りが白いたびちゃんが可愛いくて、美子ちゃんが手放したくなかったからです。

 美子ちゃんはたびちゃんのことを特別可愛がっていました。毎日ねず美ちゃん親子がいるところへ食事を運び、たびちゃんを撫でていました。ねず美ちゃんもたびちゃんを可愛がっていたので、たびちゃんはお母さんから片時も離れなくなっていました。

 お正月は、美子ちゃんと湯河原に行きました。その間、ねず美ちゃん親子を美子ちゃんの両親のところに預けるのも心配だったので、日に2回、ゴハンをあげに弟に来てもらっていました。

 弟に電話で様子を訊くと、鍵を開けて入ろうとすると、白黒の猫があわてて飛び出すのを何回か目撃したと言います。黒ホッカくんです。

 黒ホッカくんはたびちゃんたちの父親ではないことがわかって、家から出てもらったのですが、僕らがいない正月の間、うちに上がり込んで寝正月を過ごしていたようでした。

 湯河原から帰ると、テーブルの上に足跡があり、いろんなものがひっくり返っていて、ねず美ちゃんたちのゴハンは全部食べられていました。ソファーには枯れ葉が1枚落ちていて、丸くなって寝た毛の形跡がありました。美子ちゃんはそのソファーの臭いを嗅いで、「浮浪者みたいな臭いがする」と言っていました。

 2月の末になるとたびちゃんは、ねず美ちゃんと変わらないくらいの大きさになり、すぐにねず美ちゃんより大きくなりました。それにつれて、ねず美ちゃんとの仲が悪くなりました。たびちゃんが甘えてねず美ちゃんにすり寄ってくると、いままで見たことがないような剣幕で、たびちゃんを威嚇するようになったのです。

たびちゃんを威嚇するねず美ちゃん。たびちゃんのほうが親猫のよう。

 たびちゃんが大きくなったので、独り立ちさせようとしているのかと思ったのですが、そうではなく、ねず美ちゃんがまた妊娠したのでした。今回はおらび声をあげるでもなく、オス猫が通ってくることもなかったので、「あれあれ」という感じでした。

 ねず美ちゃんは、産まれてくる子どもたちのために、なんとかたびちゃんを親離れさそうとしていたのです。そんなことに気づくわけもないたびちゃんは、いつものようにねず美ちゃんにジャレたり、オッパイに吸いつこうとするのですが、ねず美ちゃんは怖い顔で威嚇します。それに応戦してたびちゃんも威嚇するのですが、またすぐ甘えようとします。

 そんなたびちゃんが可哀想になり、美子ちゃんがたびちゃんばかり可愛がっていると、ねず美ちゃんが嫉妬して、美子ちゃんの膝にいるたびちゃんの頭を叩いたそうです。

 そして、3月3日のひな祭りの前日、僕が会社にいると、昼過ぎに美子ちゃんから「産まれたよ」という電話がありました。「何匹?」と訊くと、「3匹以上だけど、よく見えないから何匹かわからない」と言います。5匹、6匹だったらどうしよう。そんなにもらってくれる人はいるかなぁ。

 家に帰って美子ちゃんに訊くと、ひょいと押し入れの中を見たらたびちゃんがいたので、「あれ? なんで押し入れに入ってるんだろう?」と思ってよく見たら、夏掛けの布団の上に、ねず美ちゃんと産まれたばかりの子猫がいたそうです。キジ柄2匹と黒いのが1匹見えたのだけど、もっといるかもしれないと思って中を見たら、結局3匹だったそうです。

産まれたのはキジ柄2匹と黒猫1匹でした。

 たびちゃんは、ねず美ちゃんが出産したことは理解できないらしく、不思議そうにしていたようですが、新しいねず美ちゃん一家から離れないで、子猫たちといるねず美ちゃんの横に、ピッタリ寄り添っていたとか。ねず美ちゃんがあんなに威嚇したのに、たびちゃんは独り立ちできないまま、産まれてきた子猫たちと一緒に暮らすことになりました。

新しいねず美ちゃん一家を見つめるたびちゃん。


第1回 マキ・キュー

第2回 猫の駆け引き

第3回 ネズミのような猫

第4回 黒ホッカおじさん

第5回 騒々しい庭

第6回 猫に話しかける

第7回 チーコ物語

第8回 猫の乗っ取り

第9回 ねず美ちゃんの母性

第10回 猫の癒し