DATE/ 2016.08.01
第19回 猫はかすがい
蒲生さんにもらわれたボンちゃんは、前回書いたように奥さんがベルと命名し、蒲生さん夫妻に可愛がられているようです。
蒲生さんは、会計の仕事で毎月わが家に来てくれるので、1ヵ月経ってベルちゃんの様子を訪ねてみると、「もう、うちの子になりましたよ」と言って携帯を取り出しました。見ると、ちょっとピンボケだけど元気に遊んでいるベルちゃんの写真が写っていました。そして「うちの奥さんがね、ベルちゃんに優しく話しかけるんですよ。ベルちゃんに話しかけたあと、ベルちゃんに話しかけるのと同じ口調で私にも話しかけるんです」と、ちょっと嬉しそうに話してくれました。
以前はどういう感じで蒲生さんに話しかけていたのかわかりませんが、子猫に話しかけたあと、そのままの口調で蒲生さんに話しかけるのはよくわかります。いきなり口調を変えることはできないし、子猫を見ていると気持ちも優しくなります。そのおかげで蒲生さんの心もなごんで、険悪になることがなくなったのではないかと思います。ベルちゃん効果で夫婦円満になったということですから、僕らも嬉しくなりました。
たびちゃんは臆病で甘えん坊。
もともと蒲生さんも奥さんも、大の猫好きというわけではなかったようですが、飼っているうちに可愛くなり、ベルちゃんが夫婦の「かすがい」のようになっているのではないでしょうか。「子はかすがい」ではなく「猫はかすがい」です。
わが家でも、美子ちゃんと2人だけだったときより、ねず美ちゃんが来てからのほうが喧嘩が減りました。そして、前より家庭的になった感じがします。
僕は人間以外の動物に話しかけるということが苦手で、ねず美ちゃんにもなかなか話しかけられませんでした。美子ちゃんに「ねず美ちゃんに話しかけてよ」と言われて、最初はぎこちなく話していたのですが、だんだん慣れてきました。もちろん、ねず美ちゃんが返事をしてくれるわけではないのですが、じっと僕のほうを見ているので話が伝わったようにも思えます。そうやって話をするようになると、ねず美ちゃんが家族の一員のように思えて、一家団欒のような気持ちになります。
暖かい冬のある日。外には黒ホッカくんも来ています。
ところが、ねず美ちゃんが自分の家族を作ると、それまでと少し雰囲気が変わりました。
僕たちは、自分たちのことを、ねず美ちゃん一家を下宿させている下宿屋のオジサン、オバサンみたいに思うときがありました。特に美子ちゃんは、自分がまかないのオバサンか下女になったようだと言っていました。ねず美ちゃんが子猫といるクローゼットに、ミルクや猫缶を入れた皿を日に何回も運んでいたので、そういう気分になるのも仕方がありません。
ボンちゃんがいなくなってから、ねず美ちゃんもたびちゃんも寂しがるのではないかと思っていたら、ボンちゃんは最初からいなかったかのように、ねず美ちゃんはたびちゃんをペロペロ舐めています。たびちゃんは、ボンちゃんがいなくなった分、前よりもベッタリねず美ちゃんにまとわりついています。
あるとき、久し振りに姿を見せたキューちゃんが、窓越しにねず美ちゃんやたびちゃんを威嚇していました。ねず美ちゃんは勇敢に応戦していましたが、たびちゃんは怯えてしまい、ねず美ちゃんのうしろに回り、さらにあとずさりしてソファーのうしろに隠れてしまいました。
1年ほど前、ねず美ちゃんはまだ子猫でしたが、キューちゃんに向って毛を立てて威嚇していました。たびちゃんはそのころのねず美ちゃんと同じぐらいの大きさになっているのに、すっかり怯えて隠れています。どうもねず美ちゃんの勇敢さは引き継がれなかったようです。
向かい合う親子。だびちゃんはポーズをとっているよう。
ねず美ちゃんは保護されるまでストリートで育ったので、おそらくノラのお母さんから身を守る方法や戦い方を学んだのだと思います。ところがたびちゃんは、ねず美ちゃんの初めての子どもだし、途中から1匹だけになって甘え放題になったので、すっかり過保護になってしまったのでした。
蒲生さんは、会計の仕事で毎月わが家に来てくれるので、1ヵ月経ってベルちゃんの様子を訪ねてみると、「もう、うちの子になりましたよ」と言って携帯を取り出しました。見ると、ちょっとピンボケだけど元気に遊んでいるベルちゃんの写真が写っていました。そして「うちの奥さんがね、ベルちゃんに優しく話しかけるんですよ。ベルちゃんに話しかけたあと、ベルちゃんに話しかけるのと同じ口調で私にも話しかけるんです」と、ちょっと嬉しそうに話してくれました。
以前はどういう感じで蒲生さんに話しかけていたのかわかりませんが、子猫に話しかけたあと、そのままの口調で蒲生さんに話しかけるのはよくわかります。いきなり口調を変えることはできないし、子猫を見ていると気持ちも優しくなります。そのおかげで蒲生さんの心もなごんで、険悪になることがなくなったのではないかと思います。ベルちゃん効果で夫婦円満になったということですから、僕らも嬉しくなりました。
もともと蒲生さんも奥さんも、大の猫好きというわけではなかったようですが、飼っているうちに可愛くなり、ベルちゃんが夫婦の「かすがい」のようになっているのではないでしょうか。「子はかすがい」ではなく「猫はかすがい」です。
わが家でも、美子ちゃんと2人だけだったときより、ねず美ちゃんが来てからのほうが喧嘩が減りました。そして、前より家庭的になった感じがします。
僕は人間以外の動物に話しかけるということが苦手で、ねず美ちゃんにもなかなか話しかけられませんでした。美子ちゃんに「ねず美ちゃんに話しかけてよ」と言われて、最初はぎこちなく話していたのですが、だんだん慣れてきました。もちろん、ねず美ちゃんが返事をしてくれるわけではないのですが、じっと僕のほうを見ているので話が伝わったようにも思えます。そうやって話をするようになると、ねず美ちゃんが家族の一員のように思えて、一家団欒のような気持ちになります。
ところが、ねず美ちゃんが自分の家族を作ると、それまでと少し雰囲気が変わりました。
僕たちは、自分たちのことを、ねず美ちゃん一家を下宿させている下宿屋のオジサン、オバサンみたいに思うときがありました。特に美子ちゃんは、自分がまかないのオバサンか下女になったようだと言っていました。ねず美ちゃんが子猫といるクローゼットに、ミルクや猫缶を入れた皿を日に何回も運んでいたので、そういう気分になるのも仕方がありません。
ボンちゃんがいなくなってから、ねず美ちゃんもたびちゃんも寂しがるのではないかと思っていたら、ボンちゃんは最初からいなかったかのように、ねず美ちゃんはたびちゃんをペロペロ舐めています。たびちゃんは、ボンちゃんがいなくなった分、前よりもベッタリねず美ちゃんにまとわりついています。
あるとき、久し振りに姿を見せたキューちゃんが、窓越しにねず美ちゃんやたびちゃんを威嚇していました。ねず美ちゃんは勇敢に応戦していましたが、たびちゃんは怯えてしまい、ねず美ちゃんのうしろに回り、さらにあとずさりしてソファーのうしろに隠れてしまいました。
1年ほど前、ねず美ちゃんはまだ子猫でしたが、キューちゃんに向って毛を立てて威嚇していました。たびちゃんはそのころのねず美ちゃんと同じぐらいの大きさになっているのに、すっかり怯えて隠れています。どうもねず美ちゃんの勇敢さは引き継がれなかったようです。
ねず美ちゃんは保護されるまでストリートで育ったので、おそらくノラのお母さんから身を守る方法や戦い方を学んだのだと思います。ところがたびちゃんは、ねず美ちゃんの初めての子どもだし、途中から1匹だけになって甘え放題になったので、すっかり過保護になってしまったのでした。