第25回キキちゃん模様

　美子ちゃんのお父さん、お母さんにもらわれて行ったキキちゃんは、３匹いる中からお父さんが見にきて選んだ猫です。

　お父さんは、子どものころ、犬や猫やニワトリなどの動物がいる家で育ったそうです。美子ちゃんが小さいころも猫を飼っていたから、猫には詳しいようで、お父さんは３匹の子猫を見て、迷わずキキちゃんに決めました。

　キキちゃんは顔デカの子どもで、顔がわりと大きいし、ちょっと威張ったような顔立ちなので、僕らはそれほど可愛い子だとは思いませんでした。なんでお父さんがキキちゃんを選んだのか聞かなかったのですが、あとからなんとなくわかってきます。

　お母さんはそのころ体が悪かったので、キキちゃんをもらうことにあまり乗り気ではありませんでした。しぶしぶといった感じでもらってくれたのですが、お父さんもお母さんも根は猫好きなので、キキちゃんが来たら３人家族みたいになっていました。

　お互いのことを「パパちゃん」「ママちゃん」と、キキちゃん目線で呼び合うようになっていて、お母さんはひょいとかがんで猫にゴハンをあげたり、猫トイレをきれいにしてあげたり、前よりずっと体が動くようになったと、お父さんから嬉しい報告もありました。

　僕たちが遊びに行くと、キキちゃんは膝に乗ってきたり、愛想をふりまいたりします。うちにいるねず美ちゃん、たびちゃん、タバちゃんは、人間に愛想をふりまくなんて絶対しません。なんだかキキちゃんがけなげに思えて、そういうところもお父さんは見抜いていたのかもしれません。また、キキちゃんはほとんど鳴き声をあげないし、毛も抜けにくく、マンションで飼うには適した猫でした。

すぐ膝に乗ってくるキキちゃん。

　お父さんたちはマンションの２階に住んでいて、キキちゃんが下の広い庭に下りていくこともできました。最初のころはときどき庭に下りて、芝生で遊んでいたこともあったようですが、その庭はメスのノラ猫の縄張りになっていて、そこは人もあまり入ってこないので、毎年子どもを産んでそこで育てていたようです。そのノラは強い猫なので、キキちゃんも追い払われてしまいました。

　そればかりでなく、キキちゃんがいる２階の部屋に、木を登ってベランダ伝いに入り込んで、キキちゃんのゴハンを食べることもあったそうです。さすがノラですね。

　お父さんたちの部屋は角部屋で、２方向にぐるりとベランダがあって、景色は180度見渡せます。春は桜が間近に見えるし、一方は道路が見え、人や車が通るのが眺められます。しかもお母さんが植木や花が好きで、ベランダにはいくつもの植物の鉢がありました。キキちゃんにとって、ベランダだけでも充分楽しめたのではないかと思います。

　キキちゃんの特徴は、細くて長い美しい尻尾を持っているところです。お父さんは、その見事な尻尾を見て選んだかもしれません。

　顔デカの尻尾も長かったけど、先がキキちゃんみたいに細くはありませんでした。ねず美ちゃんの尻尾は、カギ尻尾といわれるクネクネ曲がった尻尾で、外見はうさぎの尻尾みたいです。たびちゃんも同じカギ尻尾で、タバちゃんの尻尾は太くて立派なのですが、それが途中でブチッと終わっていて、先っちょはやはりカギ尻尾になっています。

　カギ尻尾の猫は幸運を引き寄せると言われているそうですが、うちは３匹もカギ尻尾がいるので、幸運も３倍やってくるのでしょうか。

　キキちゃんと暮らし始めたお父さん、お母さんは、少しづつ活気づいて、新しい喜びも増えたようで、キキちゃんをあげてよかったと思っています。