DATE/ 2016.12.12
第37回 顔デカくんの半ノラ生活
タバサちゃん、ねず美ちゃんが避妊手術をしたあとも、顔デカくんはうちにやって来ました。
顔デカくんの首輪は、うちに来ていた何年かの間にも数回取り替えられていたので、黒ホッカくんのように完全なノラではなく、どうやら実家がある猫のようでした。フーテンの寅さんのように、気ままに旅に出たり、たまには実家に帰ったりしていたのではないでしょうか。
美子ちゃんは、顔デカくんによく似たたびちゃんを、飼い主さんに見せたいと言っていました。飼い主さんはどんな方だったのでしょうか。落ちていた顔デカくんの首輪には、「モモタロウ」と書かれていたので、実家では「モモちゃん」とか「モモタロウ」と呼ばれていたのでしょうか。
そういう半ノラの顔デカくんですが、僕らがいないときに家の中に入ってきて、ゴハンを食べたり、いろんなところにオシッコをするので、ちょっと困っていました。ねず美ちゃんやタバサちゃんと恋愛中だったころなら仕方ないのですが、そのあともうちに居着かれては困るのです。
わが家を住処にしようとしていたころの顔デカ。
顔デカくんは、留守中に家に入っていても、僕らが帰ってくるとノラのように脱兎のごとく逃げて行きました。ところがある晩、家に帰って来ると、顔デカくんが逃げもしないで部屋の中にいました。逃げ遅れたのか、それとも自分の住処にしようと思ったのかわかりませんが、なんだか厚かましい感じがしました。少し懲らしめてやろうと思い、ドアを閉めて逃げられないようにして、新聞紙を丸めて顔デカくんの背中を叩きました。すると、ものすごい勢いで部屋中を走り回り、出られないことがわかると台所に逃げて、醤油のビンやら何やらを倒しました。その倒れたビンを片づけているうちに、顔デカくんは消えてしまいました。どこかに隠れたのだろうと思い、ソファーの下などを探したのですがいません。
そのうちねず美ちゃん、たびちゃんが帰って来たので、ドアを開けて中に入れ、ゴハンをあげたりミルクを温めたりしていました。ドアを開けたので、もし隠れていたとしてもその間に逃げたはずだと思っていたのでした。
翌朝、美子ちゃんが押し入れの中で物音がするというので襖を開けてみたら、顔デカくんの顔があったのでビックリしました。前の晩に押し入れの中も見たのですが、おそらく奥のほうで小さくなっていたのではないかと思います。庭に面したガラス戸を開けると、顔デカくんはものすごい勢いで逃げて行きました。
そのあと、押し入れの中が臭いので、顔デカくんがオシッコでもしたのだろうと思い、襖を外して中の物を出すと、なんと座布団の上に2段重ねのすごい量のゲリ便をしていました。ゲリ便だったのは緊張していたからなのでしょうか。美子ちゃんは抗議のゲリ便だと言うのですが、そんなふうに自由に便の固さを調整できるものなのでしょうか。
もともと顔デカくんは積極的な猫でした。ねず美ちゃんがわが家に来る前から来ていて、ゴハンをあげたらしょっちゅう来るようになりました。庭に来ると美子ちゃんに強い視線を向けて、「オバさん、ゴハン早く出してよ」といった表情で居座っていたようです。静かにうつむき加減で座っていた黒ホッカくんとはだいぶ違います。
顔デカくんが来ると総勢で出迎え。
顔デカくんは体も大きく、オス猫としてのテリトリーも広かったようですが、タバサちゃんの父親と思われる茶トラのボロとは、うちの庭をめぐってずいぶん激しい戦いもありました。一度、玄関を上がったところで2匹が喧嘩したようで、絨毯が毛だらけになっていたこともありました。そういう半ノラ生活がたたったのか、そのうち黒ホッカくんと同じように口がただれ、猫エイズのようになって弱って行きました。庭でボロと鉢合わせした顔デカくんがじりじりと後ずさりし、ボロにゴハンを譲ることもありました。ノラ社会では、強くないと生きていけないのです。
ボロにゴハンを取られてしまった顔デカ。
顔デカくんは、いまどきの飼い猫としては珍しく去勢もされず、かなり自由な一生を送ったと思います。飼われていた家でじっとしていればまだまだ元気だったかもしれませんが、自由を選んで半ノラになり、太く短い人(猫)生を駆け抜けて行ったのでした。
顔デカくんの首輪は、うちに来ていた何年かの間にも数回取り替えられていたので、黒ホッカくんのように完全なノラではなく、どうやら実家がある猫のようでした。フーテンの寅さんのように、気ままに旅に出たり、たまには実家に帰ったりしていたのではないでしょうか。
美子ちゃんは、顔デカくんによく似たたびちゃんを、飼い主さんに見せたいと言っていました。飼い主さんはどんな方だったのでしょうか。落ちていた顔デカくんの首輪には、「モモタロウ」と書かれていたので、実家では「モモちゃん」とか「モモタロウ」と呼ばれていたのでしょうか。
そういう半ノラの顔デカくんですが、僕らがいないときに家の中に入ってきて、ゴハンを食べたり、いろんなところにオシッコをするので、ちょっと困っていました。ねず美ちゃんやタバサちゃんと恋愛中だったころなら仕方ないのですが、そのあともうちに居着かれては困るのです。
顔デカくんは、留守中に家に入っていても、僕らが帰ってくるとノラのように脱兎のごとく逃げて行きました。ところがある晩、家に帰って来ると、顔デカくんが逃げもしないで部屋の中にいました。逃げ遅れたのか、それとも自分の住処にしようと思ったのかわかりませんが、なんだか厚かましい感じがしました。少し懲らしめてやろうと思い、ドアを閉めて逃げられないようにして、新聞紙を丸めて顔デカくんの背中を叩きました。すると、ものすごい勢いで部屋中を走り回り、出られないことがわかると台所に逃げて、醤油のビンやら何やらを倒しました。その倒れたビンを片づけているうちに、顔デカくんは消えてしまいました。どこかに隠れたのだろうと思い、ソファーの下などを探したのですがいません。
そのうちねず美ちゃん、たびちゃんが帰って来たので、ドアを開けて中に入れ、ゴハンをあげたりミルクを温めたりしていました。ドアを開けたので、もし隠れていたとしてもその間に逃げたはずだと思っていたのでした。
翌朝、美子ちゃんが押し入れの中で物音がするというので襖を開けてみたら、顔デカくんの顔があったのでビックリしました。前の晩に押し入れの中も見たのですが、おそらく奥のほうで小さくなっていたのではないかと思います。庭に面したガラス戸を開けると、顔デカくんはものすごい勢いで逃げて行きました。
そのあと、押し入れの中が臭いので、顔デカくんがオシッコでもしたのだろうと思い、襖を外して中の物を出すと、なんと座布団の上に2段重ねのすごい量のゲリ便をしていました。ゲリ便だったのは緊張していたからなのでしょうか。美子ちゃんは抗議のゲリ便だと言うのですが、そんなふうに自由に便の固さを調整できるものなのでしょうか。
もともと顔デカくんは積極的な猫でした。ねず美ちゃんがわが家に来る前から来ていて、ゴハンをあげたらしょっちゅう来るようになりました。庭に来ると美子ちゃんに強い視線を向けて、「オバさん、ゴハン早く出してよ」といった表情で居座っていたようです。静かにうつむき加減で座っていた黒ホッカくんとはだいぶ違います。
顔デカくんは体も大きく、オス猫としてのテリトリーも広かったようですが、タバサちゃんの父親と思われる茶トラのボロとは、うちの庭をめぐってずいぶん激しい戦いもありました。一度、玄関を上がったところで2匹が喧嘩したようで、絨毯が毛だらけになっていたこともありました。そういう半ノラ生活がたたったのか、そのうち黒ホッカくんと同じように口がただれ、猫エイズのようになって弱って行きました。庭でボロと鉢合わせした顔デカくんがじりじりと後ずさりし、ボロにゴハンを譲ることもありました。ノラ社会では、強くないと生きていけないのです。
顔デカくんは、いまどきの飼い猫としては珍しく去勢もされず、かなり自由な一生を送ったと思います。飼われていた家でじっとしていればまだまだ元気だったかもしれませんが、自由を選んで半ノラになり、太く短い人(猫)生を駆け抜けて行ったのでした。