編集長が語る!講義の見どころ
歴史から「戦争」を考える/特集の講義を一挙紹介【テンミニッツTV】

2023/06/02

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。

ロシアによるウクライナ侵略に端を発した「戦争」の情勢が、大きく動こうとしているのでしょうか。「ウクライナによる反撃攻勢はいつか?」という声も挙がります。また、モスクワへのドローン攻撃も行なわれるようになりました。

戦争は悲劇。誰しも認めるところでしょう。しかし、それでもなぜ戦争は起きるのか。起きてしまう戦争に、どう対峙すればいいのか。

戦争について思考停止をしていたら、むしろ悲劇を招き、拡大させかねません。戦争の行方を考えるためには、やはり歴史に学ぶのが一番です。

たとえ時代背景がまったく違っていたとしても、歴史と比較するとクリアに見えてくるものがあります。そこには「人間の真実」が表出されているからです。いまこそ、真剣に歴史に学ぶべきときではないでしょうか。

テンミニッツTVでは、歴史的視点から戦争を考えていただいた講義が多数あります。今回は、そのような講座を特集としてピックアップいたしました。

◆特集:歴史から「戦争」を考える

https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=202&referer=push_mm_feat

・福井義高:第二次世界大戦をソ連から見る意味はどこにあるのか

・小原雅博:国益の歴史…ペロポネソス戦争の教訓とトゥキディデスの罠

・本村凌二:ペロポネソス戦争の勝利がスパルタにもたらしたもの

・山内昌之:ウクライナ戦争は何年続く…世界史が物語る戦争の不可思議

・片山杜秀:日露戦争から第一次大戦にかけて大変化した世界の戦争形態

・田口佳史:『墨子』の思想…春秋戦国時代に説いた「非戦・非攻」


■講座のみどころ:「戦争の真実」についての歴史の教訓は?

本日は、今回の特集に掲げた講義のポイントを一挙に紹介いたします。ぜひ気になったものからご覧ください。

【レーニン、スターリンの肉声から戦争の真実に迫る(福井義高先生)】

戦争は指導者が起こす――もちろん偶発的な戦争もありますが、やはり戦争の生起に「指導者の思考」が大きなカギを握ることはいうまでもありません。

今回のウクライナ侵略も、プーチン大統領の歴史観なりイデオロギーなりが大きな一因になっていることは否定できないでしょう。そのことを考えるとき、現在のロシアの前身であるソ連が「いかに戦争を画策していたか」を検証することは、大きな意味があります。

「歴史の真実」は、年月が経過して資料が出てくることによって大きく変わっていきます。とりわけ近現代史は、各国政府の情報公開のあり方によって、見え方がまったく違ってきます。この福井先生の講義は、そのことを痛感させてくれます。

この福井先生の講義は、すべて、レーニンやスターリンの実際の発言を元にしています。レーニンやスターリン自身の発言から、戦争への動機が明らかにされていく講義は、まことに知的刺激に満ちています。

たとえばスターリンは、日本の脅威を削ぐべく日中戦争の泥沼化を図りましたが、その時期にこんな発言をしています。

《歴史というのはふざけるのが好きだ。ときには歴史の進行を追い立てる鞭として、間抜けを選ぶ》(1938年2月)

つまり、日本を「歴史を進行させる間抜け」呼ばわりしたのです。その一方で、ドイツとは不可侵条約を結び、巧妙にドイツを戦争にけしかけていきます。

レーニンやスターリンが何を考え、何を引き起こそうとしたのか。それを知ると、戦争の裏側でどのようなイデオロギーや思惑がうごめいているのか、透けて見えるようになります。

◆福井義高:第二次世界大戦とソ連の真実(全4話)
(1)レーニンの思想的特徴
第二次世界大戦をソ連から見る意味はどこにあるのか
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4410&referer=push_mm_rcm1


【古代ギリシアの「ペロポネソス戦争」から考える】

ときに「トゥキディデスの罠」ということがいわれます。トゥキディデスは古代ギリシアの将軍であり歴史家でもありましたが、ペロポネソス戦争の歴史を描いた『戦史』を著しています。

小原雅博先生は、この『戦史』のなかの「特に印象的な記録」として、「メーロス対談」をご紹介くださいます。

メーロスはスパルタの植民都市帝国でしたが、アテナイ軍に包囲されます。メーロス側は中立を望み、理性と正義を訴え、アテナイの説得に努め、軍の撤退を申し入れます。しかし、メーロスはアテナイに攻め滅ぼされ、成年男子全員が処刑され、婦女子や子供は奴隷にされてしまうのです。

はたして、正義と力の関係とは? 大いに考えさせられます。

さらに小原先生が言及されるのが「トゥキディデスの罠」です。トゥキディデスは、ペロポネソス戦争の原因として「新興アテナイのパワーの増大と、それに対する大国スパルタの恐れ」を挙げているのです。

この戦争は20年にわたって続き、スパルタが勝利します。しかしそのことによって、スパルタがどうなったのか。

それについては、本村凌二先生が教えてくれています。実はスパルタは、戦争の勝利によって、逆に「自らの強み」を失う結果となり、やがてアレキサンダー大王に征服されていくことになったというのです。

はたしてスパルタは何を失ったのか。ここも大きな歴史の教訓でしょう。

◆小原雅博:国家の利益~国益の理論と歴史(全16話)
(2)ペロポネソス戦争の教訓
国益の歴史…ペロポネソス戦争の教訓とトゥキディデスの罠
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2734&referer=push_mm_rcm2

◆本村凌二:独裁の世界史~ギリシア編(全11話)
(8)ポリス社会の変質
ペロポネソス戦争の勝利がスパルタにもたらしたもの
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3257&referer=push_mm_rcm3


【ウクライナ戦争は、結局は「ピュロスの勝利」になる?】

一方、山内昌之先生が言及されるのが「ピュロスの勝利」の故事です。

ピュロス(前319年~前272年)とは、エペイロス(現在のギリシア北部からアルバニア)を支配していた王であり、ローマやカルタゴを相手に戦い、名将ハンニバルが「自分より上の優れた将軍」として名前を挙げたほどの人物でした。

では、「ピュロスの勝利」とはいかなることでしょうか?

これは「損害が大きく、得るものが少ない勝利のこと」を意味します。ピュロスは、カルタゴやローマ相手に勝利を収めますが、損害の大きさに比して、得るものがあまりなかった。ピュロス自身も「われわれは次にローマ軍隊と戦えば、仮に勝利したとしても壊滅するだろう」と語ったといわれます。

山内先生は、この故事を踏まえたうえで、「ウクライナ戦争は、どちらが勝ってもピュロスの勝利なのだろう」と指摘されるのです。故事をふまえて現代を斬ることで、さまざまな側面が見えてきます。

◆山内昌之:世界史から見たウクライナ戦争と台湾危機(全5話)
(1)長期戦の歴史と「ピュロスの勝利」
ウクライナ戦争は何年続く…世界史が物語る戦争の不可思議
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4872&referer=push_mm_rcm4


【戦争の形態が変わるときの「危うさ」】

世界の戦争形態が変化するときの「危うさ」をご指摘くださるのが、片山杜秀先生です。

日露戦争で機関銃が本格的に登場し、大砲の能力もどんどん上がります。それまでの、一度に1発しか撃てない鉄砲の時代とは、様相が一変するのです。さらに、第一次世界大戦になると飛行機や戦車、さらには生物化学兵器も登場します。

しかし、そのような第一次世界大戦を戦ったヨーロッパ諸国でも、実は、日本が二百三高地を陥落させた事例に基づく「突撃神話」が大きな影響を及ぼしていたといいます。

一方、新兵器の性能と物量を競う「総力戦」によって、戦争には巨大な工業生産力と資源が必要になり、まだ工業力が低く資源にも乏しい日本は大きな危機感を抱くことになります。それが昭和の悲劇をもたらすことになるのですが……。

現在、サイバー空間や宇宙なども含めて、「戦争の常識」が大きく変わろうとしている時代でもあります。そのような時代に何を考えなければいけないのか。ぜひとも、歴史に学ぶべきでしょう。

◆片山杜秀:戦前日本の「未完のファシズム」と現代(全9話)
(5)戦争形態の転換
日露戦争から第一次大戦にかけて大変化した世界の戦争形態
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3426&referer=push_mm_rcm5


【「非攻」と「兼愛」を説いた墨子の真実(田口佳史先生)】

墨子といえば、「非攻(=平和主義)」「兼愛(=博愛)」などの思想で有名ですが、実はその思想を裏から支えるものがあった……。そうご指摘くださるのが、田口佳史先生の講義です。

墨家たちは、恐ろしいほどの純粋さで平和を説きました。しかし、それを実現するためにどうしたか。

彼らは、攻撃する側があきらめて帰らざるをえなくなるほどの高度の防衛技術と、その防衛技術を使いこなして戦える「軍隊」も持っていました。そして、小さい国が大国から攻められそうなときは、墨家は技術集団と軍隊を派遣して、その小さな国を支援したといいます。そうすることで「侵略しづらい状況」をつくろうとしたのです。

田口先生は、「誰にも負けない純粋性と知的したたかさによる防衛というものがあって、初めて国防というものが成り立つ」と説きます。現在の日本を考えるにつけ、多くの教訓が見えてくる講義です。

◆田口佳史:墨子に学ぶ「防衛」の神髄(全2話)
(1)非攻と兼愛
『墨子』の思想…春秋戦国時代に説いた「非戦・非攻」
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4471&referer=push_mm_rcm6


いかがでしたでしょうか。多くの教訓が込められた講義の数々、ぜひご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆特集:歴史から「戦争」を考える
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=202&referer=push_mm_feat


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レッツビギン! 穴埋め問題
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今回は「折口信夫の語る日本文化」についての問題です。ではレッツビギン。

お正月には注連縄(しめなわ)を張ります。ビルディングでも、門松を立てないとお正月らしくないと感じます。そこに誰かがやってくる。その歓迎のために、何かを立てることが極めて重要で、目印になるものに神様が寄りつくという考え方があるのです。

これを折口信夫は(    )と名づけました。 その(    )は、神のシンボルにもなる。本来は神様を寄せるための目印ですが、そこを目指して神様がやってきて、そこに神様が宿るということで「神」そのものと考えるのです。


(    )には同じ言葉が入ります。さて何が入るでしょう。答えは以下にてご確認ください。
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4772&referer=push_mm_quiz


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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて、6月に入りましたが、実は今月は人気講師の新シリーズ講義が目白押しでして。
例えば

◆長谷川眞理子先生の講義:テーマは「もっと知りたいイヌのこと」
◆鎌田東二先生の講義:テーマは「メソポタミア神話の基本を知る」

が6月上旬から中旬にかけて配信開始の予定です。新着講義、配信予定等は以下よりご確認いただけます。

https://10mtv.jp/pc/content/search_list.php?referer=push_mm_new_function

ちなみに、ほかにも中西輝政先生の時事講義(テーマは「G7広島サミット」)など、注目講義が今後、続々と配信されます。ご期待ください。