編集長が語る!講義の見どころ
言霊の幸はう国・日本の美質とは…山上憶良「好去好来の歌」/上野誠先生【テンミニッツTV】

2024/07/02

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。

《そらみつ 倭(やまと)の国は 皇神(すめがみ)の 厳(いつく)しき国 言霊(ことだま)の 幸(さき)はふ国と 語り継つぎ 言ひ継がひけり》

この歌をご存じの方も多いのではないでしょうか。山上憶良の「好去好来の歌」です。

本日はこの歌を、上野誠先生(國學院大學文学部日本文学科教授〈特別専任〉/奈良大学名誉教授)にご解説いただいた講義を紹介いたします。

この歌は、日本の特質をきわめて明快に歌い上げたものです。実はこの歌を詠んだ山上憶良は、中国にも留学して、奈良時代に第一級の国際派知識人でした。

その山上憶良が、日本をいかに表現したのか。そこには当時の東アジアのグローバリズムの状況がわかっていてこそ、見えてくるものもあって……。

現代の「世界と日本」を考えるうえでも、大いなるヒント満載の講義です。

◆上野誠:山上憶良「好去好来の歌」を読む(全4話)
(1)山上憶良に学ぶ国際感覚
8世紀を代表する知識人・山上憶良が感じたグローバリズム
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5358&referer=push_mm_rcm1

さて、この「好去好来の歌」というタイトル、現代語に訳せば「行ってらっしゃい、お帰りなさいの歌」になると上野誠先生はおっしゃいます。

山上憶良の晩年、これから唐の国に行く大使がやってきて山上憶良に教えを乞うた。そのことが嬉しかった山上憶良が、これから唐の国に旅立っていく人を激励し、壮行する歌として詠んだものなのです。

山上憶良は、660年に生まれ、733年頃に亡くなったといわれます。大宝元年(701年)に第八次遣唐使の少録となって翌大宝2年(702年)に唐に渡ります。

和銅7年(714年)に従五位下に叙爵し、霊亀2年(716年)に伯耆守(ほうきのかみ)に、養老5年(721年)に東宮(後の聖武天皇)の侍講となりました。神亀3年(726年)頃に筑前守(ちくぜんのかみ)となり、天平4年(732年)に京都に戻りますが、数年を経ずして亡くなったと考えられています。万葉集に多くの歌が収められていることでも知られます。

上野誠先生は、その当時、中国の知識人と対等に話ができた人物を挙げるとすると、まずは阿倍仲麻呂であり、山上憶良もおそらくそういう知識量を誇っていた人だったとおっしゃいます。

では、「中国の知識人と対等に話ができる」とは、どのようなレベル感なのか。上野先生はこうおっしゃいます。

《だいたい中国の知識人と詩のやりとりをしようと思うなら、例えば相手の詩に「氷」ということばが出てくるなら、氷ということばの入っている漢詩を20や30は思い出せるぐらいの知識量がないとそれができません。そのぐらいのレベルです》

それほど、漢詩はじめ中国についての知識量を誇る人物が、では「好去好来の歌」で日本についていかに詠んだのか。

第2話に、上野誠先生の全訳が載っていますので、ぜひご参照ください。ちなみに、このメールの冒頭に掲げた部分のうち「言霊の幸はう国」について、以下のような解説をされています。

《この歌では、大和の国というものは、言霊の加護ある国であると(詠まれている)。言霊とは何かというと、言葉にある(宿る)魂ということです。言葉に魂があるから、嘘をついてはいけない。よい言葉を言わなければいけない。よい言葉を言うためには、よい言葉を学ばなければならない、というように来るわけです。つまり、言霊が私たちを守ってくれる国だから、よい言葉を私たちは使いましょうね。言霊が加護している国だよ、と言っているわけです》

ここで上野先生は、遣唐使がいかに危険な旅であったかを詳述したうえで、次のように問題提起をされるのです。

《ここで、一つ疑問が浮かびます。考えてみると、山上憶良という人は大変な仏教者です。そうであるのに、ここには一言も仏様のことが出てこない。こういうときにこそ仏様をお祈りするべきではないか》

たしかに「好去好来の歌」には、遣唐使の航海の安全を祈る部分などで日本の神々が列挙されますが、仏様は1文字も出てきません。その理由について、上野先生は「日本というものを背負っているときには、日本の神でないといけない。そして、グローバルなものを背負っているときには、仏様でなければいけない」とおっしゃるのです。

つまり、状況によって日本人は神仏を使い分けていたというわけです。ここで上野先生は、次のように印象深く喝破されます。

《多神教においては、人のほうが神様を選ぶわけです。「このことについては、この神様が頑張ってね。こちらについては、そちらの神様が頑張ってね」という具合です。しかし一神教の場合は、「あなたはこれを信じますか、これを守りますか」といって神様が人を選ぶわけです。人が神様を選ぶのか、神様が人を選ぶのかというのは、全く違うことです》

まさにここが、日本ならではの融通無碍(ゆうづうむげ)さであり、和魂漢才・和魂洋才の巧みさにもつながっていく部分です。

さらに上野先生は、「日本人の創造力の源は改良・改善にある」ということを、『源氏物語』の「乙女(おとめ)」の巻や、遠藤周作の『沈黙』などを例に挙げつつ、ご説明くださいます。ここの詳細は、ぜひ講義第4話をご参照ください。

グローバル時代において日本はいかにあるべきか。また、日本の美質とはどこにあるのか。そのことがスッと腑に落ちる講義です。ぜひご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆上野誠:山上憶良「好去好来の歌」を読む(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5358&referer=push_mm_rcm2


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本日は今月(7月)のおすすめプログラムを紹介いたします。

(プログラムガイド=講義ガイド)
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(7月の特集ピックアップ>

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