編集長が語る!講義の見どころ
日本人の「本性」は?…集権と分権の歴史と地理から考える/片山杜秀先生【テンミニッツ・アカデミー】
2025/08/26
いつもありがとうございます。テンミニッツ・アカデミー編集長の川上達史です。
日本や日本人の「本性」とはどのようなものなのでしょうか? 今回はこの点から、とても興味深いお話をいただいた片山杜秀先生の講義を紹介します。
片山先生は、次のように指摘されます。
《人間は地理によって規定される動物。しかも鳥のように飛べないので、いつも地面の上にいないと生きられません。すると、どういう縄張りであれば、敵が入ってこず、安心できるかという「動物的な本能」を考えたほうが分かることが、たくさんあります》
歴史も、あるいは現代社会の諸問題も、実はそう考えてみるとわかることが多いというのですが……。
この問題意識に基づきつつ、片山先生の今回の講義では「日本人は集権的か? 分権的か?」という問いが立てられます。はたして、皆さんはどのように考えられるでしょうか。
◆片山杜秀:「集権と分権」から考える日本の核心(全7話)
(1)日本の国家モデルと公の概念
日本は集権的か分権的か…地理と歴史が作る人間の性質とは
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5911&referer=push_mm_rcm1
「日本人は集権的か? 分権的か?」。この問いを、まず片山先生は歴史から読み解いていきます。
古代において日本が中央集権化を進める大きなきっかけとなったのは、いうまでもなく「白村江の戦い」(西暦663年)でした。唐と新羅の連合軍と戦って敗北した日本は、危機に備えるべく律令制を導入し、中央集権化を進めていきます。
しかし早くも、天平時代にはそれが大きく揺るぎだしたと、片山先生はおっしゃいます。
そのポイントとして片山先生が挙げるのが「疫病」。すなわち、天平7年(735年)~9年(737年)に大流行した天然痘です。なんとこの天然痘で、当時の人口の30%が亡くなったというのです(諸説ありますが)。
このような人口減があればこそ、鎮護国家(仏教の教えで国家を災難から守り、平和にする)の動きが強まり、大仏建立(743年)や鑑真渡来(753年)へとつながっていきました。
そして、ここまで人口が減ってしまったために、田畑も荒れてしまい、律令制の「公地公民制」がもたなくなります。荒れた農村を回復させるために、「個人の所有欲」を刺激して、農作物の生産量を回復しなければならなくなるのです。
ここで公地公民制が崩れたことを契機に、律令中央集権は平安時代に向かってどんどん骨抜きになっていきます。
たとえば象徴的なのが、『日本書紀』(720年)以来、日本で天皇主導でつくられてきた「国の正史」が、宇多天皇が命じて菅原道真らが編纂した『日本三大実録』(901年)で終わりとなったことです。
さらに、私有財産を再び認められたため、私有財産を持つ民の上に乗っかる「地域の豪族」も力を強めていきます。
菅原道真が生きた少しあとの時代に、平将門の乱や藤原純友の乱が起こります(承平天慶の乱=935年~941年)。藤原氏や寺社が持つ荘園でも、朝廷の役人が入ってきたり、税金を払ったりすることを拒否する「不輸不入の権」が拡大していきます。
片山先生は、《武士が「私」の増殖を推進した》と指摘されます。
これは「明治武士道」的な気分からすれば、まるで逆の視点ですが、ある意味で核心をついた、とても興味深い見方でしょう。
実際、武家の時代のベースは「自分たちの土地には入ってくるな」というあり方でした。鎌倉幕府も室町幕府も、大名などの領地には、税金を取ることもできませんでした。
江戸幕府が強大だったのも、大名から税金を取っていたわけではなく、400万石という日本最大の直轄領(天領)を持っていたからです(譜代や旗本の領地を含めると700~800万石)。
しかし幕末の日本は、西洋列強の進出で再び強大な外圧に見舞われます。このときも日本は中央集権で乗り切ろうとします。このとき、日本史における中央集権のモデルは古代律令制の時代となり、「王政復古」ということになるのです。
片山先生は、日本人の「地理的・歴史的なDNA」は、「とりあえず秩序は作りながらも、なるべく勝手にそれぞれの地域(それぞれの縄張り)でやらせてくれ」というものだったと分析されます。対外的な危機などのときは頑張って中央集権的なしくみを作ろうとするが、そこにいろんな齟齬が出てくるのが日本の歴史だと……。
なぜ、そうなのか?
片山先生は、「日本が荒海に囲まれた島国であったこと」、そして「森林率の圧倒的な高さ」という地理的条件を指摘します。
「日本が荒海に囲まれた島国であったこと」は、あらためていうまでもないでしょう。
「森林率の圧倒的な高さ」ですが、日本の森林率は「68%」にもなります。これは先進国ではフィンランド(74%)、スウェーデン(69%)に次ぐもの。これに対して、バルカン半島や北朝鮮などでも「50%」前後、ヨーロッパの主要国は「30%」くらいなのです。
山が多く、森が多いので「隣は何をする人ぞ」で分権になりやすい――。まことにご指摘のとおりでしょう。
「山のかげでそれぞれに勝手をやりながら、必要に応じて一時的に最低限連帯する」。日本の地理的条件によってもたらされた「日本人のエートスや志向性」を少し意識することで、日本をどうしたらいいかを考えるときも、いろいろな智恵が出るのではないか。そう片山先生はおっしゃるのです。
片山先生の熱量あふれる講義を聞くうちに、日本人とは何か、大きな歴史の流れをつくったものは何かが明確に見えてきます。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆片山杜秀:「集権と分権」から考える日本の核心(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5911&referer=push_mm_rcm2
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