編集長が語る!講義の見どころ
チンパンジーは乱婚、ヒトは夫婦…生物学から考える子育て/長谷川眞理子先生【テンミニッツ・アカデミー】
2025/09/02
いつもありがとうございます。テンミニッツ・アカデミー編集長の川上達史です。
少子化問題、子育て問題……。日本は深刻な状況に直面していますが、しかし、政府が莫大な予算を投じて行なっている諸々の対策も、大きな効果を挙げているようには見えません。
なぜ、そうなってしまうのか。
それを考える場合、やはり「生物学」を十分にふまえ、「そもそもヒトは、いかなる配偶者選択と子育てをする生物なのか」をしっかりと前提にする必要があるのではないでしょうか。
本日はそのことをじっくり考えさせてくれる長谷川眞理子先生の講義を紹介します。長谷川先生ならではの、まことに興味深い事例が次々に飛び出してきて、「結婚と子育ての本質」について、深く考えを巡らせることができます。
◆長谷川眞理子:ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(全5話)
(1)動物の配偶と子育てシステム
ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5922&referer=push_mm_rcm1
まず長谷川先生は、動物の種の違いによって「配偶システム」と「子育てシステム」が大きく違っていることから話を切り出します。
配偶システムとは、一夫一婦、一夫多妻、一妻多夫、乱婚などといった配偶者との関係性のこと。子育てシステムとは、子育てをするかしないか、メスのみで子育てするのか、オスのみによる子育てなのか、両親による子育てか、などといったことです。
これについては、たとえばヒトと近しい類人猿でも、ヒトはかなり違った形態だといいます。
チンパンジーの場合は、「乱婚」で「母親のみが子育て」をするかたちとなります。群れのなかの様々な相手と交尾をするので、父親が誰かは明確にはわからない。チンパンジーの平均離乳年齢は4歳半だが、子殺しのリスクがあるので赤ん坊持ちの母親は大勢のなかには入らない。母親の子育ては孤立して、なんの手助けもない。そのような姿だといいます。
では、ヒトも「乱婚&母親のみの子育て」かというと、これがまったく違うのです。
まず人間は乱婚ではありません。長谷川先生曰く、人間はすごく強い恋愛感情や愛着を持ち、その反面として嫉妬もあるので、乱婚は成立しがたいのだと。これは、1970年代のフリーセックス運動などにおいても、結局はうまくいかないことが多かったことからも自明なのだといいます。
ヒトの子どもの離乳は他の類人猿などよりも早いけれども、子どもは長い間自立しません。ヒトは脳が非常に大きいために、大人は多くのことができて、社会生活は複雑ですが、逆にいえば、そんな脳を育て、社会性を養うためのコストが大きいのです。
しかも、人間は「夫婦」が個別に存在するのではなく、皆で集まって社会集団をつくります。狩猟採集生活においては、集団で暮らさないと、捕食者から身を守れないし、食物も得られないし、火を保ちながら他の生計活動ができません。
集団は固定ではなく、場合によって離合集散します。そして、一緒に暮らす集団の構成員は、親子兄弟、友人などで、血縁・非血縁で多様ですが、しかし皆で共同作業します。
子育ても同様です。子育ては大変なので、その負担を分散する仕組みがあるのです。赤ん坊が泣くとすぐに大勢がやってきて、赤ん坊を抱き回します。子どもが親類その他の家に長く預けられる事例も数多くあります。
しかし産業革命以降、都市化、核家族化、貨幣経済、個人主義的価値観、職住分離などによって、そのような「生物としてのヒトのあり方」から大きく変わっていきます。「近代社会は、個人を単位とする貨幣経済のもとで設計され、共同保育であることを忘れた。そして、母親だけで子育てができるものという大前提で発達してきた」と長谷川先生は説きます。
では、どうすべきか。この講義の後半では、さらにインタビュー形式で問題を深掘りしていきます。
そこでも、とても興味深い事例が次々と紹介されます。
最近は、妻の実家の近くに居を構えて、妻側の両親の助けを得ながら育てていくケースも多いが、それをどう考えるべきかという問いについては、19世紀以前の世界各地の社会での子育てを研究した成果をご紹介くださいます。
その研究では、「母方の祖母」の貢献が一番大きかったといいますが、逆に子どもに悪影響を与える結果が出ていたのは……。
また、最近の「夫の育児参加」について、子どもが生まれてすぐの短期間、父親も産休を取るケースがありますが、これも実は素晴らしいのだといいます。なぜなら「親性脳のスイッチが入るから」というのですが、どういうことでしょうか?
加えて、現代の共働きだと、子育てに関われるのは父も母も「短い時間」であることが多いですが、これは悪影響を及ぼさないのか? これについては、テンミニッツ・アカデミーで以前に講義いただいた「東京ティーンコホート」という調査の結果、共働きのお母さんと専業主婦とで、子どもの幸せ度にそれほど差はないことがわかったのだといいます。むしろ、子どもの幸せ度に一番影響していたのは……。
様々な事例から、人間の幸せのためにこれからどのような社会をつくっていくべきかが明確に浮かび上がってくる講義です。まさに必見です。
(※アドレス再掲)
◆長谷川眞理子:ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5922&referer=push_mm_rcm2
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