編集長が語る!講義の見どころ
年末年始!折口信夫で「日本」を学ぼう/上野誠先生【テンミニッツ・アカデミー】
2025/12/30
いつもありがとうございます。テンミニッツ・アカデミー編集長の川上達史です。
いよいよ明日は大晦日。この年末年始も、大掃除をして、松飾りを飾り、初詣に行って、おせち料理を食べて……という方が多いのではないでしょうか。
考えてみれば、なぜ、そのようなことをするのでしょうか。そこに日本文化のいかなる「秘密」が隠されているのでしょうか。
本日はそのことについて、「折口信夫(おりぐち・しのぶ)」を学ぶことで深く理解できるようになる、上野誠先生(國學院大學教授、奈良大学名誉教授)の講義を紹介いたします。
折口信夫という名前を聞いたことがある方は多いと思います。民俗学を切り拓いた柳田國男に師事し、自身も民俗学研究で大きな業績を残した人物です。
民俗学といえば、民間伝承の調査を通して、人々の生活・文化の歴史を解き明かしていく学問です。柳田國男が岩手県遠野に伝わる伝承を編纂した『遠野物語』(1910年)は民俗学の先駆けとして有名です。
折口信夫も、「まれびと」論などをはじめ、数々の民俗学的な発信をしました。また、『万葉集』などの研究でも名高く、自身が釈迢空という名で歌人として活躍したことでも知られます。
折口信夫の著作は、全体像があまりに膨大で、難解な部分や、異形な部分もあり、けっして取っつきやすくはありません。しかし、その主張を知ると、日本に対する洞察も深まります。
上野先生は、この折口信夫について、とてもわかりやすくご解説くださいます。折口信夫入門としても、まことに最適。また、日本について深く考えるうえでも必見の講義です。
◆上野誠先生:折口信夫が語った日本文化の核心(全4話)
(1)「まれびと」と日本の「おもてなし」
「まれびと」とは何か?折口信夫が考えた日本文化の根源
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4771&referer=push_mm_rcm1
上野先生はまず、なぜ折口信夫が難しいかについて、次のようにおっしゃいます。
《折口信夫が難しいのは、彼の学問に1つの体系、大きな見取り図のようなものがあり、それが円を描いていることです。円を大きく見定めたうえで、個別の論文を読まないと分からない。ある意味、体系性がある学者で、よくいわれるのは「巨大な仮説」というものです》
では、どのような仮説を唱えているのか。
《折口信夫は、あらゆる文化の根源を「生活」に置きます。生活にはいろいろなものがありますが、人間には1つの「あこがれ」があり、それはいろいろな宗教の形をとります。中でも「他界へのあこがれ」「あの世へのあこがれ」に起点をみとめると折口信夫は考えます》
このような仮説から生み出されたのが「まれびと」についての議論です。上野先生は、こうおっしゃいます。
《これは「稀に来る人」のことで、お客さんとして現実世界にやってきて、やがて帰っていく。そこで現実世界を生きるわれわれと神との間に交流が起こるのです》
つまり、お盆のときにご先祖さまが帰ってきたり、祭礼の際に神様がやってきて御神輿で巡幸するようなことが、「まれびと」に当たります。
このような「まれびと」をもてなすのが、日本文化の1つの基本的なかたちです。
お正月も、まさにそのような機会です。大掃除も、おせち料理も、松飾りも、いずれも「お正月に何かが来る」という感覚からのものなのです。その詳細は、ぜひ講義本編でご覧ください。
「祭礼」の場合は依代(よりしろ)を立てて、神様をお迎えする。お盆であれば、迎え火などを焚いて、ご先祖さまをお迎えする。神様やご先祖さま(=まれびと)がいらっしゃったら、お供えしたり、芸能を演じたりして「おもてなし」して、喜んでもらう。
いらっしゃった神様や先祖さまがお帰りになるときには、お送りする(お盆の場合は、送り火を焚く)。「まれびと」がお帰りになったら、みんなで集まって「直会(なおらい)」として飲食をする。
たしかに、そのように考えると、多くの日本の祭礼がそのような姿であることが思い当たります。
さらに上野先生は、折口信夫が説いた「宗教文学発生説」もご解説くださいます。なぜ古い日本の文学では、「歌」のほうが「散文」より残っているのか。
それは宗教的な詞章が文学になっていく道筋があるからだと折口はいうのです。
神様が与えてくれた言葉を長く保持していかなくてはならない。そのために、無文字社会では、詩のかたちで韻律をつけて、言葉を長く長く伝えていくのです。日本の和歌も、あるいはインドの原始経典なども、すべてそのような由来だと考えられます。
また、「まれびと」のような感覚によって、その後の日本の文学にも「貴種流離譚」のような「型」ができあがってきたという説を折口信夫は唱えました。「貴種=高貴な人、偉い人」が苦難を重ねつつ、旅を続けていく物語です。
上野先生は、『古事記』のさまざまな神話や神武東征などの物語、さらに「竹取物語」や「伊勢物語」は「貴種流離譚」の象徴的な事例だとおっしゃいます。さらに、近年の「水戸黄門」や「男はつらいよ」なども「貴種流離譚」だといえなくもなく……。
そのように「文化には『型』がある」という前提で見ていくと、いろいろなことがわかるといいます。
たとえば、日本では和歌で男女が思いを告げることが行なわれましたが、その場合、必ず初めは、男性から女性に歌いかけることが「型」でした。
そして女性は、その初めの歌に対しては跳ね返すのが「型」だったというのです。女性から断わられるのが「型」なので、男性はさらに歌いかける。それによって、歌のやり取りが成立していく……。
これは、男女のやりとりの「実際」を考える場合、いろいろな意味で、まことに智恵ある「型」だといえるでしょう。
上記の「型」は一例ですが、折口信夫はこのような「芸能や文化の『型』」を重視して、「型の日本文化論」を展開したのでした。
第4話で上野先生がお話しになるのは、日本の近代化と民俗学的視点です。
明治維新直後の日本では、「日本のそれまでの歴史や文化を恥じる」ような意見も多数ありました。そのような流れもあったなかで、柳田國男や折口信夫は日本人の生活をもう一度見直して、日本の文化に光を当てようとしたのでした。
そのような流れが、また大きく変わったのが、第二次世界大戦の敗戦後です。そのときに、折口信夫がどのようなメッセージを発したのか。
上野先生は、昭和27年の折口信夫の講演内容から、とても感動的な言葉をピックアップくださいます。それがどのような言葉かは、ぜひ第4話の最後をご参照ください。
折口信夫が考えたことを知ると、自分の視野が広がる感覚を覚えます。上野先生のおもしろいお話に引き込まれるうちに、折口信夫が考えたことを知ることができる講座です。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆上野誠先生:折口信夫が語った日本文化の核心(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4771&referer=push_mm_rcm2
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