●正しい情報を選択して「人生の栄養失調」を防ぐ
東京大学の鄭雄一と申します。大学で医学と工学、両方を教えているものでございます。今日は「老いない骨のつくり方」ということで、骨に関する健康の話をさせていただきたいと思います。なお、本講演では要点を示しまして、細かい点に関しましては、シリーズ最終話でご紹介しますがテキストがございますので、もしよろしければそちらを参照なさってください。
まず最初に「情報の洪水に溺れないため」にということで、健康に関する情報について述べさせていただきます。現在、ネットなどには健康に関する大量の情報がございます。これはとてもいいことなのですが、実は、この情報の多くは結構間違っています。そうすると、この中から正しい情報を選別しなければいけないということになります。選別がうまくできないと誤った情報を受け取ってしまうのです。この多くが迷信と言われるものだからです。選別する能力がないと、せっかく大量の情報があるのに、間違ったことをしてしまうということになってしまいます。
正しい情報を得れば、健康で豊かな人生、将来の正しい投資ができることになりますし、逆に誤った情報をつかんでしまうと、情報がたくさんありながら一種の栄養失調のような状態になり、時間もお金も健康も無駄にして、ひいては人生の栄養失調になってしまいます。ですから、本講ではいかに正しい情報を選別することができるようになるかというところに、重点を置きたいと思っています。
●世界有数の高齢化先進国・日本
本日は、「骨と健康に関して基礎的知識を身に付ける」、そして「論理的で現実的な考え方を身に付ける」、この2点についてお話ししていきたいと思います。本日の構成ですけれども、スライドで示すように6つに分けています。最初に「高齢化と骨の病気」についてお話しいたします。
日本はご存じと思いますが、高齢化先進国です。テンミニッツTVで小宮山宏先生(テンミニッツTV座長で三菱総合研究所理事長)もおっしゃっていますが、日本は課題先進国で、高齢化先進国です。世界でも有数の長寿国です。ちょっと古い統計ですが、2006年は女性1位、男性2位で、その後も毎回トップ3前後に入っている状況です。100歳以上は2007年の統計で約3万2,000人ですが、(1997年からの)10年間で4倍になっており、その後4万人を超えています(2016年時点で6万人以上)。65歳以上の高齢者は、2007年に既に人口の22パーセントということで、2050年には3分の1を超えると予想されています。
●骨や軟骨の病気がクオリティ・オブ・ライフと健康寿命を左右する
そういたしますと、何が大事かということになりますが、それは「クオリティ・オブ・ライフ(QOL)」を伴った長寿が重要ということになります。なぜかといいますと、高齢化とともに、これはもうしようがないことなのですが、病気も増加するのです。覚えやすい数字としては、80歳の方は皆さん、平均して8つほどの病気を持っています。65歳過ぎからはこのように健康な人が減ってきまして、80歳後半になりますと半数以上が要介護、要医療にということになります。
ですから、「平均寿命が延びた」と言って喜んでいても、半分以上の人が要介護、要医療ということですから、単に年齢としての寿命を延ばすのではなく、健康で活動的に暮らせる「健康寿命」を延ばすことが大事であるということになります。骨や軟骨の病気は、このクオリティ・オブ・ライフと健康寿命に非常に大きく影響するものです。したがって、このことが非常に大事になってくるということです。
●軽視してはいけない骨の3大疾病
それでは、老化に伴う骨と軟骨の病気について、まず学んでみましょう。
大事な病気を3つ挙げますが、これは非常に数の多いものです。まず、1番目が骨粗鬆症(こつそしょうしょう)です。字は難しいのですが、これは骨の量が減って骨折しやすくなった状態のことです。日本では人口のおよそ10パーセントが罹患ということですので、1,000万人以上の人が罹患していることになります。これが、老人で寝たきりの原因の10パーセントになります。皆さんも聞かれたことがあるかと思いますが、例えば「おばあちゃんが転んで、腰の骨を折って寝たきりになっちゃった」というのは非常によくある話なのです。
2番目が歯周病です。歯周病というと、「これって、歯の病気じゃないの?」と思われる方もいると思いますが、実はこれは、歯を支える歯槽骨(しそうこつ)という骨が細菌感染によって溶けてしまう病気のことです。この骨が溶けるために歯が抜けてしまいます。歯周病は、高齢者人口の半分以上が罹患しているなど非常に多くの方がかかる病気で、歯を失う原因の半分以上を占めています。それは普通、虫歯だと思うかもしれま...