●男女で異なる「骨の生理的老化」曲線
三番目に「骨の生理的老化と病的老化」について述べたいと思います。まず、骨の生理的老化についてです。
骨がどのように老化していくかは、誰でもだいたい決まっています。まず、子ども時代ですが、第二次性徴が始まって青年期に入っていくあたりで骨の量は一気に激増します。これは性ホルモンによるものです。それから20歳~40歳ぐらいまではほぼ一定で、その後、年を取るにつれて、だんだん減っていくという流れです。
女性の場合、最大骨量へ向かうのは男性同様に第二次性徴のときですが、だいたい40歳~50歳で閉経を迎えます。このときに女性ホルモンが減るため、骨の量はガクッと落ちますが、その後はゆっくりと減っていきます。
今、「最大骨量」と言いましたが、20歳~40歳ぐらいに到達する骨の量のことです。これは、中年から老年期に差し掛かると、だんだん落ちていきます。グラフには、点線で骨折閾値を設けました。ここより骨の量が減ると、骨折しやすくなるという値です。
女性の場合、80代後半ぐらいからはほぼ皆さんが入ってきてしまいます。男性は大きな異常さえなければ、骨折しやすくすることはありません。
●骨が「病的老化」するのは、10代のころのツケ?
さて、40代以降で骨量が次第に下がっていくのは何が関係するのかというと、性ホルモン、成長因子、カルシウムやビタミンDの代謝などが関係しています。また、最大骨量を決めるのは何かというと、やはり運動や食べ物をはじめ、さまざまな因子が関係してきます。
このような最大骨量が低下していくこと、あるいは骨量の減少が加速することが、「病的老化」を招くということになります。
例えば、若い頃にきちんと運動しなかったり、極端な栄養不足になったり、あるいはホルモン異常があったりすると、最大骨量は減ってしまいます。人よりも少ない骨量でスタートするわけですから、老化の経緯自体は普通であっても70代に入って骨折しやすくなる人がいます。
また、平均的男性は骨折閾値を下回らないと言いましたが、骨量の増える時期にきちんと食事をしなかった場合、最大骨量は下がりますので、男性でも骨折しやすくなることがあります。これらを病的老化と呼んでいます。
●骨の病的老化を起こすリスクファクター1:食事
では、骨の病的老化を起こすリスクファクターは何なのでしょうか。食事、運動、嗜好品の三つに分けてお話しします。
食事では、何といっても栄養バランスの悪い食事と過度の体重低下が、骨の病的老化を起こす原因となります。
先ほど言いましたが、カルシウムと、カルシウムの吸収を促進するビタミンDの不足が、非常に大きな問題です。血中カルシウム濃度が低下すると、体にとってはそちらの方が大切なので、骨をどんどん溶かしていきます。骨が折れやすくなろうと、まったく気にかけません。ですから、カルシウムは絶対取らなければいけません。
次に、コラーゲンも大事です。コラーゲンはたんぱく質ですので、その不足も良くありません。たんぱく質が不足すると骨の材料が不足しますし、筋力も低下します。
さらに、コラーゲンをつくったり骨をつくったりするためには、ビタミンKやC、マグネシウムなどの微量元素が必要です。これらが不足すると、骨形成に異常をもたらします。
また、過度の体重低下が悪いと言いましたが、これは栄養不足や筋力低下をもたらすため、骨を悪くしてしまうことになります。
●骨の病的老化を起こすリスクファクター2:運動
では、運動はどうでしょうか。運動不足については、前半(1話目)で「廃用症候群」の話をしました。体は非常に盲目的で、使わないところには資源を回しません。ずっとじっとしている状態では「もう使わないのだ」と判断されます。それで、使わない骨は溶かされ、壊されていくわけです。
私の大学の同級生に、古川聡宇宙飛行士がおります。彼は国際宇宙ステーションに長期滞在していたのですが、宇宙ステーションは無重力という環境ですから、骨はどんどん溶けていきます。そのため、宇宙飛行士たちは骨が溶けることをブロックする薬を飲んで、宇宙に行っているのです。
逆に、過激な運動については、運動自体、骨を増やしますが、過激に行うと極度の体重減少になったり、女性の場合は無月経になったりします。今、一番問題になっているのは、過激なスポーツをする女性です。特に陸上の長距離など、痩せることを求められるような競技では極度に体重が減少しますし、激しい運動の結果、月経がなくなってしまいます。月経がなくなると、女性ホルモンが出なくなります。女性ホルモンが出なくなるということは閉経と同じ状態ですから、骨量が急減してしまうのです。だから、若いのに骨折しやすく...