●痛みが和らぎ、予防・再発防止にも
私の「運動療法」には、いくつか利点があります。私は「体操」と言っていますが、そのような膝の体操だけで本当に痛みが和らぐのかと、多くの人が疑問に思われます。しかし、実際、1990年代後半から2000年代になって、世界各国でこの運動療法のトライアルが無作為比較試験(RCT=randomized controlled trial)という形で研究され、全て合わせると100以上の研究結果が出ました。その結果、この運動療法は、抗炎症剤の飲み薬やヒアルロン酸の注射と同等以上の痛みを和らげる、あるいは、とる効果があるという結果が出ました。つまり、痛みがとれるわけです。これが一つ目の利点です。
ですが、痛みをとるだけでは、前向きな結果ではなく、元に戻ったにすぎません。しかし、私は「体操」と呼んでいますが、やはりこれは広い意味での運動ですから、骨、筋肉、靭帯、軟骨といった運動器の特徴として、70歳、80歳の方であっても、運動訓練をすると、訓練の結果、徐々に強くなっていきます。早い話が、筋トレをすると筋肉が強くなるわけです。
そうした運動器が、内臓である肝臓や腎臓や胃腸とは違って、運動刺激に応じて増殖していく、つまり強くなっていくということは、痛みがとれるだけでなく、続けるうちに、関節の周りの筋肉が強化されていきます。そうすると、上下の筋肉がしっかりしている人ほど、関節症の症状が少ない、あるいは、なりにくいことは以前から研究で分かっていますので、「予防効果がある」と言えるわけです。
つまり、痛みがすぐにとれるという短期の利点と、続けてやっていくことで、進行が遅くなる、あるいは、再発しにくくなるという長期の利点、こうした二つの利点のある方法なのです。
●唯一の欠点は「医者がもうからない」こと
ただし、この方法には欠点もあります。それは、医療機関側にとって、お金が入らないということです。わが国の医療機関が行う方法は、異常とも言っていいぐらいにヒアルロン酸注射をします。世界基準から言うと、ヒアルロン酸注射は、2008年のガイドラインでも、優先順位の非常に低い位置づけになっています。ガイドラインの位置づけの8番目か10番目に、「注射はもし必要ならやってもいいでしょう」というくらいなのですが、わが国では異常に多くこの注射がされています。
1本この注射すると3000円前後のお金が入ります。一方、私が20分、30分と患者さんに説明し、実地指導をしても、医療機関、医療保険の制度では、ほとんど一銭も入りません。今はこういう経済主義の時代ですから、これは致し方ありませんが、患者さんにとっては非常にマイナスなことだと思います。しかし、そういう経済事情はさておき、少なくとも私は患者さんにいいことをやっていこうと考え、この30年間ずっとやってきています。
わが国でも、2004年に、学会からこの関節症のガイドラインが出されました。そこでは、医学的に言えば、やはりまず行うべき方法はこの運動療法であると。わが国の学会も、第一にこの運動療法を最初に勧めるべき第一の方法として推奨しています。
●痛くない! 誰でもすぐできる「三つの体操」
では、具体的に何をすればいいのかというと、要するに、自宅でできる非常に簡単な方法です。70歳、80歳、90歳の人でも、理解力があれば、いったん教われば誰でも簡単にできる方法です。
いろいろな方法がありますが、あまり多いと患者さんがするのが難しくなるので、私は「三つの体操」というものを昔からしています。「1:脚上げ体操」「2:横上げ体操」「3:ボール体操」と、この三つの体操をお勧めしています。
「運動」というと二の足を踏む人がいますが、いずれも、どんなに痛い人でも、どんなに膝が痛いときでも、痛くなく、すぐできます。そして、何も使わずにできます。ボール体操はボールを使うものですが、ボールがなければ、枕でも何でも構いません。間にはさむものがあればいいのです。
そういう方法で、三つの体操をそれぞれ20回ずつ繰り返しやっていただきます。一種類につき約4~5分ですから、三つやって片脚15分ぐらいです。それを朝晩やるとよくなっていきます。
●実験で分かってきた、改善のメカニズム
「本当か」と懐疑的になる人が大勢いるのですが、本当です。先進諸国はどこの国も医療費の高騰に悩んでいることもあり、2000年代以降、アメリカ、ヨーロッパを中心に、世界各国で、なぜ、どうしてこの運動療法が効果的なのかの研究が、動物実験を含めて、行われてきました。筋肉や軟骨や骨の細胞を培養し、運動刺激を与えて、運動をシミュレートしていくのです。
その結果分かったことは、炎症状態を起こした細...