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腰痛でも安静より運動! 座りっぱなしは死亡リスクが増加

最新の腰痛医療(2)運動療法と認知行動療法

菊地臣一
福島県立医科大学 元・理事長兼学長
情報・テキスト
「メタボリックシンドロームや生活習慣病は、腰痛と深く関係しています」と、福島県立医科大学理事長兼学長・菊地臣一氏は語る。しかも、単に太っているから腰が痛くなるというわけではないという。菊地氏が腰痛の最新治療法を紹介する。(全2話中第2話目)
時間:13:33
収録日:2016/01/25
追加日:2016/06/13
≪全文≫

●「インフォームド・ディシジョン」が重要である


 今回は、「腰痛治療」について簡単にご紹介します。腰痛の治療も、近年大幅に姿を変えてきています。スライドに示すように、治療方針決定の基本は、第1回で述べた「EBM(evidence-based medicine、根拠に基づいた医療)」に則った各種治療法の提示で、患者さんにそれぞれの治療法の利害や特質を説明します。当然、患者さんは個人的、社会的な事情や背景が異なりますから、「NBM(Narrative‐based Medicine、対話を重視する医療)」に基づき、EBMとNBMを統合させた治療法を選択します。つまり、医療提供側から見た理想的な医療とは、EBMというサイエンスと、NBMというアートの統合なのです。

 具体的にどういったことを考えなければならないかというと、次のスライドに示すように、一つは患者さんのQOL(生活の質)や満足度の重視です。痛みをとることは、目的ではなく、患者さんが日常的に不自由なく動けるようにするための手段です。ですから、患者さんによって異なる痛みの意味を探っていくことが必要なのです。

 次に、患者さんの価値観の尊重です。病態は同じでも、個人によって治療の選択肢は異なります。例えば、椎間板ヘルニアで動けないが、3週間ほど自然経過を見れば9割は良くなるというケースでは、多くの人は保存療法を選び、仕事などをせずに安静にします。しかし、4日後にどうしてもアメリカ出張に行かなくてはならない人にとっては、手術が第一選択です。このように、患者さんの事情に応じて治療法を相談しながら決めていくことが大切です。

 これは、インフォームド・コンセントより一歩進んだ「インフォームド・ディシジョン」といえるでしょう。患者さんに全ての情報を提供して、患者さんとお医者さんが一緒になって治療法を決めていく姿勢が大事です。また、腰痛の治療で最も大切なことは、仕事に復帰できるかどうかということですから、当然、治療のときは患者さんの職場環境や、仕事関連の環境を知っておく必要があります。


●病気から「病人」へと視点を変える必要がある


 具体的に治療法を組み立てていく際には、新たな視点が必要です。つまり、病気から「病人」へと視点を変え、どのような治療をするかではなく、誰を治療するかを重視することです。

 私の恩師がよく言っていたのは、「患者の腰痛を診るのではなく、腰痛を持った患者を診なさい」ということでした。まさに、現代の科学はその重要性を証明しています。先ほど述べたように、治療するときは、患者さんの心理・社会的因子の評価と、それに対する治療対策が必要です。患者さんにとって腰痛がどのような意味を持っているのかを探ると、おのずと治療法が決まっていきます。

 現代の医療は、与える医療ではなく、「攻めの医療」、つまり患者さん自身も参加する医療が極めて重要で、それが治療成績、患者の満足度を上げることも分かってきています。60歳の人を20歳のように治すのは、とうてい無理な話です。そうしたことを十分に説明した上で、「キュアからケアへ」というコンセプトを持つことも大事でしょう。たとえば、2週間、3週間に一度、信頼できる先生を訪れることで、その人の生活が回るのであれば、それはそれでいいのではないかという考え方です。


●非特異的腰痛の病態を明らかにする必要がある


 次に、スライドが示すように「多面的・集学的アプローチ」が時代の必然です。さまざまな専門職の知恵を借りて、腰痛にアプローチするのです。われわれ医師には、患者さんの疑問・質問に十分答えられるだけの知識の勉強や、他職種との連携が求められています。

 現代の腰痛は、神経症状がある、がんが転移して痛みを起こしているといった診断名がつく病態を別にすれば、ほとんどが「非特異的腰痛」です。非特異的腰痛とは、原因は腰にあるけれど、腰のどこがどのような仕組みで痛みを起こしているのかが分からない腰痛のことです。非特異的腰痛かどうかをしっかりと鑑別した上で治療に当たる必要があります。そのために、われわれは今、海外を含めた大規模な調査によって科学を進歩させ、非特異的腰痛の病態を明らかにする必要があると考えています。


●腰痛時は安静にするよりも、動いた方がいい


 多くの患者さんには、治療を最大限に評価して、リスクを最小限に評価する傾向があります。これは治療のときに注意すべき点です。われわれは過度に期待を持たせてしまいがちです。一方、ドクターはしばしば、あまり見通しのない楽観主義者になっているという指摘があります。ですから、治療前や手術前には慎重な説明を行い、治療後の見通しについて患者さんの同意と納得を得ておくことが極めて大切なのです。

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