● “プラチナ教”の教典となる新著が出版された
私は2016年10月に、『新ビジョン2050 地球温暖化、少子高齢化は克服できる』(日経BP社)というタイトルの新しい本を出版いたしました。口はばったい言い方ですが、私がこれまでいろいろ研究してきた地球や人類の未来に関する提案の集大成という位置付けです。冗談まじりにプラチナ社会や“プラチナ教”の教典だという言い方もしていますが、ぜひお手に取って見ていただきたいと思います。
では、なぜこの本を書いたのか、何が書いてあるのかについて、お話します。今は地球の問題が非常に大きいですよね。同時に、国家や経済を含んだ社会という問題もあります。しかし、これは当たり前のことですが、個人にとっては「人」の問題が大きいわけです。それぞれがいろいろな困難を抱えており、それぞれの局面で議論するものは非常に多い。しかし、全体として整合性のあるモデルがないと、共有できるビジョンにはならないと思うのです。
私は、大学ではエネルギーや物質など、どちらかというと「地球」に関係の深い方面、社会や経済の中でも「物質」に関するもの、経済であってもお金より「物質」に関係することを研究してきました。大学を離れてからは、よりお金に近い部分、より人に寄り添う部分を進めてきました。これが「プラチナ社会」の相当部分を占めています。
こうした大学での40年と、大学を離れてからの8年の間の蓄積を書いたのが本書です。「地球と経済社会と人」、この三つを統合的に考えた新しいモデルをつくったわけです。
●日本は自給国になり、AIが駆動力となるという予測
細かい話は本書を読んでいただきたいのですが、物質面でいうと、重要なポイントは「日本が自給社会になる」ことです。多くの皆さんが、日本は資源の乏しい国だと思われているから、一次資源を輸入し、それを加工して輸出しお金を稼いでいくという「加工貿易」論が、個人にも社会にも染み込んでいます。しかし、それではもうこの先、続きません。
ここで「飽和」ということを考えると、日本は自給ができるのです。それも、そう遠いことではありません。2050年には、ほぼそういう状況になる、あるいは少なくとも全ての人に「なるほど、そうなるんだ」ということが納得的に見えてくる状況になると、私は確信しています。
同時に、社会・経済に関していいますと、これから人間はどうなるのだろうという思いを皆が持っています。先進国の経済が停滞し、中国経済でさえ急速に停滞に向かっているわけです。でも私は、これからは、AI(人工知能)が起点となると見ています。昔は機械が経済成長をつくっていったように、これからはAIが駆動力となって、新しいイノベーションがさまざまに起こり、もっと豊かでもっと快適な社会をつくることができる、と思っています。
●ポイントは、人間が直面する「飽和と自由」にある
そういう事例は決して空想や理論ではなく、部分的には確実に起こっています。そのような「すでに起こっていること」も、この本の中にまとめて書いてあります。
地球・社会・経済の状況を考えるときには、「人間は、どうなるのか」という視点が何よりも重要なポイントです。そのときのキーワードは、「飽和と自由」だと思います。
今や食べ物がなくて苦しむことは、ほとんどの先進国でなくなりました。しかし、そうなったのは、歴史上つい最近のことです。江戸時代には9割が農民でしたが、極めて多くの人が飢えていました。「口減らし」「姥捨」という言葉で示されることが、現実的に起こっていたのです。今のように食べ物が豊富にあり、むしろ飽食で肥満を気にするような状況は、ごく最近のことです。
もう少し一般的にいうと、衣食住です。ヒートテックに代表されるような素晴らしい「衣」があって、「住」も雨露をしのぐことに困る人はもういなくなっている。さらに、スマホによって情報がいつでも手に入るようになっている。自由に移動ができる。その上、長生きもできる。このように、「衣食住・移動・情報・長寿」というものが、われわれ普通の人にほとんど行き渡ったのです。かつてクレオパトラなど一部の人がそういったものを持っていた時代はあるけれども、99.9パーセントの一般の人は飢えていたのです。それが逆転して、われわれは豊かになれたということです。
●情報と移動の自由があれば、働き方は変えられる
このことをよく考えてみると、自由になったということでもあるのです。情報がどこでも手に入って、自由に移動ができるという状況を考えてみれば、われわれのほとんどの問題は解決がつくはずではないでしょうか。
例えば今、育休・産休は、女性が社会に参画するための大きな障害になっています。でも、移動が自由で情報が自由に手に入る時代です。...