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サウスウエスト航空とAmazonの「コンセプト」と戦略

ストーリーとしての競争戦略(5)コンセプトの重要性

楠木建
一橋大学大学院 経営管理研究科 国際企業戦略専攻 特任教授
情報・テキスト
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授の楠木建氏が、コンセプトの重要性について解説する。コンセプトはストーリーの起点となるもので、商売の基である。サウスウエスト航空はLCCを始めた時、空飛ぶバスというコンセプトを打ち出した。Amazonはeコマースの単なる購買インフラではなく、購買意思決定のインフラを売っている。(2017年5月25日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件」より、全9話中第5話)
時間:06:34
収録日:2017/05/25
追加日:2017/07/14
≪全文≫

●コンセプトは商売の基である


 この講義の後半は、戦略のストーリーを作るときに最も大切だと考えられる、2つのことについてお話しします。1つ目は、ストーリーの起点にあるコンセプトです。これは商売の基(もと)と言えるほど大切なもので、これが決まらないと先には進めません。一言でいえば、何を売っているのか、に対する答えです。


●サウスウエスト航空が売るのは、空飛ぶバス


 1971年、サウスウエスト航空は、後のLCC(Low-Cost Carrier:格安航空会社)の原形となった戦略を初めて打ち出します。経営者のハーバート・ケレハー氏が、この戦略を構想しました。彼は40歳過ぎまで弁護士をしていて、事務所がテキサス州のサンアントニオにありました。クライアントは近隣の大都市のヒューストンやダラスに多く、何かあればすぐに飛んでいかなければいけません。ケレハー氏の弁護士時代の最大の不満は、移動に疲れ果ててしまう、ということでした。サンアントニオからヒューストンやダラスまでは、およそ東京―名古屋間ぐらいの距離があり、車を運転していくには遠い距離です。バスも走っていますが、時間がかかります。かといって、飛行機は値段が高く、何よりも人間が飛行機の時間に合わせなければならず、非常に不便です。

 そこで彼が思い付いたのは、サンアントニオ・ヒューストン・ダラスを、まるで巡回バスのように、ぐるぐるひたすら飛び回る航空会社でした。自分のように困っている人は他にもたくさんいるはずだ、というわけです。こうしたアイデアを思い付いて、それをレストランの紙ナプキンに書いたのが、サウスウエスト航空の始まりでした。

 つまり、サウスウエスト航空では本当のところ何を売っているのかというと、エアラインではなく、空飛ぶバスだということです。これがサウスウエスト航空のコンセプトであり、ここから戦略が始まっていきます。ノースウエスト航空やアメリカン航空と競争するのではなく、車やバスで移動していた人たちを、飛行機に乗せてしまおうという戦略です。実際、当時ケレハー氏は会社を作った際に、全米バス組合に登録を申請して却下されています。航空会社ではあっても、気持ちはバス会社だということでしょう。


●インターネットでものを売る本質を考える


 また、ご存じのようにAmazonは、ネットで本を売るところから始まっています。もう20年も前のことですが、当時は新聞を読めば、朝から晩までインターネットについて書かれていました。インターネットが普及すれば、ものが売れるようになるだろうと、誰もが気付きました。eコマースです。何がeコマースに向いているのかといえば、やはり本ではないかと、これもほぼ全ての人が言っていました。火を見るより明らかなオポチュニティーであり、参入障壁は非常に低く、当然多数の競争業者が入ってきます。実際、Amazonより先にインターネットで本を売っていた会社は、北米だけで180社ほどありました。つまりAmazonは最後発だったのです。では、Amazonは何が他と違っていたのでしょうか。

 一つにはコンセプトが違います。当時、ネットの本屋の多くは言っていました。これからはリアルの本屋と違って、24時間、365日店を開けていられる。しかも、本のように種類が多いものであっても、ネットであれば物理的な制約がなく、品揃えを思う存分に広げられる、だからこれからはeコマースだと。これに対して、Amazonの創業者ジェフ・ベゾス氏は、こんなことを言う人は何も分かっていない、と考えていました。リアルな本屋であっても、やろうと思えば24時間365日店を開けられます。あるいは、郊外に巨大な本屋を作れば、いくらでも品揃えは広げられます。こうしたことは、やろうと思えばリアルな本屋でもできてしまいます。こんなことは意味がない。むしろ、インターネットでものを売るということの本質をもっと考えた方がいい、とベゾス氏は思っていました。


●Amazonは購買意思決定のインフラ屋


 そこで彼が到達したのは、こういう話です。例えば今、Amazonに入ってきた人がいるとします。その瞬間に、この人の趣味に合わせて本棚が一斉に変わります。0.1秒後、また別の人が入ってくれば、その瞬間に本棚が動き、本の分類基準も変わり、入り口の所にある今週のベストセラーも一瞬にして変わる、と。ベゾス氏はこうしたことをAmazonでやろうとしたのです。これはリアルな本屋がひっくり返ってもできないことでしょう。

 つまり、彼の考えたコンセプトは、購買意思決定のインフラを作って売る、ということです。顧客は、本やCD、DVD、おもちゃなど、非常に種類が多いものの中から、自分の欲しいものを見つけて、それを選んで買うことができます。Amazonは、こうした購買意思決定のインフラ屋なのです。それは単に購買のインフラではありません。当時、ポ...
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