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アウグストゥスが後継者問題でみせた血統へのこだわり

ローマ帝国皇帝物語(5)後継者選びの苦悩

本村凌二
早稲田大学国際教養学部特任教授/東京大学名誉教授/博士(文学)
情報・テキスト
ティベリウス
「国家の父」として以後200年続く「パクス・ロマーナ(ローマの平和)」を実現したアウグストゥス。彼がカエサルによって後継者に指名されたのは17歳の時だったが、自身の後継者選びには大いに苦悩することとなる。初代皇帝の後継者問題について、早稲田大学国際教養学部特任教授・本村凌二氏に案内していただこう。(全8話中第5話)
時間:09:06
収録日:2017/06/16
追加日:2017/08/17
≪全文≫

●後継者問題に悩み抜いたアウグストゥスの晩年


 アウグストゥスが亡くなるのは紀元後14年。この時に76歳ですから、古代人としてはとてつもなく長生きした部類ではないかと思います。ただ、彼にとって一つの大きな不幸だったのは、後継者に恵まれなかったことでした。

 アウグストゥスは最初、自分の姉であるオクタウィアの息子マルケルスに目をつけ、自分の娘であるユリア(ユリウス家の娘なので、ユリアと呼ばれます)と結婚させます。つまり、自分の甥であるマルケルスを娘婿に仕立てたわけです。

 このように、自分に男の子の実子がいないアウグストゥスは血筋にこだわり、マルケルス夫妻に期待をかけますが、肝心のマルケルスが若くして病死してしまいます。マルケルスの死をめぐっては、アウグストゥスの側近であったアグリッパとの間で、次の権力をめぐる確執があったのではないかとも推察されていますが、現段階の研究では「病死」ということになっています。

 マルケルスと死に別れたユリアは、別の人物と結婚させられ、そこで二人の息子をもうけます。これこそ、アウグストゥスからすれば直系の孫ということになります。

 アウグストゥスは当然二人の孫に大変な期待をかけるのですが、この二人がともに二十歳になるやならずの年齢で、よもやの死を迎えます。アウグストゥス自身は長生きをしたものの、自分の直系といっていい甥や孫に次々に先立たれるのは、非常に不幸な出来事だったといえるでしょう。


●リウィアとの婚姻と連れ子ティベリウス


 古代ローマ社会では、生涯に2~3回結婚するのは当たり前でした。アウグストゥスもまた、誰を後継者に任命するかという問題が決まらないまま、リウィアという非常に聡明な女性と再婚します。

 リウィアの彫像は何枚も残っていますが、古代ローマ人の彫像の中で、私はリウィアの像が最も好きです。美人というよりもなんとなくかわいらしく感じるところがあります。だから、アウグストゥスと私は趣味が合うのではないかとも思っています。彼女の彫像はルーヴル美術館をはじめ、さまざまな場所に残っています。

 ともあれアウグストゥスは非常にリウィアを気に入ったらしく、その後、終生リウァイアが妻として仕えていくことになります。ただ、出会った頃のリウィアは別の男性と結婚していました。そこで、皇帝アウグストゥスは策謀を弄し、リウィアを前の夫から奪い取ってしまったわけです。

 リウィアには二人の連れ子がいましたが、その一人が後の二代目皇帝ティベリウスです。つまり、直系の後継者がいなくなってしまった後のアウグストゥスは、愛妻であるリウィアの連れ子ティベリウスを後継者にせざるを得なかったのです。


●中継ぎのティベリウス、期待の星ゲルマニクス


 ティベリウスの弟ドルススには、大変有能で人望も厚いゲルマニクスという息子がいました。ティベリウスが後継者に指名されたのは40代の頃で、ゲルマニクスはまだ20代に入ったばかり、一世代分の年齢差がありました。

 アウグストゥス自身はこの若者を非常に気に入っていましたが、後継とするには若すぎます。そこで、ティベリウスの後継者として、ゲルマニクスを彼の養子に迎えます。つまり、自分の次は仕方なくティベリウスに継がせるけれども、その後は必ずゲルマニクスに継がせると明言したと同じでした。

 というのは、ゲルマニクスの母方、つまり父であるドルススの結婚相手(妻)を通じて、彼にはユリウス家の血が流れていたからです。血統を重んじるローマ社会では、そういう点からもゲルマニクスへの期待が高かったのです。そうした含みのある中、直接的にはティベリウスを次期後継者にすることが固まります。
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