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創業者が記した設立趣意書の原点を見失っていたソニー

AIとデジタル時代の経営論(8)ソニーの原点

一條和生
一橋大学大学院国際企業戦略研究科研究科長・教授
情報・テキスト
井深大
財界研究社『財界』新年特大号(1964)より
一橋大学大学院国際企業戦略研究科研究科長・教授の一條和生氏は、働き方改革について、職務規定の明確化の重要性を認めつつも、暗黙知の要素への評価の重要性を強調する。ソニーは、創業者の一人、井深大氏が東京通信工業設立趣意書に書いた、人間としての強い思いを取り戻し、原点回帰することで、最近復調の兆しを見せている。(2017年7月24日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「AIとデジタル時代のリーダーシップ」より、全9話中第8話)
時間:10:22
収録日:2017/07/24
追加日:2017/11/01
≪全文≫

●職務規定を明確にしても、暗黙知の要素は残り続ける


 日本企業は、暗黙知の重要性を本当によく理解しています。しかし、それを実践するための改革が危機にひんしているのではないか、とも感じています。私は2017年から日経HRコミッティで議長を務めており、最近では、日本のリーディングカンパニーの人事担当役員と議論する機会も増えました。皆さんが口をそろえていうのは、2017年の最重要アジェンダは、「ワークスタイル改革」、つまり働き方改革だということです。

 ワークスタイル改革のキーワードはJDです。つまり、「job description(職務規定の明確化)」です。もちろんこれは非常に重要です。日本企業は一般的に職務規定があいまいな場合が多く、誰の仕事かがはっきりとしていないことも多々あります。したがって、ワークスタイル改革によって職務規定を明確にし、例えば在宅勤務や午後3時に帰ってもいいようにする必要があります。

 しかし、注意しないといけないのは、どんなに職務規定を明確にしても、暗黙知の要素は残り続けるということです。これを絶対に忘れてはいけません。そして、この暗黙知の要素をちゃんと評価しなければ、日本企業の強みはなくなっていくでしょう。

 野球に例えれば、日本の企業は欧米の企業と比べて、三遊間のヒットを打たれることが多くはありません。つまり、職務と職務の間を抜けていくようなことが少なく、誰かが必ずといっていいほどそれを拾い上げてくれるということです。欧米であれば、これは私の仕事ではないと押し付けあって、職務と職務の間を簡単に抜けていきます。特に、夏休みは大変です。担当者が夏休みを3週間取れば、3週間その担当業務が停止してしまうのです。

 しかし日本の場合、そうした職務と職務の間を拾ってくれる人が必ずいます。これはやはり日本企業の良さでしょう。職務規定を明確化したとしても、暗黙知の部分は残るのだから、そうしたことをこなしてくれる人をやはり正当に評価していかなければなりません。


●仕事の喜びもまた、日本企業の強みだった


 もう一つ、気を付けるべきことは、仕事の喜びを再認識するということです。今、日本ではとにかく「会社に長くいるな、早く帰れ」の大合唱です。当然、育児や介護、あるいは自分の文化的な生活のために、時間を使うことは構いません。しかし、それと同時に決して忘れてはいけないのは、仲間と共に働くことの喜び、仕事をすることの喜びです。

 本来は、こうした仕事の喜びを得られることも、日本企業の強みだったはずです。しかし、日本企業は真面目ですから、おそらく、職務規定もコンプライアンス的に捉えてしまい、これをしなければ駄目だという具合に、徹底してしまう可能性があります。そうなれば、日本企業の良さはまた一つ消えてしまいかねません。


●ソニーのイノベーションの源泉は、井深氏にある


 こうしたことを、今回の著書を執筆する中で、強く感じました。PHP研究所が創立70周年を記念して、「日本の起業家シリーズ」と題したシリーズを刊行し始めています。第1回発刊の松下幸之助はもちろん、一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏による本田宗一郎に加えて、私がソニーの創業者である井深大論を執筆しました。2017年7月20日に刊行されています。これを執筆する中で、大変勉強になったことがたくさんありました。

 私は井深氏のことをよく知りませんでした。やはりソニーといえば、盛田昭夫氏の方が有名でしょう。彼は『MADE IN JAPAN』も書いています。しかし、井深氏について調べていくと、ソニーのイノベーションの一番の源泉は、実は井深氏にこそあるということが分かりました。例えば、日本最初のテープレコーダーであるG型テープレコーダー、世界最初のトランジスタラジオ、トリニトロンカラーテレビ、ウォークマン、プレイステーション、こうしたものを全て生み出してきたのは、井深氏なのです。


●東京通信工業設立趣意書には、人間としての強い思いがある


 井深氏は盛田氏よりも13歳年上ですが、2人は終生のパートナーでした。1945年に2人は運命的な出会いを果たします。彼らがソニーという会社を引っ張っていったのですが、その原点ともいえるのが、東京通信工業設立趣意書です。これは、読むと震えます。1946年5月に東京通信工業が設立され、1958年にソニーという名前に変わりました。東京通信工業の設立に先立つ1月、37歳の井深氏が新会社を発足するに当たって、設立の目的を明らかにしているのです。

 戦後のまだ焼け野原で書かれた趣意書ですが、そこには希望とエネルギー、そして若さが満ち溢れています。廃墟の中で現状に絶望することなく、未来に希望を持ち、新しいことに挑戦しようという、人間としての強い思いが書かれているのです。

 その一部をご紹介しましょう。一...
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