●「ねじれ」とは:内閣と議会の関係
まず通常の議会というのはどういう仕組みなのかということですが、議院内閣制と大統領制ではここで大きく違います。議院内閣制の場合には、与党で過半数以上を持っている。それで、過半数以上で内閣ができるわけです。過半数以上という条件のときに、3分の2以上を持っているか否かというのが、もう一つ特別な条件として付きますが、基本は過半数以上です。過半数以上を持っているから内閣ができ、つまり政権ができるわけです。
これと、例えば日本の場合、参議院の多数派を与党側が持っているか持っていないか、その2種類なわけです。そうすると、「ねじれ」とは何かと言うと、この衆議院側の多数と参議院側の多数が異なるのを、一般的に「ねじれ」と呼べると思います。
ここに「議会の3分の1以上」という条件を付けましたが、これは大統領制を考えると、日本で言うと首長さんですが、知事や市長や地方議会を考えるときには、3分の1という条件がもう一つ加わります。議員内閣制の場合には、この3分の1という条件はほとんど考えなくて済むわけです。
それはなぜかということを少しお話しします。それはつまり、大統領、あるいは内閣と議会が、アメリカの場合には上下両院ですが、異なっている、つまり党派の多数が異なっている場合を、一般的にdivided government、分裂あるいは分割政府と呼ぶわけです。日本の「ねじれ」も同じです。つまり、衆議院の多数と参議院の多数が異なっている。そうすると、政権は作れるけれども、法案を円滑に通すことができない。それは何度も日本でも経験していることです。
●大統領制は議院内閣制よりもはるかに「ねじれ」が起きやすい
これを見ていただくと分かると思いますが、議院内閣制は、衆議院のほうが必ず多数です。多数でないときもありますが、基本は多数なのです。だから、衆議院と内閣がねじれることはありえない。ところが、大統領制の場合には大統領選挙があり、かつ衆議院選挙があり、アメリカの場合は上院選挙と下院選挙がある。そうすると、三つの選挙の結果が異なることは当然予想される。普通の議院内閣制よりも、はるかに「ねじれ」は起きやすいということです。ですから、首相公選論を唱えている人は、この「ねじれ問題」ということはあまり言わないですけれども、現実には「ねじれ」はもっと起きやすいという、ここを理解しておく必要があるということです。
もう一つ、ここで「3分の1」と書きましたが、これは、アメリカの大統領あるいは日本の首長さんたちは、実は拒否権を持っているわけです。つまり、議会が議決したことを、拒否権を働かせてノーと言う。ところが、議会のほうが3分の2でそれを再可決することができます。オーバーライドというわけです。大統領の拒否権をオーバーライドする。あるいは、議会のほうが、首長さんがノーと言ったことを再可決する。つまり再議をして3分の2の多数で決めることができる。そうすると、大統領から見ると、3分の1以上を持っていないと自分の望まない法案が通ってしまう。あるいは、首長さん、知事から言えば、自分の望まない条例が通ってしまう。
そうすると、こちらの議院内閣制の場合には、政府側が望む法案を通したいときにはどうするかですけれども、大統領制の場合には、特にアメリカの場合、制度的には大統領に法案提出権がない。現実には大統領起源の法案はかなりの数が通っているわけです。ホワイトハウスを起源とした法案が通っているわけですが、議決されてしまうと困ることはたくさんあるわけです。つまり、議会の議決を阻止するためには、自分のグループを3分の1以上持っていなければいけない。だから、3分の2の議決を阻止するためには、政府と内閣と3分の1の議員を確保する。これは地方議会でも見られることです。
これを「過半数でいいのだ」とか「3分の2が必要だ」と思っている人もいるかもしれませんけれども、現実的に3分の1以上と過半数、2分の1以上と3分の2というのは、このような関係になっています。
●政権交代があると前か後かで必ずねじれている
これを頭に入れて、もう一つ政権交代が起きたときの「ねじれ」ということを申し上げます。これは日経の経済教室に書いた、政権交代と「ねじれ」ですが、政権交代があると「ねじれ」は必ず起きる...