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江戸期は「人間らしく」、現在は「子どもらしく」

江戸と現在の教育比較(2)人間の基本を教える

田口佳史
老荘思想研究者
情報・テキスト
江戸期に教えたのは人間としての基本であると語る老荘思想研究者・田口佳史氏。子どもは人間としての天分、天性をたくさん持っており、そのことを早く自覚させるため、まず人間とは何かを教えたという。(後編)
時間:10:30
収録日:2015/01/13
追加日:2015/08/10
≪全文≫

●江戸期は時間がかかることから教えていく


 江戸期の教育において、まず何から教えたかというと、人間としての基本をしっかりと学ぶということです。今はどちらかというと、小学校ではやさしいことから教えるということになっています。しかし、江戸期は、人間の基本から教えました。前回お話しした「初めを慎む」という言葉の通り、一番最初に習うことは、真っ白のキャンバスにさっと入ってくるわけですから、すごく重要なのです。ですから、人間の基本、すなわち、これまで申し上げたような徳の教育から始まりました。

 正課である四書五経の四書の『大学』の冒頭には「明明徳(明徳を明らかにする)」とあり、これは人間の基本を言っているわけですが、最初はそこから教えるのです。

 それからもう一つ重要に考えられていたのは、何しろ早く教えないと元服まで間に合わないため、身に付けるのに長時間かかることから早く教えたということです。そういう意味で、四書五経のまず四書から学んだのですが、面白いことに四書は小学1年生からずっと読むのですが、大学者も研究対象にしているという、非常に特殊なテキストだと思います。こういうものを丹念に読んでいくわけですが、今はその年代年代で必要と思われる知識を教え込むことになっています。

 ということで、江戸期は、人間の基本をしっかり学び、身に付けるのに時間がかかることから教えていくというカリキュラムになっていたのです。


●江戸期は人間らしく、現在は子どもらしく


 また、現在の教育との違いには、次のようなことも挙げられます。

 江戸期はこう考えていました。児童は人間として不完全なものですが、人間の基本というものを学ぶことにおいては全く真っ白なキャンバスです。いってみれば、生まれながらにして人間としての天分、天性をたくさん持っているわけです。そういうものをなるべく早いうちから自覚させ、気付かせていくことが非常に重要です。ですから、児童はより人間らしくなるように学んだのです。つまり、人間とは何か、人間とはどういうもので、どうしていくことが人間なのか、そういったことをまずじっくりと教えるということでした。

 今はどうかといえば、児童はより子どもらしくなるように教えているような状況ではないでしょうか。これは私見ですが、そう思われるわけです。そのため、小学校の高学年になったとき、低学年のときとの違いが非常に明確に表れているように、私には思えるのです。今は、小学校の高学年になると、より進学のための学力づくりに徹底して、よい中学に入るための学力をどのように身に付けさせるかが基本に据えられているような教育を行います。


●江戸教育は15歳までに人間通にする


 江戸期は、より良い人生のための基礎づくりが基本で、人生をより良く生きてくれという思いがありました。子どもであっても人間ですから、もう人生を歩んでいるわけです。ですから、人生の対応の仕方を教えていったのです。したがって、今でいう小学校の高学年、12歳ぐらいになると、人間に対する教育に徹底していくわけです。そして、15歳までに、人間とはこういうものだと理解させる、つまり人間通にするということです。人間というものが非常に分かっていて、さらにいえば、人間とより良く付き合える、あるいは、より良く扱えるという人間に仕上げていくことが基本にあったのです。

 今はどうなっているのかというと、一言でいえば、試験に対する教育で、そうならざるを得ない...
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