第14回妊娠の兆候

　外に出るようになったねず美ちゃんは、それまでの３倍くらいゴハンを食べるようになりました。うちの小さな庭ではもの足りなくなって、隣のおうちの広い庭や、近所にある原っぱあたりまで出かけて走り回っているので、いままで以上にお腹が空くのでしょう。それとも、ひょっとしたら、妊娠したのかもしれません。

　美子ちゃんは獣医さんに電話し、ねず美ちゃんが太ったことを話し、妊娠しているかどうか聞いたようですが、電話ではわからないと言われたそうです。

胴回りが太くなってきたねず美ちゃん。

　休みの日に、美子ちゃんと外に出たついでに、ねず美ちゃんをもらったペットショップのUSAに寄ってみました。「うちの子が妊娠しているかもしれないんです」と言うと、マダムが「あらま」と少し驚いていました。子猫でもらってから、まだ８ヵ月しか経ってないので、驚くのも無理はないかもしれません。

　そのペットショップのお姉さんに猫の妊娠の症状を聞くと、どうもねず美ちゃんに当てはまるようなことばかりです。妊娠して１ヵ月を過ぎると、やはり食欲旺盛になるそうです。

　顔デカくんは相変わらずやってきて、「オレが彼氏だ」的雰囲気を漂わせ、うちの中に上がり込んでいるときもたびたびあります。ねず美ちゃんがなんとなく素っ気ないのも、妊娠しているからかもしれません。

　黒ホッカくんもときどきやって来ますが、ねず美ちゃんにとって二番手といった感じなので、あまり長くはいません。黒ホッカくんは、お尻の肉が痩せていて、少しヨタヨタしているときもあります。さすらいのノラなので、顔デカくんのような飼い猫より、早く年を取るのでしょうか。

　ある日、庭の灯籠に体を突っ込んだねず美ちゃんが、尻だけ出していました。おもしろい格好なので見ていたら、顔デカくんが来ました。顔デカくんが下からニャーニャー呼んでも知らんぷりで、灯籠から出てきません。妊娠した猫はオス猫を受け入れないようなので、やはり妊娠は本当のようです。

灯籠に体を突っ込んで遊ぶねず美ちゃん。

　美子ちゃんは、押し入れの中に段ボール箱を置いて、その中に小さな毛布を敷いてお産の用意をしました。ところが、ねず美ちゃんはその中に入りません。明らかにその箱は気に入らないようでした。

　夏の間、寝るとき薄い毛布だけ掛けていたのですが、９月に入り朝方少し寒く感じるようになったので、掛け布団を用意しました。朝になって目が覚め、少し寒いのでその布団をたぐり寄せると、グッショリ濡れていてオシッコの臭いがしました。その３日前も、布団に誰かがオシッコをしていました。ねず美ちゃんなのか、顔デカくんなのか、あるいは他の猫なのかはっきりしません。

　このごろ、ねず美ちゃんのトイレを掃除しても、オシッコもウンコもしてないことが多くなりました。たぶん外でしているのでしょうが、美子ちゃんが出かけるとき出入り口を全部閉めるので、外に出たいという抗議のオシッコなのかもしれません。

　美子ちゃんの考えは違っていて、ねず美ちゃんに子どもが生まれるので、自分たちのテリトリーをはっきりさすためにマーキングをしていると言うのです。その考えにも一理あると思いますが、ねず美ちゃんが犯人だという証拠もありません。黒ホッカくんが、顔デカくんにねず美ちゃんを取られた腹いせにしたかもしれません。顔デカくんだって、このごろねず美ちゃんが冷たいので、これまた腹いせにしたかもしれません。