テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
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DATE/ 2016.07.11

第16回 ねず美ちゃんの子育て

 ねず美ちゃんが産んだ2匹の子猫は、産まれた直後は黒く見えたのだけど、どうも背中にキジ柄があるようです。美子ちゃんの話だと、1匹はタビを履いたように前足も後足も先っちょが白いようです。だとすると、父親は黒ホッカくんではなく顔デカくんかもしれません。

 僕もよく見ようと思うのですけど、クローゼットの奥のほうにいるのではっきり見えません。懐中電灯で照らすと、ねず美ちゃんがものすごく恐い顔をします。僕らをかなり警戒しているようなので、あまり見ないようにすることにしました。

 美子ちゃんは、まるで下宿のまかないオバさんのように、ミルクが入った皿や猫缶の皿を、日に何度もクローゼットに運んでいました。だから日に日に大きくなっていく子猫たちをつぶさに見ています。

 美子ちゃんによると、ねず美ちゃんのお母さんぶりは見事だそうです。誰に教わるわけでもないのに、本能的に子猫がよく育つようにしているのです。

ねず美ちゃんの子育ては見事なもの。

 子猫がミャーミャー鳴いたのは産まれたときだけで、その後鳴き声は全然聞こえてきません。それは子猫たちが安心しきっている証拠です。

 ねず美ちゃんは子猫に付きっきりでもなく、ときには外に出て遊んだり、僕の足にすり寄ってきたりします。ねず美ちゃんが外に遊びに行っている間に、クローゼットの奥をそーっと見ると、2匹の子猫が体を寄せ合ってスヤスヤ眠っているのです。

 ある日、僕が「ねず美ちゃんに魚を買ってきたよ」と言うと、美子ちゃんは「鯛?」と訊きます。いくらなんでも、鯛は買いません。買ってきたのはカマスで、ねず美ちゃんに買ってきたのに、あまりにもおいしいから僕らが半分以上食べてしまいました。残ったカマスをねず美ちゃんにあげると、ものすごい勢いで食べ始めました。子猫たちにオッパイをあげているから、お腹が空いているのでしょう。

 僕らが「婿殿」と思っていた黒ホッカくんがいたので、頭だけあげたら、頭しかもらえなくて怒ったのか、まったく食べずにいなくなってしまいました。

 それにしても、黒ホッカくんが子猫の父親だと思っていたことは、僕らの思い違いでした。子猫が大きくなるにつれ、キジ柄がだんだんはっきりしてくるし、顔も顔デカくんに似ているようです。

 考えてみれば、黒ホッカくんはかなりの年でした。オスのノラなのにおとなしいから、最初はてっきり去勢されているのじゃないかと思っていましたが、年を取っているせいもあるのです。

 その黒ホッカくんが、子猫が産まれたら父親のような素振りでうちに入るようになったので、僕らはてっきり父親だと思い込んでしまったのでした。それは黒ホッカくんの、ノラとして生きていくための演技だったのでしょうか。

 ということで、父親でもない黒ホッカくんをうちに上げるわけにもいかないので、申しわけないけど外に出てもらうことにしました。黒ホッカくんは強引な気性ではないので、ときどきうちにやってくるもとのノラに戻りました。

黒ホッカくんはかなりのお年。

 あるとき、ねず美ちゃんはいるのに、クローゼットの中を見ると子猫がいなくなっていました。美子ちゃんと2人で出かけて、しばらく家を空けて帰ってきたときでした。フェイクファーのコートにぶら下がっているのではないかと思いましたがいません。美子ちゃんは「どうしよう」と言って泣きそうな顔になっています。別のクローゼットの中、布団の中、押し入れと探したのですが、どこにもいません。ねず美ちゃんもウロウロして探しているようにも見えます。出かけるとき庭に面した戸を少し開けておいたので、黒ホッカくんが来て連れて行ったのではないか、カラスにさらわれたのではないかという話にまでなったのですが、子猫は2匹ともカウチの裏にいました。破れたところから入ったようです。子猫が自力で入ることはないと思うので、ねず美ちゃんが運んだのです。僕らがあまりにも見るからでしょうか。

子猫たちも安心しきっています。

 後日、美子ちゃんがペットショップで訊いたら、猫はときどき子猫を移動させるようです。違う環境に慣らすためかもしれません。ねず美ちゃんは、ほんとにしっかり子育てをしているのです。

第1回 マキ・キュー

第2回 猫の駆け引き

第3回 ネズミのような猫

第4回 黒ホッカおじさん

第5回 騒々しい庭

第6回 猫に話しかける

第7回 チーコ物語

第8回 猫の乗っ取り

第9回 ねず美ちゃんの母性

第10回 猫の癒し