テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
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DATE/ 2016.10.31

第31回 ねず美ちゃんの教育法

 ねず美ちゃんは、わが家に来て2年足らずで3回出産しましたが、いつも立派なお母さんぶりで、世のお母様方に見せたいぐらいでした。特に子どもを虐待したりする親には、ねず美ちゃんを見習って欲しいと思います。

 ねず美ちゃんは、子どもを産むと必ず何ヵ所か場所を替えます。2階のクローゼットで産んで、1階の押し入れに移し、また2階の別のクローゼットに移したりします。いろんな場所に慣らすためでしょう。少し大きくなると、ベランダに連れ出して日向ぼっこをしたり、庭に連れて行って木登りをさせたりしていました。子どもを連れて1泊旅行をしたこともあります。帰ってこないので、探し回ったりして大変でしたが。

机の引き出しを開けたままにしていたら、そこに引っ越してきたねず美ちゃん親子。

木登りを教えるねず美ちゃん(左)。


 そのねず美ちゃんの子猫教育法ですが、もともとがノラの子ども(たぶん)なので、子どもたちに自立の方法を教えます。

 ある日、ねず美ちゃんがトカゲを獲ってきて、子猫たちを集めて、その前でバリバリ食べているのを見たことがあります。

 美子ちゃんは、ねず美ちゃん親子に上げ膳据え膳で、猫缶を入れるお皿を何枚も用意して一生懸命運んでいたので、トカゲを獲ってきて食べる必要はなかったのですが、これも子猫の教育ではないかと思います。美子ちゃんは、「私たちはこうして自分たちで食べ物を調達できるのよ。人間に従わなくても生きていくことができるのよ」と、教えているのではないかと言っていました。

 前にポール・ギャリコの『猫語の教科書』に書かれている、猫はその家を乗っ取る気持ちで飼われているという話を紹介しましたが、ねず美ちゃんは、猫として生きていく気概のようなものを子猫に教えているのではないかと、美子ちゃんは感じたそうです。

 トカゲは天然ものなので美味しいかもしれませんが、猫缶だって人間が猫の味覚を研究して作っているのだから、トカゲには負けないと思います。そういうことより、狩猟ができる猫族としての誇りを子猫に伝えているのでしょう。

 ねず美ちゃんは、猫としての誇りや自立を教えるだけでなく、人間との協調ということも子猫に教えていました。

 ねず美ちゃんが子どものころ、障子の桟によじ登って、障子をバリバリ破いてメチャクチャにしたことがありました。美子ちゃんが怒ってねず美ちゃんの頭を叩いたら、ねず美ちゃんに手のひらを爪でかなり深く引っ掻かれました。

 うちの猫たちは外に出るので、爪を切っていません。外でノラと喧嘩になることもあるし、木に登ったり塀や壁に飛び上がるときも、爪が頼りです。だから、ときには引っ掻かれることもあるのですが、美子ちゃんは「これからこの猫と、こうやって毎日戦っていくことになるのか」と、猫との闘争みたいなことを考えていたそうです。

ねず美ちゃんは子猫のとき障子をボロボロにしたことがある。

 猫は障子を破ることが本能的に好きなようで、ねず美ちゃんの最初の子どもも、障子を発見して破り始めました。美子ちゃんが子猫をピシャっとしようとしたら、美子ちゃんと子猫の間にスッとねず美ちゃんが入ってきて、「本当に申し訳ありません」と言うような、深く頭を下げたようなポーズを取って座ったそうです。美子ちゃんは子猫を叩こうとしたけど、それを見て手を引っ込めたと言っていました。

 ねず美ちゃんが子猫に言い聞かせたのか、それからは障子を破ることはしなくなり、ねず美ちゃんが障子のことも教育に入れたらしく、その後産まれた子猫たちは、一度も障子を破ることはありませんでした。

 そういえば、うちの猫たちは、ソファーに上がることはあっても、テーブルに上がることはしません。そういうこともねず美ちゃんが教育したのでしょうか。

第1回 マキ・キュー

第2回 猫の駆け引き

第3回 ネズミのような猫

第4回 黒ホッカおじさん

第5回 騒々しい庭

第6回 猫に話しかける

第7回 チーコ物語

第8回 猫の乗っ取り

第9回 ねず美ちゃんの母性

第10回 猫の癒し