DATE/ 2016.11.07
第32回 気骨のある猫
ねず美ちゃんがすぐれた母親で、子育てしているときが一番輝いていることは前に書きましたが、そういうねず美ちゃんから母親になる自由を奪う、つまり避妊手術をすることは心が痛むことでした。
しかしねず美ちゃんは、すでに子どもを8匹産んでいて、ねず美ちゃんが産んだタバちゃんの子どもも入れたら、すでに10匹増えていることになります。もう、もらってくれそうな人も思いつきません。そういう人を探すのも限界です。
ねず美ちゃんは母性の強い猫です。
美子ちゃんが友人から「そのうち猫屋敷になるよ」と言われていたことが、実際起こりそうな勢いで増えています。早くしないと、また顔デカくんがやってきます。
それにしても、顔デカくんのオスとしての威力は相当なものです。うちだけで顔デカくんの子どもは6匹産まれています。相当広い範囲を巡回しているようなので、おそらくあちこちに顔デカくんの子どもはいるはずです。
ねず美ちゃんは5ヵ月の間を置いて子どもを産みました。その間隔が短いのか普通なのかわかりませんが、3回目の出産からもう3ヵ月以上経っていました。
顔デカくんは自分の子孫を増やすことが仕事のような猫ですから、3ヵ月しか経ってなくても油断できません。顔デカくんが来る前に、ねず美ちゃんを獣医さんに連れていかないといけません。
ということで、朝早く、美子ちゃんがいつもお世話になっている獣医さんにねず美ちゃんを連れていきました。ねず美ちゃんは勘のいい猫なので、なんのために獣医さんに連れてこられたかわかっているような気がしたと、美子ちゃんは言っていました。まったく騒ぐことなく手術台に乗っていて、それを見ると、美子ちゃんは申し訳ない気持ちでいっぱいだったそうです。
夕方、美子ちゃんと一緒に、手術が終わったねず美ちゃんを、獣医さんに引き取りに行きました。
ねず美ちゃんは、包帯代わりの黄緑色の保護服を着せられていました。「ねずちゃん」と声をかけても黙っています。家に連れて帰る間も、ねず美ちゃんは終始無言でした。怒っているのか、悲しんでいるのかわからないけど、何か訴えるような目で僕らを見るので、僕たちも黙ってしまいました。
家に帰って、ねず美ちゃんを猫入れのバッグから出すと、スタスタ歩いて僕たちの寝室に入り、寝るのかなと思って見ていると、なんと布団の上にウンコをしました。
ねず美ちゃんが布団の上にウンコをしたのは、後にも先にもこのときだけです。手術でウンコを我慢していたからかもしれませんが、美子ちゃんは絶対に抗議のウンコだと言います。
僕たちはねず美ちゃんの気分を和らげようと、あわててマタタビを手の平に出して差し出したのですが、ねず美ちゃんは見向きもしません。美子ちゃんが言うように、ウンコは子どもが産めない体になったことの抗議だったのかもしれません。マタタビを差し出す僕らを、「わたしはそんなものでは誤摩化されませんよ」と言うような目で見ているのでした。
抗議しているのではありません。あくびです。
手術後はあまり外に出さないようにとか、黄緑の保護服は4、5日は付けるようにとか、獣医さんに言われていたのですが、ねず美ちゃんはそんなことおかまいなしで、保護服はあっと言う間にビリビリ破いてしまうし、帰ったその日から外にも出かけていました。
美子ちゃんは、ねず美ちゃんに猫としての気骨を感じているようです。ペットではなく、一個の独立した動物と暮らしているということです。特に避妊手術のときは、僕もそれを強く感じました。
しかし動物のいいところは、日にちが経てば避妊手術のこともケロッと忘れていて、「わたしはもう子どもを産めない体なんだわ」などとウジウジすることなく、元気に暮らしていることです。
ねず美なんて名前にして申し訳ないような気骨を持った猫。
しかしねず美ちゃんは、すでに子どもを8匹産んでいて、ねず美ちゃんが産んだタバちゃんの子どもも入れたら、すでに10匹増えていることになります。もう、もらってくれそうな人も思いつきません。そういう人を探すのも限界です。
美子ちゃんが友人から「そのうち猫屋敷になるよ」と言われていたことが、実際起こりそうな勢いで増えています。早くしないと、また顔デカくんがやってきます。
それにしても、顔デカくんのオスとしての威力は相当なものです。うちだけで顔デカくんの子どもは6匹産まれています。相当広い範囲を巡回しているようなので、おそらくあちこちに顔デカくんの子どもはいるはずです。
ねず美ちゃんは5ヵ月の間を置いて子どもを産みました。その間隔が短いのか普通なのかわかりませんが、3回目の出産からもう3ヵ月以上経っていました。
顔デカくんは自分の子孫を増やすことが仕事のような猫ですから、3ヵ月しか経ってなくても油断できません。顔デカくんが来る前に、ねず美ちゃんを獣医さんに連れていかないといけません。
ということで、朝早く、美子ちゃんがいつもお世話になっている獣医さんにねず美ちゃんを連れていきました。ねず美ちゃんは勘のいい猫なので、なんのために獣医さんに連れてこられたかわかっているような気がしたと、美子ちゃんは言っていました。まったく騒ぐことなく手術台に乗っていて、それを見ると、美子ちゃんは申し訳ない気持ちでいっぱいだったそうです。
夕方、美子ちゃんと一緒に、手術が終わったねず美ちゃんを、獣医さんに引き取りに行きました。
ねず美ちゃんは、包帯代わりの黄緑色の保護服を着せられていました。「ねずちゃん」と声をかけても黙っています。家に連れて帰る間も、ねず美ちゃんは終始無言でした。怒っているのか、悲しんでいるのかわからないけど、何か訴えるような目で僕らを見るので、僕たちも黙ってしまいました。
家に帰って、ねず美ちゃんを猫入れのバッグから出すと、スタスタ歩いて僕たちの寝室に入り、寝るのかなと思って見ていると、なんと布団の上にウンコをしました。
ねず美ちゃんが布団の上にウンコをしたのは、後にも先にもこのときだけです。手術でウンコを我慢していたからかもしれませんが、美子ちゃんは絶対に抗議のウンコだと言います。
僕たちはねず美ちゃんの気分を和らげようと、あわててマタタビを手の平に出して差し出したのですが、ねず美ちゃんは見向きもしません。美子ちゃんが言うように、ウンコは子どもが産めない体になったことの抗議だったのかもしれません。マタタビを差し出す僕らを、「わたしはそんなものでは誤摩化されませんよ」と言うような目で見ているのでした。
手術後はあまり外に出さないようにとか、黄緑の保護服は4、5日は付けるようにとか、獣医さんに言われていたのですが、ねず美ちゃんはそんなことおかまいなしで、保護服はあっと言う間にビリビリ破いてしまうし、帰ったその日から外にも出かけていました。
美子ちゃんは、ねず美ちゃんに猫としての気骨を感じているようです。ペットではなく、一個の独立した動物と暮らしているということです。特に避妊手術のときは、僕もそれを強く感じました。
しかし動物のいいところは、日にちが経てば避妊手術のこともケロッと忘れていて、「わたしはもう子どもを産めない体なんだわ」などとウジウジすることなく、元気に暮らしていることです。