編集長が語る!講義の見どころ
人間はどうやって「理解する」のか?その秘密を『学力喪失』に学ぶ/今井むつみ先生【テンミニッツ・アカデミー】
2025/10/14
いつもありがとうございます。テンミニッツ・アカデミー編集長の川上達史です。
とても話題になった新書、今井むつみ先生の『学力喪失――認知科学による回復への道筋』(岩波新書)をご存じの方も多いのではないでしょうか?
この本、単純に「子どもの学力の現状」を説いた本ではありません。第5章までは、そのような事例が次々と紹介されるのですが、第6章以降で「人間が理解するとはどういうことか」が、あざやかに解明されていくのです。
第6章までの伏線がすべて回収されるというか、あたかも小さいお子さんが言葉を覚えて抽象化をして深く理解していく過程を追体験していくというか……。そんな感慨さえ覚える一冊です。
テンミニッツ・アカデミーでは、この本について、著者の今井むつみ先生に、とてもわかりやすくご解説いただきました。はたして、そこから見えてくるものとは?
◆今井むつみ:学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(全5話)
(1)数が理解できない子どもたち
人間はどうやって「理解する」のか?『学力喪失』から考える
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5956&referer=push_mm_rcm1
まず、今井先生は次のようにおっしゃいます。
《子どもの言語習得プロセスは、「生きた知識を習得するとはどういうことなのか」というすごく大事な問題に、とても大きな示唆を与えてくれる》
《結局、知識は言葉も含めて、暗記するものと思っていらっしゃる方が多いと思うのですが、子どもの言語獲得を研究していると、それは全然間違っているのです。そういうことではなくて、どうやって知識を自分でつくっていくかです》
どういうことでしょうか?
たとえば、私たちは普通に「歩く」という言葉を使います。しかし、ひと言に「歩く」といっても、人間が歩くのと、馬が歩くのと、オオサンショウウオが歩くのでは、大いに違います。
にもかかわらず、どうやってわれわれは、「歩く」という抽象的な概念を身につけたのでしょうか。
あるいは、「ウサギ」といっても、耳が極小のものから垂れているものまで、いろいろな種類がいます。にもかかわらず、われわれはどうやって「ウサギ」という抽象的な概念を理解しているのでしょうか。
抽象的な言葉を身につけるのは、なかなか不思議なことです。そのプロセスについて、今井先生は「子どもの学び」から迫っていきます。
たとえば今井先生は、とても象徴的なデータをお示しくださいます。
「2分の1と3分の1、どちらが大きいですか?」。この問いに、子どもたちの約24%が誤答するというのです。
しかも、学校でスキルは学んでいるので「通分」などの計算はできる。にもかかわらず、パッと「どちらが大きいか」と聞かれると、うまく答えられないのです。
しかし、よくよく考えてみれば、大人にしても、スキルを身につけたので作業はできるけれども、その本質をうまく理解できていないケースが、案外多いのかもしれません。
今井先生は、人間が理解するうえでの鍵は「スキーマ」だといいます。これは、経験を自分で一般化・抽象化してつくった暗黙の知識のこと。子どもは自分の経験から抽象化して、自分で発見していくのです。
しかもそこでは、アブダクション(仮説的推論)が重要になります。
これは、簡単にいってしまえば、「1つの点を、面にする」ようなもの。つまり、「ああ、これはこういうことなのね」と自分自身で仮説的に(あるいは妄想的に)「理解した」と思いこむようなことです。
もちろん、そこには飛躍もあれば、間違えていることも多々ある。しかし間違えているなら、それを受け止めて、「ああ、こういうことなんだ」とまた理解を深めていく。そういうことが、人間の創造性の原動力にもなっているというのです。
このあたりのことは、ぜひ講義本編でご覧ください。とてもわかりやすく理解することができます。
子どもも、そのような過程を繰り返して、言葉の意味を深く理解し、抽象化していきます。だからこそ、「なぜなぜ期」といわれる2歳から6歳くらいまでの時期に、1対1で話しをすることも大事ですし、しかも「教える」のではなく、子どもが「気づいていく」ように足場かけをすることが大切だといいます。
ちなみに今井先生は、子供たちが遊びながら「気づいていける」ような教材も、いろいろ開発してこられました。それらも、ぜひ講義でご覧ください。
そして講義は、さらに生成AIの「ハルシネーション(しれっと間違える)」問題に進んでいきます。
AIは「本当に理解しているのか」? たとえば、AIは「いちご」の形や色や、いちごが使われがちな文脈については答えを出せるかもしれない。けれども、「いちごの甘酸っぱさ」について、どこまで理解できるのか?
人間が本当に自分で使える知識を習得するときは、自分で経験して、自分で発見して、自分で点から面にしていきます。概念をたくさん知ったら、そのあいだの関係性や共通するパターンなどを抽出してスキーマをつくり、それをまた新たな学習に使っていきます。
それはアブダクションなので、もちろん間違いはある。しかし、「間違いを修正する」過程を経て概念を自分ものにしているのです。しかも、人間はある閉ざされたドメインの中で学習するだけではなくて、違うドメインで学習した知識をポーンと別の領域に持っていくこともできます。
しかし、その過程がAIには本当にあるのか。
このようなことを考えていくなかで、「人間が理解するとは、どういうことなのか」を深く理解していくことができる講義です。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆今井むつみ:学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5956&referer=push_mm_rcm2
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