編集長が語る!講義の見どころ
いかなる境地に達するか…徳と仏教の人生論/田口佳史先生【テンミニッツ・アカデミー】
2025/11/04
いつもありがとうございます。テンミニッツ・アカデミー編集長の川上達史です。
いかに生きるべきか。そして人間はいかなる境地に達することができるのか。
いうまでもなく、それは誰にとっても、とても大切な命題でしょう。しかし、これほどに難しい問いはありません。
本日は、そのことを考えるのに大きなヒントをいただける田口佳史先生(東洋思想研究者)の講義を紹介します。
田口佳史先生の講義でよく登場するテーマとして、松下幸之助に聞いた話があります。
松下幸之助に「経営者の条件は何ですか」と聞いたら、「運が強いこと」だといった。さらに「運を強くするにはどうすればいいか」と聞いたら、「徳を積むこと」と答えたというエピソードです。
田口先生は、これは「経営」に限らず、「人生の要諦(ようてい)」ではないかと語ります。今回の講義では、このことを切り口としつつ、人はいかに生きるべきか、いかなる境地に達することができるのかを、ご自身の人生を振り返りつつ、わかりやすく肉薄いただいています。
実は田口先生は、この話を30代で聞いてから、80代の今まで、ずっとその答えを求めて苦しんできたのだといいます。
では、田口先生はどうやってその「解」にたどりついたのか。今回の講義は、まさにそのことについて赤裸々にお話しくださいました。
田口先生をご覧になっている方はご存じと思いますが、「徳を積む」とは「自己の最善を他者に尽くしきること」が解答となります。では、それはどういうことなのか。
そのように考えていけばいくほど、まさに真の理解が求められます。さて、それはどのような境地なのでしょうか。
◆田口佳史:徳と仏教の人生論(全6話)
(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5990&referer=push_mm_rcm1
まず田口先生は、後藤新平の『道徳国家と政治倫理』という本を引きます。
後藤新平は、元々は医師でしたが、日清戦争の折に、兵士たちの検疫を担当し、その手腕の確かさを児玉源太郎に見込まれて、台湾統治に抜擢され、さらに満洲経営や、関東大震災後の復興事業などに辣腕を振るった人物です。
その後藤が何を語っているのか。田口先生は「生命至上主義」だといいます。
生命至上主義は、東洋思想の「ど真ん中」にある考え方で、東洋思想を追究するためには、この「生命至上主義」を頑固に主張しなければいけないのだといいます。
そして、その後藤が主張していることを簡単にいえば、「この宇宙は倫理に基づいてできているのであり、その宇宙と調和せずしてどうして成功がありうるか」ということだといいます。
では、「宇宙と調和する」とはどのようなことなのでしょうか。
田口先生は『書経』などの中国古典や、仏教の知恵などをひもときながら、その点に迫っていきます。
出てくるキーワードは、
「宇宙と一体になることの大切さ」
「宇宙を喜ばせること」
「正直が大切であること」
「仏法とは摩訶般若波羅蜜多であり、全人格思惟だということ」
「欲と精神性をどう考えるか」
「天命とは、世の人々のお世話係になること」
「天は大任をある人に託そうと思っているときに、その人物をきわめて過酷な境遇に追い込むということ」……。
これらの命題は、頭で考えることではなく、「全身で感じる」ものでありましょう。それができるのもまた、動画講義の良さではないでしょうか。
講義の最後の部分で、田口先生の参禅のご体験を踏まえつつ、「宇宙と一体になる感動を味わったときに、人間の判断はどのように変わるか」という質問に、田口先生は次のように答えてくださいます。
《自分中心から、先ほどのホリスティック、ホーリーに変わって、全体が見えるようになる。無理をして全体を見なければならないというより、自分はこのような視野を持っていたのだなというくらいに、全体を見ている自分がいるというように、視点が変わってくるわけです。ですから、自分で自分が不思議に思えるようになり、視野が広がっているのが分かると、そういうところも気になるようになるということです》
《文様とか何か見てくれに騙されて、表側はこうだ、裏側はこうだから全然違うというのではなく、それを通して共通している部分がたくさん見えてくるわけです。そうなると、見かけの状況で物事を判断しないということになってきます》
《そこに至った境地は絶対に後戻りしない。すっと次に行けるのです。そういう意味で、境地は裏切らない。人生はどのような境地に至るかということです》
《私は自分の人生をずっと見てみると、昔はずっと不愉快な境地でした。それで、60(歳)を過ぎてからは、こんなに愉快でいいのかというほどに、ますます愉快になるのです》
テンミニッツ・アカデミーで色々な先生方の様々なお話をうかがってきて、つくづく思うのですが、このようなお話を「頭」で「わかったつもり」になるのは、ある程度は容易いとしても、「本当に腹の底から理解できているのか」と問われると、まことに難しいと思わざるをえません。
田口先生が、幾十年も悩まれたというのは、まさにそこなのではないでしょうか。だからこそ、ぜひとも「視聴すべき講義」です。
(※アドレス再掲)
◆田口佳史:徳と仏教の人生論(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5990&referer=push_mm_rcm2
----------------------------------------
今週の人気講義
----------------------------------------
ケルト神話とは…ダーナ神族、アルスター神話、フィアナ神話
鎌田東二(京都大学名誉教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5013&referer=push_mm_rank
忠犬ハチ公で哲学する…人と犬の関係から見えてくる道徳論
一ノ瀬正樹(東京大学名誉教授 武蔵野大学人間科学部人間科学科教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1758&referer=push_mm_rank
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司(早稲田大学国際教養学部・国際コミュニケーション研究科教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5969&referer=push_mm_rank
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ(一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事/慶應義塾大学名誉教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5956&referer=push_mm_rank
世界で最もクリエイティブな国は? STEAM教育が広がる理由
中島さち子(ジャズピアニスト/数学研究者/STEAM 教育者/メディアアーティスト)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5921&referer=push_mm_rank
人気の講義ランキングTOP10
葛飾北斎と応為の見事な「画狂人生」を絵と解説で辿る
テンミニッツ・アカデミー編集部