編集長が語る!講義の見どころ
「頑張りすぎる人がうつになる」と言われるのは日本だけ!?/與那覇潤先生【テンミニッツ・アカデミー】
2026/04/06
いつもありがとうございます。テンミニッツ・アカデミー編集長の川上達史です。
いま世界中で「メンタルの不調」の問題が広がっています。とりわけ日本は、世界各国と比べても、メンタルの不調を抱える人の割合が多いとも言われます。
アクサ生命が16カ国で行なった調査でも、日本は「最下位」が続いているそうです(※調査対象:英国、フランス、イタリア、スペイン、スイス、ドイツ、アイルランド、ベルギー、米国、メキシコ、タイ、中国、フィリピン、香港、トルコ、日本の 18~75 歳(各国 1,000 サンプル ※独のみ 2,000 ) 。
なぜなのでしょうか。
ここで興味深い話があります。実は、「真面目すぎて、頑張りすぎる人が、うつになる」ということが言われるのは、実は日本だけだというのです。
やはり、日本の文化風土に何らかの特色なり、原因なりがあるのでしょうか?
本日は、そのことについて與那覇潤先生(評論家)にお話しいただいた講義を紹介いたします。與那覇先生は今回、中井久夫さんが書かれた名著『分裂病と人類』(東京大学出版会)を読み解きつつ、さまざまな事例も交えて考察くださいます。
そこから、日本人の心の問題の歴史的背景や特殊性がまざまざと浮かび上がってきます。はたして、そこから見えてくるものとは。
◆與那覇潤先生:日本人とメンタルヘルス…心のあり方(全7話)
(1)米を食べる日本人と『分裂病と人類』
日本人の生きづらさの特徴は?~中井久夫著『分裂病と人類』
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=6173&referer=push_mm_rcm1
まず、今回取り上げる『分裂病と人類』を書いた中井久夫さんとは、どのような方なのでしょうか。與那覇先生のご説明を抜粋引用してみましょう。
《中井さんは精神科医であり、またエッセイの名手でもありました。ご本人を知る方に伺うと、歴史がもともと好きな方でした。この方がさまざまな歴史、ある意味、歴史的な研究も踏まえつつ、日本人の心、そして精神とは何かを論じたのが『分裂病と人類』です》
さて、では上記で紹介した「真面目すぎて、頑張りすぎる人が、うつになる」といわれるのが「日本だけ」というのは、どういうことなのでしょうか?
與那覇先生は、まず「稲作ベースの社会であった日本の特性」から話を進めていきます。そのような「稲作社会」としてのあり方が、世界の中でも独特な日本人の考え方を生んでいるのだと。
さらに、日本ではこれまで、たとえば「うつ病になりやすいのは、執着気質だ」などというように、気質とメンタル問題を結びつけて考えられてきました。しかし、「メンタルの病気をしやすい性格があるのではないか」と考えるのは、特に日本とドイツで、他の国の学者はあまりそういうことを考えないのだといいます。
そのような「特殊性」の中で、さらに日本の場合には「頑張りすぎる人が、うつ病になりやすい」といわれてきたのです。
それがどのようなことかは、ぜひ講義第2話でご覧ください。
中井久夫さんは、ここで「二宮尊徳」に注目しました。
たとえば「儒教」と一口にいっても、中国や韓国の儒教と、日本の儒教とはまったく違います。
儒教とは、「人間はこのように生きるのが正しい」ということなどを真正面から論じる「道徳思想」です。しかし、日本の二宮尊徳が代表する儒教思想は「立て直しを促す思想」だったというのです。どのような思想なのか、與那覇先生のご解説を抜粋引用してみましょう。
《今ある世の中が、だんだんダメになってきている。昔はいっぱい稲が穫れた田んぼが、今はちょっとしか穫れなくなっている。畦道も崩れてしまい、水路もボロボロになった。そういうときに「元に戻そう」という考え方です。今はダメになっているけれど、しっかりメンテナンスをして元に戻そう、立て直そうとする道徳が、二宮尊徳の実践した道徳であり、儒教思想をそのように応用して生きていく人々が日本人である》
それこそ二宮尊徳の生涯は、そのような立て直しにかけた人生でした。
日本の「立て直し」に対して、中国や朝鮮の儒教は「世直し」だったと、與那覇先生はさらに解説を進めていきます。ここも、まことに興味深い視点です。講義の第3話で、さらに日本古来の倫理思想にも遡って、この点を検討していきます。
「立て直し」を重視してきた日本だからこそ「頑張り」が重視されてきたのだ。そう中井さんは強調しました。なるほど、メンテナンスが重要だということであれば、頑張れば頑張るだけ、状況は改善していきます。それは、まことに「稲作社会」的な生き方でもありました。そして、このようなあり方が「うつ病」を招いてしまうのだと。
では、「日本的な稲作社会」が「うつ病」を招いてしまうとすると、狩猟採取社会はどうなのでしょうか。
ここで中井さんが興味深い指摘をしています。「統合失調症の人は、狩猟採取社会では優れた特質だった」というのです。
うつ病は「気分の落ち込み」などに象徴される病気であり、統合失調症は「幻聴・妄想」が特徴的な病気です。つまり統合失調症は、それだけ鋭敏に状況を読んだり、先読みをしたりするということです。
このような鋭敏さや先読みは、狩猟の折には「優れた特質」だったと中井さんは指摘します。たとえば、あちらの森から「ザワッザワッ」と音がしたら、それだけで次に何が起こるかを察知する必要があります。統合失調症の人は、そのようなことに長けていた人なのではないか……。なるほど、言われてみれば、まさにそのとおりです。
では「稲作社会」的なあり方と「狩猟採取社会」的なあり方が、現代ではどうなったのか。それぞれの社会が、現代社会にはなにがしかの不適合を起こすわけですが、そのあたりの兼ね合いを、與那覇先生はSNS社会の現状などと対比させつつ論じていきます。
SNS社会は、どうしても統合失調症的な方向に寄っていく。LINEの「既読」への不安。SNS社会の情報の断片化による弊害……。
それぞれについては、ぜひ、與那覇先生の講義をご覧いただければと思いますが、このようななかで、明らかにこれまでの「二宮尊徳的道徳で生きていくのが正しい」と思えた時代が終わりつつあるのだといいます。
では、そこからどのようなことが生まれてくるのか。今後、どのような方向へと向かっていくのか。
それはぜひ、講義を味わいつつ、じっくりと考えてみたい問題です。本講義の最後には質疑応答編もありますので、いろいろなヒントをそこから汲み取ることができます。
社会背景や、思想哲学の背景をじっくりと考えてこそ、見えてくる景色がある。そのことが胸に迫り、自分の思考回路もグルグルと回転しはじめる講義です。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆與那覇潤先生:日本人とメンタルヘルス…心のあり方(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=6173&referer=push_mm_rcm2
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