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黒田日銀総裁のマイナス金利政策が及ぼす影響

マイナス金利導入~ルビコン川を渡った日銀の黒田総裁~

伊藤元重
東京大学名誉教授/学習院大学国際社会科学部教授
情報・テキスト
ガイウス・ユリウス・カエサル立像
世界の金融政策は、アメリカでQEが行われた際に、「ルビコン川を渡り、新しい時代に向かった」と言われている。そして、今回の黒田日銀のマイナス金利導入は、「さらにもう一本、ルビコン川を渡ったということだ」と、東京大学大学院経済学研究科教授・伊藤元重氏は語る。マイナス金利政策の影響や問題点について、伊藤氏が解説する。
時間:11:36
収録日:2016/02/09
追加日:2016/02/15
ジャンル:
≪全文≫

●黒田日銀総裁はもう1本のルビコン川を渡った


 2016年が明けてから、さまざまなことが次々に起こって、市場のこれからをどう見たらよいか、多くの専門家も含めて皆さん迷っていらっしゃると思います。中国や石油に端を発する世界的な金融の大きな変動はどこで収まるのか。日本銀行が行ったマイナス金利政策でマーケットにどういった影響が出てくるのか。どちらにしても、今後の動きを見ながら判断していくしかないだろうと思いますが、今日はマイナス金利政策について、いくつかコメントしてみたいと思います。

 ご存知のように、リーマンショックのあと、ベン・バーナンキ・連邦準備制度理事会(FRB)議長(当時)の下で、アメリカでは「QE」と呼びますが、量的緩和策が行われ、世界が大きく反応しました。2013年4月に黒田東彦日銀総裁が実行した「日本版量的緩和策」は、基本的にバーナンキの量的緩和策と同じ方法だと思います。バーナンキは、最近出した自伝『行動する勇気』で、これを行う際には相当の勇気が必要だったと書いています。簡単に言うと「劇薬」で、さまざまなマイナスの影響が想定されたが、それでも量的緩和策を実行しなければマーケットが大変なことになってしまうというのが、リーマンショック後のFRBの判断でした。このとき、世界の金融政策は一つの「ルビコン川」を渡り、新しい時代に入ったのだと思います。この劇薬のマイナス効果がどのようなものか。それを知るためには、いまアメリカが金融緩和に終止符を打とうとしていますから、それが今後どのような影響を及ぼすかを見ていなくてはなりません。

 今回、黒田日銀総裁がマイナス金利政策を採ったのは、さらにもう1本の「ルビコン川」を渡ったということです。マーケットは、この政策が経済にどのような影響を及ぼすか、まだ十分に判断できていません。そのため、株価は上がったり下がったりしていますし、為替もいったん円安の方に振れましたが、また円高に戻っています。

 今の段階では、マイナス金利政策が日本に悪い影響を及ぼすかどうかよりも、この政策が本当に効くのかどうかに関心が集まっています。マーケットは、もし効果がないと判断すれば、二つの反応を示すでしょう。一つは、そろそろ日本銀行の政策が手詰まりになってきたと考え、マーケットは悲観的になります。もう一つ、マーケットが今後も日本銀行の政策は十分な効果を発揮しないと判断したら、いま中国や石油が原因で起こっている世界経済の大きな問題が日本にも跳ね返ってくるでしょう。実際に、最近株価が下がり、為替が円高に向かっているのは、その兆候が出てきているのだと思います。

 ただ、マイナス金利政策の効果は、プラスもマイナスもまだよく分かりません。何しろ日本初の政策ですから。現在、市場はマイナス金利政策がどのような影響を及ぼすのかを見極める流れになっていると思います。その意味では、このまま円高、株安の一方向で動くとは限りません。少し気をつけて見る必要があるでしょう。


●マーケットはまだ効果を懐疑的に見ている


 ご存じのように、そもそも世界で最初にマイナス金利政策に踏み切ったのはスイス、スウェーデンで、それを追いかける形で欧州中央銀行も行いました。これは、バーナンキや日本銀行の金融緩和策よりもさらに踏み込んだ、ある意味では「イノベーティブな政策」です。量的緩和はもちろん大事ですが、買い上げられる国債に限度がありますし、そもそも国債の買い上げを通じて、間接的な金利の引き下げ効果を期待する政策です。それなら、最初からマイナス金利という形で、金融機関が中央銀行に預ける当座預金の金利を直接マイナスにしていく方が分かりやすい。さらに、金利のマイナス幅をさらに広げていけば、追加的な金融緩和の強化も可能です。ですから、欧州がマイナス金利政策を実行したときの反応の一つは、これでさらに追加緩和の世界に入っていくだろうということでした。

 ただ、マイナス金利政策にはいくつか大きな問題があります。量的緩和も同じような問題を抱えていますが、特にマイナス金利政策は、金融機関の経営に大きな影響を及ぼす可能性がある。金融機関が中央銀行に預けている当座預金の金利がマイナスになるのですから、利益が大きく阻害されます。しかし、その資金をどこか他へ持っていけばよいかというと、その機会も少ないのが現状です。それから最大の問題は、一般国民の預貯金にマイナス金利を適用するのが政治的に難しいことです。理論的には、日銀が金融機関の預金にマイナス金利をかけるのと連動して、世の中のさまざまな金利がマイナスになれば、経済全体はずいぶん刺激を受けますが、一般国民にとっては、毎月預金に手数料がかかるという世界がなかなか容認しがたいと思うのです。

 加えて、絶対にマイ...
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