●スーパーパワー・中国を見るいくつかのポイント
今度は、中国についてです。中国をどう見るか。中国は、アメリカと並んで世界経済を束ねるスーパーパワーですが、いくつかポイントがあります。
近年の中国の成長が鈍くなっている。それから、景気が停滞している。これが、世界経済の減速の最大の要因です。これは、皆さんご存じですね。
それから、中国は非常に大きな構造問題を抱えています。過剰設備、過剰融資、不良債権。こういう問題が克服可能なのかというのは大問題です。克服できないと、中国は、ハードランディングするだろうと思われます。いろいろなところに被害が及びます。日本やアジア、世界経済に衝撃が走ります。
次に、軍事拡張主義。特に、南シナ海、尖閣列島に関しては、誰が見ても、ちょっと度を外しているように見えますよね。
●憲政をしていない大国・中国の長期展望
そこで、中国の長期展望はどうなるのかということです。今は一党独裁です。どの国も、やがては民主主義になるというのが期待されているのだけれど、中国はどうなのだろうかと。中国をさかのぼってみると、清朝を倒して1911年に辛亥革命をやった孫文という先生がいます。この人は偉大な思想家です。ただ、少し脇が甘いのと人がいいので、すぐやっつけられてしまいましたが、死ぬまで頑張りました。蒋介石という素晴らしい弟子をつくり、中国統一に師弟をかけて成功しました。
孫文は、1924年にこう言っています。「国の発展段階は、全く何も知らない国民相手だから、王朝から動いても何も分からないので、最初は軍政である、軍が全部仕切るべきだ。次が、訓政だ。そして、最後が憲政だ」と。この3段階で国はまとまると言っています。立派な人ですね。この人は大思想家ですね。孫文は、軍政を蒋介石と一緒にやった。訓政もやりました。国民党1党でした。しかし、1949年に憲法を定め総選挙をやっています。初めて憲政に手が掛かったのです。その時に、内部で腐敗もあったのですが、奥地にいた毛沢東たちにやられて、追い出されて台湾に行きました。一晩で憲政の夢はついえたのです。
そして、今の中国はどうかというと、選挙をしていません。1949年以来、1回も選挙をしていません。地方では選挙をやりますよ。けれども、総選挙はやっていない。ということは、中国の現政権を国民が選んでいるという自覚は、国民にないわけです。恐らく、「勝手なことをしてるな」という気持ちが多くの人にあると思います。これは、国のガバナンスとしては非常にまずいのです。先進国の中で選挙していない国というのは、恐らく主要国でいえば、中国だけだと思います。憲政をやっていないのです。これがいつまで続くのか。民主化はあるのか。これも大きな問題であり、関心事です。
●別れることのできない巨大な隣人・中国
中国をどう見るかというのは、日本のこれからの進路にとって非常に重要です。中国は、日本が低為替レート政策を採ったこともあって、2010年ごろには名目成長率が並んだのに、今や中国は3倍ぐらいになっているんじゃないか、なぜこんなに差がつくのか、というくらい、ものすごい国力の差がついています。中国は日本にとって巨大な隣人で、しかし、住所を変えられないですから、われわれは好むと好まざるとにかかわらず、中国とは良い隣人でなければならない。好き嫌いは許されないのです。誰かが言っていました。「離婚は簡単にできる。だけど、中国と別れることはできない」。中国と離婚はできないという関係なんですね。これはすごく重要です。
●高度成長期から成長鈍化時代へ
では、それぞれについて少し考えていきたいと思います。中国の成長がどんどん鈍化しています。鄧小平が改革開放をうたってから30年間、正確には、1978年から2010年までが高度成長期と言われますが、実質成長率が年率9.6パーセント。すごいでしょう。世界の比重が3パーセントだった経済が20パーセントの大きな経済になりました。2011年から2015年にかけては実質7.8パーセント、名目11.4パーセント。最近は実質6.9パーセント。昨年2016年に発表された「13次5カ年計画」は2016年から2020年までなのですが、平均6.5パーセントと政府が想定している。しかし、いろいろな分析家によると、5パーセント、4パーセントも行っていないのではないかという議論もあって、それが世界経済を引きずり下ろしているという説もあります。
●成長率鈍化より深刻な中進国特有のジレンマ
しかし、私の見方では、経済成長率の低下自体は全然問題ではないです。なぜかというと、中国は低下すべくして低下しているのです。どういうことが起きたかというと、2つの大構造変化です。
1つは、なぜか成熟国になってきたのです。賃金も高いし人口も減りだした。そうすると、労...