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中進国のジレンマに陥る中国と習近平が掲げる「新常態」

2017年世界と日本(4)中国経済高度化と拡張主義(前編)

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
高度成長期を終えた中国がいま抱えているジレンマと、そのジレンマからの脱却に向ける習近平の方針などについて解説する。「巨大な隣人」中国を、日本は、世界はどう見ていくべきなのだろうか。(2017年1月24日開催島田塾第142回勉強会島田晴雄会長講演「2017年 年頭所感」より、全11話中第5話)
時間:11:18
収録日:2017/01/24
追加日:2017/05/06
カテゴリー:
≪全文≫

●スーパーパワー・中国を見るいくつかのポイント


 今度は、中国についてです。中国をどう見るか。中国は、アメリカと並んで世界経済を束ねるスーパーパワーですが、いくつかポイントがあります。

 近年の中国の成長が鈍くなっている。それから、景気が停滞している。これが、世界経済の減速の最大の要因です。これは、皆さんご存じですね。

 それから、中国は非常に大きな構造問題を抱えています。過剰設備、過剰融資、不良債権。こういう問題が克服可能なのかというのは大問題です。克服できないと、中国は、ハードランディングするだろうと思われます。いろいろなところに被害が及びます。日本やアジア、世界経済に衝撃が走ります。

 次に、軍事拡張主義。特に、南シナ海、尖閣列島に関しては、誰が見ても、ちょっと度を外しているように見えますよね。


●憲政をしていない大国・中国の長期展望


 そこで、中国の長期展望はどうなるのかということです。今は一党独裁です。どの国も、やがては民主主義になるというのが期待されているのだけれど、中国はどうなのだろうかと。中国をさかのぼってみると、清朝を倒して1911年に辛亥革命をやった孫文という先生がいます。この人は偉大な思想家です。ただ、少し脇が甘いのと人がいいので、すぐやっつけられてしまいましたが、死ぬまで頑張りました。蒋介石という素晴らしい弟子をつくり、中国統一に師弟をかけて成功しました。

 孫文は、1924年にこう言っています。「国の発展段階は、全く何も知らない国民相手だから、王朝から動いても何も分からないので、最初は軍政である、軍が全部仕切るべきだ。次が、訓政だ。そして、最後が憲政だ」と。この3段階で国はまとまると言っています。立派な人ですね。この人は大思想家ですね。孫文は、軍政を蒋介石と一緒にやった。訓政もやりました。国民党1党でした。しかし、1949年に憲法を定め総選挙をやっています。初めて憲政に手が掛かったのです。その時に、内部で腐敗もあったのですが、奥地にいた毛沢東たちにやられて、追い出されて台湾に行きました。一晩で憲政の夢はついえたのです。

 そして、今の中国はどうかというと、選挙をしていません。1949年以来、1回も選挙をしていません。地方では選挙をやりますよ。けれども、総選挙はやっていない。ということは、中国の現政権を国民が選んでいるという自覚は、国民にないわけです。恐らく、「勝手なことをしてるな」という気持ちが多くの人にあると思います。これは、国のガバナンスとしては非常にまずいのです。先進国の中で選挙していない国というのは、恐らく主要国でいえば、中国だけだと思います。憲政をやっていないのです。これがいつまで続くのか。民主化はあるのか。これも大きな問題であり、関心事です。


●別れることのできない巨大な隣人・中国


 中国をどう見るかというのは、日本のこれからの進路にとって非常に重要です。中国は、日本が低為替レート政策を採ったこともあって、2010年ごろには名目成長率が並んだのに、今や中国は3倍ぐらいになっているんじゃないか、なぜこんなに差がつくのか、というくらい、ものすごい国力の差がついています。中国は日本にとって巨大な隣人で、しかし、住所を変えられないですから、われわれは好むと好まざるとにかかわらず、中国とは良い隣人でなければならない。好き嫌いは許されないのです。誰かが言っていました。「離婚は簡単にできる。だけど、中国と別れることはできない」。中国と離婚はできないという関係なんですね。これはすごく重要です。


●高度成長期から成長鈍化時代へ


 では、それぞれについて少し考えていきたいと思います。中国の成長がどんどん鈍化しています。鄧小平が改革開放をうたってから30年間、正確には、1978年から2010年までが高度成長期と言われますが、実質成長率が年率9.6パーセント。すごいでしょう。世界の比重が3パーセントだった経済が20パーセントの大きな経済になりました。2011年から2015年にかけては実質7.8パーセント、名目11.4パーセント。最近は実質6.9パーセント。昨年2016年に発表された「13次5カ年計画」は2016年から2020年までなのですが、平均6.5パーセントと政府が想定している。しかし、いろいろな分析家によると、5パーセント、4パーセントも行っていないのではないかという議論もあって、それが世界経済を引きずり下ろしているという説もあります。


●成長率鈍化より深刻な中進国特有のジレンマ


 しかし、私の見方では、経済成長率の低下自体は全然問題ではないです。なぜかというと、中国は低下すべくして低下しているのです。どういうことが起きたかというと、2つの大構造変化です。

 1つは、なぜか成熟国になってきたのです。賃金も高いし人口も減りだした。そうすると、労...
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