●アベノミクスの成果に対する厳しい評価-二つの原因
2017年年末をもって安倍内閣発足からちょうど5年、つまりアベノミクスによる5年が経過したということになります。これまでの成果や課題、またこれからの方向を考えるのに非常にいいタイミングだと思います。
一般的に見ると、アベノミクスの成果に対してなかなか厳しい意見も多いように理解しています。特にその原因と思われるものが二つあります。一つはデフレ脱却についてです。アベノミクスでは、とにかくデフレから脱却するということを前面に出しました。とりわけ日銀総裁に就任した黒田東彦氏は、2013年4月の段階で「2年以内にインフレ率を2パーセントにもっていく」という目標を立てたわけですが、5年たってみると物価も賃金もなかなか上がっていません。そういう意味ではアベノミクスの一番の目標であったデフレ脱却という成果が出たとは言いにくい面があります。
もう一つは、日本の潜在成長率です。これは経済成長のトレンドのようなものですが、この潜在成長率がなかなか上がっていかない、ということにあります。アベノミクスはやはり成長戦略を前面に出したわけですから、潜在成長率が上がっていないということで、ある種の閉塞感があるのです。
このように、物価、賃金が上がりにくい、そして潜在成長率が上がっていないという、アベノミクスに対する厳しい見方があるのです。
●最も注目すべき成果は名目GDPの回復
ただ、これ以外の数字でみると、いろいろな成果が出ていると思います。
物価、賃金がなぜ上がらないのか、あるいは成長率がなぜ上がらないのか、ということについては改めて議論する必要があると思いますが、それ以外のところで、一番注目すべきなのは、名目GDP(国内総生産)の数字です。これは経済の規模感を見る上で非常にいいのですが、1997年に532兆円前後の水準を記録してから、実はそれから15年間、日本の名目GDPは低い数字になってしまったのです。1997年、98年あたりで金融危機があり、経済は非常に混乱し、そのあとデフレも起きてGDPはずっと下がっていきました。
小泉内閣の途中から、日本のGDPは増え始めて回復基調に向かうのですが、97年の水準に戻る前、2008年にリーマンショックが起こったことで、日本の名目GDPは下がっていきました。また、2011年に起こった東日本大震災の影響で、さらに下がり...