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現実離れしたお経を唱えながら成り行きを見守るしかない

混迷するイラクと対応策が分からないアメリカ

岡崎久彦
外交評論家
情報・テキスト
ヌーリー・マーリキー
今、イラクでは反乱軍が蜂起して勢力を伸ばしている。また、クルド人自治区が独立を画策している。そこにはどのような背景があるのか。なぜアメリカはなかなか介入しようとしないのか。イラク情勢に精通する岡崎久彦氏が複雑に絡み合う状況を解説する。
時間:10:49
収録日:2014/06/25
追加日:2014/07/24
ヌーリー・マーリキー
今、イラクでは反乱軍が蜂起して勢力を伸ばしている。また、クルド人自治区が独立を画策している。そこにはどのような背景があるのか。なぜアメリカはなかなか介入しようとしないのか。イラク情勢に精通する岡崎久彦氏が複雑に絡み合う状況を解説する。
時間:10:49
収録日:2014/06/25
追加日:2014/07/24
≪全文≫

●アメリカは、マリキのスンニ派弾圧に手を貸せない


岡崎 イラクは、私自身もどうしてよいのか分からないのです。「オバマ大統領は何をもたもたしているのか」という声が強いけれども、オバマがどうしてよいか分からないのは、分からないでもありません。

 例えば、今、イラクで反乱軍が出てきて、首都を脅かすようになっています。それなら、アメリカは現政権のマリキ首相を助ければよいではないかと思うでしょう。ところが、マリキは、アメリカ軍が全面的に撤兵せず、少し残った方がいいのではないかと延々交渉したのに、断固必要ないと言ってアメリカ軍を追い払った人なのです。

 一方でマリキは、スンニ派とクルドを大事にしなければならない、シーア派の専制政治を敷いてはいけないと国際社会から言われていたにもかかわらず、シーア派の専制政治を敷いて、スンニ派を全面的に怒らせてしまいました。今度の反乱軍はスンニ派です。この経緯を踏まえると、アメリカは当分マリキを支持できないでしょう。

 ところが、マリキを押さえつける勢いのスンニ派反乱軍の主力はアルカイダ、つまりテロリストなのです。ついこの前、オバマが士官学校で演説をしたのですが、その中で「テロリストが最大の敵だ」とはっきり言いました。そこには、バランス・オブ・パワー(勢力均衡)を嫌うオバマが、中国との敵対関係を避ける狙いがありました。つまり、中国ではなくテロリストこそが最大の敵だという意味でそのような発言をしたのです。きっとテロリストが急に出てくると思わなかったのでしょう。

 しかし、その発言から1カ月も経たないうちにテロリストが蜂起しました。ですから、この反乱軍はつぶさざるを得ません。ところが、反乱軍を攻撃すると、今度はマリキのスンニ派弾圧に手を貸すことになってしまいます。このようにして、オバマはイラクに対してどう対応してよいか分からなくなっているのです。


●クルド人自治区を独立させるのも難しい


岡崎 それからもう一つ、シーア派のイランがマリキの後ろにいるのです。イランは、今まではアメリカの敵でした。それどころか、ペルシャ湾岸のサウジアラビア、バーレーン、カタール、クウェートもアメリカと一緒になってイランを敵視していました。そこで急にアメリカとイランが手を組んだら、湾岸の国々が怒ってしまいます。

―― サウジアラビアなどは、たまったものではないでしょう。

岡崎 ですから、それもできないのです。さらに言えば、イラクのクルド人自治区を独立させることができればよいのですが、これも難しい。クルド人自治区は今でも全イラクの中で一番平和で、旅行者が皆、昼も夜も平気で道を歩いています。生活水準も高く、住人たちも皆、クルド自治政府の対応を大変喜んでいます。ですから、本当は独立させてしまえばよいのです。米軍撤兵の際、アメリカの軍事専門家の一部は、クルド自治政府と安保条約を結び、クルド人自治区に空軍基地をつくればよいのではないかと主張したほどです。

―― クルド民族の分離でしょうか。

岡崎 そうです。しかし、クリミア半島に侵攻したロシアのように国境を変えてはならない、分離してはならないのです。さらに、イラクのクルド人自治区を独立させると、トルコとイランが怒るのです。

―― クルド人は、トルコとイランにも多く住んでいますから。

岡崎 ですから、それもできません。何もできないのです。私もどうしてよいか全然分からないのです。先日、この問題についての論評...
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