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戸嶋靖昌と平野遼の絵に込められた魂

魂の芸術(5)「宇宙の呼吸」―求心と遠心

概要・テキスト
戸嶋靖昌は、がんを宣告され、自らの余命を2カ月~3カ月と聞いてから、最後に作品を完成させたいと、治療も受けずに絵を描くことに打ち込み、それが絶筆となった。戸嶋の絵の凄い点は放散していく力。いわば遠心力である。一方、もう1人、執行草舟が惚れ込んだ画家・平野遼の絵は「求心力」の絵である。遠心力と求心力、両者の組み合わせは、まるで宇宙の呼吸である。芸術家が全身全霊を傾けた作品は、自らの魂を賦活してくれる。(全10話中第5話)
※インタビュアー:神藏孝之(10MTVオピニオン論説主幹)
時間:14:34
収録日:2019/09/11
追加日:2019/12/06
カテゴリー:
≪全文≫

●命を捧げ尽くした「絶筆」


執行 僕は後世に伝えたいのは、戸嶋は絶筆を描くときに、「もう何カ月で死ぬ」と医者に宣言されました。「治療に専念しなさい」といわれたのですが、治療に専念せず、そのまま2カ月か3カ月の命を「僕は死ぬまで芸術にぶつける」ということで、「じゃあ執行、お前の肖像画を描かせてくれ」と言ったのです。

 僕は止めましたが、「もう一回描く」と。これは世界でも珍しい絶筆で、いつ死ぬのかわかってから、初めて描きだした絶筆なのです。

―― すごいですね。時間制限のある中で描き始めたのですね。

執行 普通、絶筆というと描いてる途中で死んでしまったものを指します。この絶筆は違います。あと2~3カ月後に死ぬとわかってる人間が、最期のエネルギーを全部「俺は自分の芸術に叩きつける」ということで描いたものです。「50号の絵を描かせろ」ということでこの絵を描きだし、僕が毎日モデルをして最後に完成した日、夜の11時に「完成した」と言ってその場でひっくり返って倒れたのです。

―― 燃え尽きたわけですね。

執行 そのまま入院して、あとは死ぬまで昏睡状態でした。そういう非常に珍しい絶筆なのです。

―― すごいですね。

執行:これが、戸嶋の最後の絵。50号の絵を描くには、結構体力も使いますから。

―― それをやられたわけですよね。

執行 この絵に最後の筆を入れて倒れたのです。僕は戸嶋が「もう死ぬ」とわかっている命を全部、芸術に捧げ尽くして死んだことも、後世に伝えたいのです。

 この絵は戸嶋流に言うと、西洋の正統の油絵と日本の白鳳文化の揺らぎが合体した絵で、それがやっと描けたのです。戸嶋は自分が理想としている絵画を最期に描けたという言葉を残して死にました。だから芸術家としては無名のまま死んだけれども、僕は戸嶋は、すごく幸せな人生を送ったと思います。憧れていた絵が最期に描けて、自分の新しい道が見つかったと言って死んでいったのですから。こういう人生が送れたのも、戸嶋が芸術に、もともと命を懸けていたからです。

―― まったく無名のまま、最期に完全燃焼して死ねるという。ゴッホもそうですが、結構多いですよね、無名のまま死んでいった画家は。そして死後、誰かが見つけてくれる。

執行 そうです、誰かがやらなければなりません。

―― その魂を見つけてくれる。

執行 戸嶋ぐらいすさまじい生...
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