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越波式波力発電…波の力を解明しいかに発電に役立てるか

津波の力と波力発電の可能性

田中博通
東海大学海洋学部 教授
情報・テキスト
東日本大震災で甚大な被害をもたらしたように、「波」のエネルギーは計り知れない。その強大な力を生かした「波力発電」の研究が、いま急ピッチで進められている。島国・日本の環境に即した再生可能エネルギーを追求する東海大学海洋学部教授・田中博通氏が波力発電の可能性を語る。
時間:11:00
収録日:2015/11/24
追加日:2016/02/01
≪全文≫

●津波の力を解明し、リスク回避に役立てる


 東海大学海洋学部の田中博通と申します。私の専門は土木工学の中でも流体力学で、特に河川工学や海岸工学が専門です。私の大学院時代の恩師が、日本でも死者が出た1960年のチリ地震津波の後、津波のシミュレーションをやろうということで、当時アナログだったコンピューターを使ったりして、苦労しているのを見聞きしていました。それから、2011年3月11日に太平洋沖で起こった東日本大震災では尊い1万9千余名の命が亡くなりましたが、家たる家が流されていくVTR映像を見て、いったい津波にはどういう力が働くのだろうかということで、研究を始めました。

 津波は、「波」と書くものですから、平時の海で一般に寄せてくる波を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、実は津波というのは、水の塊が押し寄せてくるものです。これを「段波(だんぱ)」と言いまして、それを再現して、実験しています。

 一般に現在は、津波において浸水深の3倍の静水圧で設計するようにとなっていますが、流れの中にある物体には、ここに示しますように、まず、津波が物体に当たるときの衝撃波圧がかかります。それは、静水圧、動圧を含んだものです。また、流れの中の物体には、当然抗力という力が働きます。それは、流れ方向の力です。それから、流れ方向に直角に浮力も働くだろうし、揚力も働きます。こういった総合的な研究をしていくことが、津波力の解明につながるかと思います。

 2011年の大震災においては、原発なども非常に大きな事故となり、15万人に及ぶ住民が避難することにもなっていますが、どう考えてみましても、般若心経にあるように、「色即是空」「空即是色」、すなわち物体は永遠ではありません。壊れます。そして、人間というものは当然ミスもします。ミスをしたときに、取り返しのつかない事故や災害に遭うことは、やはり避けるべきです。科学技術はいろいろと進歩し、その中でさまざまなものがつくられてきました。新たなものをつくったり開発したりすることも技術ですが、リスクの大きなことを避けることもまた技術であるわけです。そういうことが学問の大事な部分かと思います。


●森の活用で目指すバイオリファイナリー


 特にエネルギー問題を考えますと、再生可能エネルギーには、ご存知のように、太陽光、風力、それからバイオマスや地熱などによる発電があります。山国である日本で私が特に注目しているのが、バイオマスです。例えば、デンマークやドイツ、フィンランド、オーストリアでは、国中の至るところにバイオマスでの発電ができています。

 現在わが国においては、化石燃料、特に石油から車の燃料をつくったり、プラスチックをつくったりと、さまざまに利用しています。これをオイルリファイナリーといいます。しかしこれは永遠ではありません。そこで、バイオマスです。バイオマスを利活用して、それによって電気や熱をつくる。または、バイオマスプラスチックをつくったり、水素つくったり、カーボン素材をつくったりする。これをバイオリファイナリーといいます。これからは、オイルリファイナリーからバイオリファイナリーに転換していくことが非常に重要だと私は思います。

 なぜバイオリファイナリーが大事かというと、人間も生物ですから、オイルリファイナリーの世界では、人間は自然の循環から離れたことになっているわけです。しかし、バイオリファイナリーになると、人間が改めて自然の循環の中に組み込まれて、それは非常に永遠な、いわゆる持続可能な社会になるわけです。そういう意味で、やはりバイオリファイナリーを大いに進めていくべきだと考えるのです。また、バイオリファイナリーの場合、地産地消の産業や新たな技術が必要になってきます。そこで新規産業や新たな雇用も生まれます。

 また、さらに重要なのが、山の養分です。川や海の養分は、実は山から出ています。日本の山を見ると、ほとんどが針葉樹になっています。杉やヒノキ、サワラなどの針葉樹です。これは、戦後の針葉樹大造林計画に基づいて山を整備してきたためです。ところが、針葉樹は、実は養分があまり出ないのです。よく「フルボ酸鉄」ということがいわれます。鉄は水中では粒子状で、生物が吸収できません。しかし、広葉樹の葉が積もって朽ちて、いわゆる腐植土になると、その中でフルボ酸が生まれます。これと鉄が結び付いたフルボ酸鉄という形だと、生物は容易に体内に鉄を取り込むことができるのです。このフルボ酸の量は、広葉樹の方が針葉樹よりも1桁大きい。畠山重篤さん(水山養殖場代表取締役・京都大学フィールド科学教育研究センター社会連携教授)が「森は海の恋人」と述べていますが、山には自然植生としての広葉樹が増えることが本当に大事だと思います。
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