●中東で繰り広げられているのは「ポストモダン型戦争」
- 中東では度々、大きな戦争が行われている。計4回の中東戦争、米欧によって外から持ち込まれた湾岸戦争とイラク戦争、レバノン戦争は2回もあり、パレスチナ自治区・ガザをめぐるイスラエルとパレスチナのイスラム過激派組織ハマスとの間の事実上の戦争であるガザ戦争も2回にわたって行われている。
- 中東の歴史と政治は、プレモダン(前近代)から、モダン(近代)、そしてポストモダン(近代以降)ともいうべき三つの原理が非常に複雑にもつれ合い、絡み合っている。そして、近代の原理である自由や人権、民主主義の意味を失ったかのように思われるポストモダンの時代に、不幸な戦争が繰り広げられている。
- しかも、中東では、戦争を究極形態とする国家間の争いもさることながら、国家以上に力をつけ、国家主権に挑戦している非国家主体がその戦線を米欧にまで拡大している。
ポストモダン型戦争と第二次冷戦(1)緊張の構造(山内昌之)
●現在の緊張状態は「第二次冷戦」
- 2008年のロシアとグルジアの武力衝突や、2014年のクリミア併合によって深まった緊張に満ちた局面は、シリア戦争でさらに深まっている。この「第二次冷戦」ともいうべき事態は、東欧や中欧から中東に至るアメリカの戦略的な影響力が低下し、EU統合の理念の限界が露呈したことと無縁ではない。そこに政治の真空が生まれ、力の不均衡が生じれば、国際政治の上ではその空白を埋める作用が必ず起こってくるのが常である。
ポストモダン型戦争と第二次冷戦(1)緊張の構造(山内昌之)
- 第二次冷戦の各プレーヤーには大きな共通性がある。ロシアや中国なども、共に一種の全体主義や権威主義の統治様式に依拠しており、国際政治経済から国際法に至る米欧本位のシステムに対し、正面から挑戦している。
ポストモダン型戦争と第二次冷戦(1)緊張の構造(山内昌之)
●露土関係の悪化で第二次冷戦は新段階へ
- かつてシリアで行われていたのは、シリアの春を圧迫したアサド政権と反政府勢力との内戦という局面であり、中東の地域レベルでは、アサド政権容認の是非をめぐる関係各国の間の代理戦争という性格を持っていた。そして国際レベルでは、シリアはウクライナやクリミアとともに、第二次冷戦の中で局地的に熱戦が行われる一種のエネルギー放出の場になっている。
- 2015年9月30日にロシアがシリア空爆を開始し、11月25日にトルコ軍機によってロシアのSU‐24が撃墜されたことを機会に、ロシアは、もはや代理戦争のパトロンであるという仮面をかなぐり捨て、シリア内戦を通常の戦争に変える立役者になった。いまや、ロシアはシリア戦争の当事者だといっても過言ではない。
- ロシアとトルコの対立がますます深まっていく中、さらに、ロシアとイランとの同盟が強化され、第二次冷戦は新しい段階に入ったといえる。
ポストモダン型戦争と第二次冷戦(2)世界規模の複合危機(山内昌之)
●「ポストモダン型戦争」+「第二次冷戦」=「複合危機」
- トルコとロシアが関係するシリア戦争には、第二次冷戦とは全く異質な、ポストモダン型戦争ともいうべき要素が含まれている。この点にこそ、いま中東で進行している事態の危機的性格が潜んでいる。この第二次冷戦とポストモダン型戦争の二つが結び付いた「複合危機」がグローバルに進行しかけている点に、21世紀の難問が集約されている。
- 2015年11月13日のパリ同時多発テロなど、無差別大量殺人を公然と行うというテロの質と量を大きく変化させた点において、これらはポストモダンに特有の新しい戦争として理解するのが、事態の本質に迫るのではないか。
ポストモダン型戦争と第二次冷戦(2)世界規模の複合危機(山内昌之)