● ウィーンでのイラン核協議最終合意

・肯定的評価
  • 最終合意は、イランの核問題に関する唯一の現実的な外交的解決として評価する声がある。すなわち、これまでのアメリカの採っていた封じ込め政策は成功せず、むしろ逆効果だったという考えだ。
  • 忘れてはならないことは、イランの市民たちは、単純に核の保有に反対する人たちではないということだ。イランの市民たちは、この最終合意によって、6000基の遠心分離機の所有が認められたことを歓迎している。
・否定的評価
  • この最終合意は、アメリカやEUとの関係を正常化することは間違いないが、同時に確実なのは、イスラエルやサウジアラビアをはじめとするGCC諸国との関係を、ますます厄介なものにするということである。
  • 核を持とうとしている意思、あるいは、核開発が可能であるというところに到達した国のことを核敷居国というが、イランは、そうした特殊な地位をここで事実上認められたと言ってよろしい。
  • 西側には、イランの人権問題やアラブ世界への干渉政策はそのまま放置した上で、最終合意を結んだことに対する批判が非常に根強い。しかも、最高指導者のハメネイは、今回の最終合意は決してイランの全体政策を変えるものではないと明言している。
イラン核協議最終合意の意味(1)肯定的評価と否定的評価
・中立的評価
  • 7月14日のオバマ大統領の声明において、もしイランが核兵器を秘密裏に開発しようとしているならば、あるいは、核兵器の秘密の開発が実際に行われていることが近い将来露見した場合には、制裁が再適用されると明言した。オバマ大統領は、軍事行動のオプションもその場合は残る、ということも併せて述べた。
  • 中東における地域協力の枠組みは、どのように可能なのかということを考えないと、実は今回の最終合意の正否について語ることはできない。
  • 最終合意によって、イスラエルは、イランの脅威を口実にして和平への実現に熱心でない現状に対し、改めて見直す可能性が出てきたということだ。他のアラブ周辺諸国に対する過剰な防衛的思考を払拭するチャンスにもなっている。
イラン核協議最終合意の意味(2)中立的評価

●経済制裁解除~アメリカ・イラン間の緊張緩和

ローハニ大統領
  • 2016年1月16日、米欧などによる経済制裁が解除された。核合意と制裁解除を機に、アメリカとイランとの間に緊張緩和(デタント)が進めば、アメリカは、冷戦期のようにイスラエルとサウジアラビアを同盟国として絶対視する旧思考から抜け出し、中東和平の気運が高まるという可能性を全面的に排除することはできない。
中東最新事情を読む(2)イランの国際社会復帰

●経済制裁解除~イラン経済は上向きに

  • イランが経済制裁を解除され、核合意を今後順調に履行し続けるとすれば、最低1000億ドルと目されている、邦貨換算約12兆円のイランの海外資産の凍結が解除されることとなる。
  • 最低1000億ドルと考えておくと、このほとんどはイランが自由に投資や貿易への原資としてつぎ込むことができるお金になる。したがって、イラン経済は上向きになることは確かだ。
中東最新事情を読む(3)イランとサウジ、どちらが上手?

●デタントとイランの影響力を許さないロシアの決意

  • ウィーンにおける最終合意で、テヘラン政府とワシントンとの間には、一種のデタント(緊張緩和)的な機運が生まれ、進行している。それに対してロシアは、自らの重要権益であるウクライナとシリアに関わる事柄についてのデタントは許さないという決意を、意思だけではなく姿勢によって明白に示した。
  • イランの野心は、イランの北にあるカスピ海西側の産油国であり、同じシーア派のアゼルバイジャンを介して、ロシア国内にも伝わりかねない。アゼルバイジャンの北はすぐ、ダゲスタンというロシア国内になるので、この地域のムスリム住民の間にイランの影響力が浸透してくる危険を許さないという決意が、一方において示されたものと考えられる。
中東最新事情を読む(3)イランとサウジ、どちらが上手?

●イラン国政の変化~改革派系の影響力、強まる

  • ウィーン最終合意と経済制裁解除によって外の国々との通商貿易を再開するオープン・ドア・ポリシー。こうしたイラン国政の流れを大きく評価する姿勢が、大統領支持派につながる改革穏健派連合を今回躍進させた理由ではないか。
  • 他方、反大統領派ともいうべき保守強硬派が、これまで3分の2を占めてきた議席を失うことが確実になった。現在、国会において、わずかに16議席しか持っていない改革派系がテヘラン選出の国会議員数だけで30を独占したことから、今後のイラン政治や外交において、改革派系が影響力を強めることは確実かと思われる。
イランのダブル選挙(1)二項対立の奥で戦われたもの
  • 今回のハッサン・ローハニ大統領を支持する改革穏健派連合の躍進の背景には、昨年7月の核開発をめぐる欧米など6カ国との合意、JCPOAと略されるウィーン最終合意が成立したことがあるだろう。
  • アメリカやヨーロッパとの核合意などにおけるローハニ大統領やザリーフ外相の対話外交に対して、国民がそれを評価するという形で支持を与えてもいる。
イランのダブル選挙(2)対外融和路線に呼応する民主化

●イランは依然として中東複合危機の重要なファクター

  • 経済制裁の解除は、核開発や国際イスラム革命の最終的断念を必ずしも意味しないことを、冷静に見ておく必要がある。イランは依然として中東複合危機の重要なファクターであるということを忘れてはいけない。
中東最新事情を読む(6)伝統と革命が併存するイラン
  • 米欧は、核合意や経済制裁解除によるイラン市場への進出を期待するあまり、反政府勢力の範囲や人物をイランが特定することまでも容認してしまった。そのようなイランの気ままな行為にも沈黙を守らざるを得ないところに、力関係の差が出ている。
中東の火種・シリア(2)アサド復権への曲折