イラン核協議最終合意の意味
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
イランのウラン濃縮に関する最終合意の肯定的・否定的評価
イラン核協議最終合意の意味(1)肯定的評価と否定的評価
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
2015年7月15日、P5プラス1(国連安保理常任理事国5カ国とドイツ)はウィーンで、イランとの間にウラン濃縮の中止に関する最終合意を結んだ。包括的共同行動計画(JCPOA)と呼ばれるもので、イランの核開発計画の減速によって、核兵器生産の可能性を現在の2カ月から1年に引き延ばしたことになる。しかし、この最終合意にはさまざまな評価があると歴史学者・山内昌之氏は言う。今回はその肯定的評価と否定的評価について解説する。(前編)
時間:9分41秒
収録日:2015年8月5日
追加日:2015年9月3日
カテゴリー:
≪全文≫

●イランとウラン濃縮中止の最終合意が成立


 皆さん、こんにちは。

 2015年7月15日にオーストリアのウィーンで、いわゆるP5プラス1、すなわち国連安保理常任理事国である5カ国とドイツを加えたグループが、イランとの間にウラン濃縮の中止に関わる最終合意を結びました。これは、正しくは包括的共同行動計画、Joint Comprehensive Plan of Action(JCPOA)と呼ばれるものであります。イランの核開発計画の減速、すなわち遠心分離機を今の3分の2に縮減すること、イランが保有する濃縮ウランの98パーセントの削減、核の研究、原子力の高度な研究に関して、10年から15年間の制限を設けること。こうしたことによって、イランの核兵器生産の可能性は、このままでいけば2カ月で原爆ができるとされていたものが、1年に引き延ばしたことになるというのが、今回の成果の骨子であります。

 この見返りとして、イランは、しかるべきモニター(査察や検査)を段階を踏んでクリアすれば、年内にもおよそ1500億ドル以上の海外で凍結されている資産が自由に使えるようになる、すなわち、凍結資産の解除が予定されています。


●肯定的評価:核問題唯一の現実的外交解決


 しかしながら、この最終合意の意味については、肯定的評価から否定的評価に至るまで、さまざまな解釈があります。まず肯定的評価について述べたいと思います。

 この包括的共同行動計画、いわゆる最終合意は、イランの核問題に関する唯一の現実的な外交的解決として評価する声があります。すなわち、これまでのアメリカの採っていた封じ込め政策は成功せず、むしろ逆効果だったという考えです。イスラエルやサウジアラビアのようなウラン濃縮の中止、いわゆるゼロ濃縮という考え方や、核関連施設の全面的な閉鎖は、決して現実的な選択(オプション)ではなかったということです。しかも、軍事的なオプションは、イランの核兵器所有を2年から3年遅らせるだけにすぎません。結局は、イスラエルやアメリカで巷間言われるほどの実効性に乏しいことが分かってきています。

 制裁の解除によって、イランにはメリットがずいぶんと出てきます。すなわち、イランの石油輸出量は、半年で今の倍に増えると見込まれています。そして、今後5年間の経済成長は、アリ・ハメネイ最高指導者の言うところ...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏
ポスト国連と憲法9条・安保(1)国連の構造的問題
核保有する国連常任理事国は、むしろ安心して戦争できる
橋爪大三郎
日本の財政政策の効果を評価する(1)「高齢化」による効果の低下
高齢化で財政政策の有効性が低下…財政乗数に与える影響
宮本弘曉
日本人が知らないアメリカ政治のしくみ(1)アメリカの大統領権限
権限の少ないアメリカ大統領は政治をどう動かしているのか
曽根泰教
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
財政問題の本質を考える(1)「国の借金」の歴史と内訳
いつから日本は慢性的な借金依存の財政体質になったのか
岡本薫明

人気の講義ランキングTOP10
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方
知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」
今井むつみ
内側から見たアメリカと日本(3)ビル・ゲイツの世界戦略
「50億人を救う」と宣言したゲイツとの粋なエピソード
島田晴雄
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
岡朋治
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(2)量子論と空海密教の本質
脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは
鎌田東二
歴史の探り方、活かし方(2)図書館「レファレンス」の活用
図書館の便利な活用法…全国の図書館からの「お取り寄せ」
中村彰彦
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
伊能忠敬に学ぶ「第二の人生」の生き方(1)少年時代
伊能忠敬に学ぶ、人生を高めて充実させる「工夫と覚悟」
童門冬二
徳と仏教の人生論(3)無分別知と全人格的思惟
般若とは何か――秋月龍珉からの命題を探求し到達した境地
田口佳史
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(7)不動産暴落と企業倒産の内実
不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?
垂秀夫
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦