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イラン・ローハニ大統領の再選は有力か?

イランのダブル選挙(2)対外融和路線に呼応する民主化

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
情報・テキスト
イラン革命
2月末に行われたイランの国会選挙の最終結果は、同国独特の制度のために決選投票を経て4月に持ち越される。しかし、ローハニ大統領の路線が国民から支持を得、次回の再選に大きな一歩を踏み出したことは間違いない。1月にイランを訪問し、国内事情にも詳しい歴史学者・山内昌之氏が、二つの選挙の結果について分析を進める。(全4話中第2話)
時間:10:40
収録日:2016/03/02
追加日:2016/04/04
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≪全文≫

●イランの特殊な選挙事情と、現政権への実績評価


 皆さん、こんにちは。今日は、引き続きイランの国会議員選挙と専門家会議の選挙分析について、私の見方をお示ししてみたいと思います。

 まず、イランの選挙のプロセスですが、投票率は約60%という暫定的な数字が出されています。イランでは、各有権者が複数候補に投票することが可能で、有効投票の4分の1に届かない候補者たちは、約1カ月後に行われる決戦投票に進みます。そのため、最終的な結果が確定するのは4月以降になるという、大変独特な制度を取っています。前回2012年の国会議員選挙においては65議席が確定せず、決選投票にゆだねられました。したがって、現時点では最終的な議席数が未定であるということになるのです。

 さて、常識的に考えると、今回のハッサン・ローハニ大統領を支持する改革穏健派連合の躍進の背景には、昨年7月の核開発をめぐる欧米など6カ国との合意、JCPOAと略されるウィーン最終合意が成立したことがあるでしょう。ローハニ政権は、これによって今年に入ってから経済制裁解除を引き出しましたし、特にモハンマド・ジャヴァード・ザリーフ外務大臣などの活躍により、ローハニ大統領の対外政策が成功したという実績が評価されたと考える見方は、決して間違っていません。


●現大統領の対外融和路線は大統領再選に向けての動きか


 1989年6月以降、ハメネイ氏が最高指導者を占めるイラン・イスラム政治体制の中において、これまで改革穏健派の大統領は、アメリカとの国交正常化、EUとの貿易通商拡大、日本などの友好国との関係強化といった対外融和路線を試みてきました。例えばセイエド・モハンマド・ハタミ大統領などは、その代表的存在に当たります。

 しかし、この路線は常にハメネイ最高指導者を頂点として隠然たる力を振るう保守強硬派の反発を受け、十分な成功を挙げることができませんでした。また、前大統領のマフムード・アフマディネジャド氏が、保守強硬派として、欧米との対立や衝突を確定的にしたことも、ご案内の通りです。

 一方、ローハニ現大統領は、欧米をはじめとする外の世界との対話路線を重視しています。先月の外遊に際しても、ヨーロッパの協力は、国際的に見たイスラム過激派(ISなどをはじめとするテロリスト組織)との戦いにおいて必要なことだと、自ら語ったりしているのです。

 このような対外的融和姿勢と相並んで、今回の国会議員選挙などを通して来年(2017年)夏に予定されている大統領再選に向けて弾みをつけ、アメリカとの関係正常化などに結び付けていきたいというのが、本音のところではないかと思われます。


●イラン国民の約60%がイラン革命を知らない若い世代


 イランの人口は、中東において非常に突出しており、およそ8000万人です。しかも、以前にお話ししたように、彼らは宇宙開発やナノテクノロジーを頂点とする産業力を誇っています。さらに、経済制裁下においても、イランは自前で製造業を進め、また、さまざまな部品の輸入さえままならない中、イラン航空は自力で国際線・国内線を運用してきましたし、イラン革命防衛隊などに象徴されるように、国防安全保障能力の水準も維持してきました。このようにイランは、国家として非常に高い文明度と自己防衛能力を持つ国であるといえます。

 しかし、中東屈指の大国であるイランにも、当然悩みがあるわけです。それは、1979年のホメイニ師を中心とした革命を知らない30歳以下の若者が人口8000万人の約60%を占めているという現実です。

 どこの国においても若い世代は常にそうであるかもしれませんが、この若者たちは、現在の政治体制や政治文化に違和感を持っている世代です。宗教者が法学者を支配するという独特なシーア派の理論によって行われる抑圧的な統治の姿に大きなアレルギーを感じ、宗教者を優遇する慣習にも否定的です。

 ローハニ大統領は、こうした世代に対し、表現の自由や女性の地位拡大などを掲げることによって、若者たちの心をとらえ、人口の60%を占める若い層を大統領支持に向かわせるきっかけをつくったのです。


●穏健改革派の躍進が最高指導者の選出にも影響を与える


 イランの国会議員定数は、前回も申し上げたように、290名です。今回の国会議員選挙は、先月の26日から28日にかけて開票作業が進み、すでに触れたようにローハニ支持層とほぼ重なる穏健改革派が躍進しています。

 また、約263万票を開票した段階で、定数30のテヘラン選挙区において反欧米路線の保守強硬派が全て議席を失うことも確実だと見られています。ローハニ大統領に対して批判的な保守強硬派の重鎮であったハダドアデル前国会議長も落選する可能性が高いとされています。

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