●2015年1月、日本人殺害事件が発生
- 2015年1月に、後藤健二さん、湯川遥菜さんが殺害されるという、大変忌まわしい事件が起こった。これによって、日本の中東への関与は変化した。これまでのように「中東で愛される日本」といった建前と、欧米と違って自分たちだけは安全だという安心立命の境地だけではなく、「中東のテロリストに憎まれる日本」という本音、そして警戒心の要素も併せて持つようになった。
「イスラム国(ISIL)」日本人殺害事件に際して~ハワーリジュ派とイスラム国
●日本人殺害事件は歴史上、類をみない凶悪犯罪
- 世界史上、特に近現代のテロは、当事者間の関係に限定されてきた。ところが日本人殺害事件は、独善的な宗教解釈や政治目的のためならば、直接関係のない人、罪のない人の殺害も正当化されると主張した点で、歴史的に見てまことに類をみない凶悪犯罪と言わなければならない。
「イスラム国(ISIL)」日本人殺害事件に際して~私たちが得た教訓ととるべき態度
●ISが日本人に対して遠慮するいわれはない
- 日本人にとって重要なのは、ISが日本を十字軍の一員と見なし、これからも世界各地で殺害すると言っていることだ。(中略)「十字軍」に入っている・いないを言う前に、日本はそもそもアメリカとの関係において外交安全保障を組み立てている事実があることを、日本の世論は冷静に考える必要がある。
「イスラム国(ISIL)」日本人殺害事件に際して~ハワーリジュ派とイスラム国
- 後藤さんの殺害に際して、イスラム国は「これからも日本人をテロの対象にする」と言っている。私たちが注意することは、イスラム世界やムスリムの人々が日本を敵視していると考えるのは間違いだということだ。
「イスラム国(ISIL)」日本人殺害事件に際して~私たちが得た教訓ととるべき態度
- しかし、イスラムの名を借り、あるいはイスラムを名分としたテロリズムによる日本人殺害やその予告に見られる「日本への敵対」や「日本人に対する脅迫」との違いには明白なものがある。
- ISやアルカーイダのようなイスラム・テロリズム組織の脅迫や犠牲というものに、差があるはずはない。また、そうした脅迫や犠牲の被害を一番受けているのは、むしろ他ならぬ中東に住む同じアラブのムスリム住民たちなのだ。彼らが日本人に対して遠慮するいわれはなく、反日になったり、あるいは反日本人的になったりすることも、決して不思議ではない。
「イスラム国(ISIL)」日本人殺害事件に際して~日本は中東人道支援を止めるべきなのか
- インドネシアには「ジェマ・イスラミア」(イスラム集合体)という組織がある。その創設者が受刑中、刑務所に入っている中で、「欧米と連携する日本も攻撃対象になる」と言っていた。そういうことを示唆して、ジェマ・イスラミアはISの傘下、支持を表明していた。にもかかわらず、なかなか日本社会はこうしたことを受け入れられなかったということだ。(中略)日本は「もはや対岸の火事ではない」と考えるべきだったし、この辺りの反省をどう受け止めていくかということだ。
「イスラム国」は、もはや対岸の火事ではない
●ISこそ真のハワーリジュだ
- 「イスラムは平和の宗教だ」と言うだけでは、イスラムを語ったことにはならない。それはどの部分をとるかによってで、イスラムは暴力の宗教にもなるという理屈の一番悪い側面が、阻害された形で出たのがISなのだ。
- もし7世紀のハワーリジュ派が現代によみがえって、ISによる後藤さんや湯川遥菜さんに対する残虐な処刑やカサースィベ中尉を炎で殺害したむごい光景を見れば、ISの行為に対して、何と言うか。恐らく一番考えられるのは、「お前たちISこそ真のハワーリジュだ。われわれはもはやハワーリジュではない」「ハワーリジュが目指した極限的な形を君たちはやっている」
「イスラム国」は、組織か「国家」か
●ISの掃討には分担する必要があるが、日本は軍事負担できない
- 問題は、ISの掃討、排除には、その問題解決はどうあるべきかということに関する分担があるということだ。日本は軍事負担はできない。しかし、誰かが軍事面を担わなければならない。担わなければならないのは、従来ではアメリカだと言われていたが、アメリカにだけ負担させていくということの限界が、明るみに出ている。
「イスラム国」の日本人殺害事件の教訓と掃討コスト
●日本は人道支援をする以外に道はない
- われわれは、日本の対外政策、グローバルな外交が中東のみならず、バランスの取れたかたちで展開していることにもよく気をつける必要がある。陰謀理論の中には、アメリカやヨーロッパの中にあるユダヤ人社会に敵対するものが多くを占めるからだ。まかり間違えば、最近フランスで問題になり、先日はデンマークでユダヤ教のシナゴーグが襲われたような、反ユダヤ主義・反セム主義と受け止められる危険がある。
「イスラム国(ISIL)」日本人殺害事件に際して~ハワーリジュ派とイスラム国
- 日本はもちろん、中東情勢に力で関与する政治的意思を持つはずもないし、法的根拠もない。その代わりにラテン語の金言を借りるとすれば、「多数が与せし側は良識あふれし賢き側」という言葉になるだろう。アラブ世論の中にある穏健な趨勢を支えるために、日本は全体として人道支援をする、そしてそれを続ける以外に道はない。
「イスラム国(ISIL)」日本人殺害事件に際して~日本は中東人道支援を止めるべきなのか