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パリやロンドンの同時テロはISにとってシリア戦争の延長

ポストモダン型戦争と第二次冷戦(2)世界規模の複合危機

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
2015年11月13日のパリ同時テロ、カリフォルニア銃乱射、ロンドン地下鉄襲撃。ISが米欧で起こしたテロはシリア戦争の延長や拡大としての遠隔地戦争だった。歴史学者・山内昌之氏が、いま世界を覆っている戦争とテロの脅威の本質に迫る。(全3話中第2話目)
時間:09:27
収録日:2015/12/14
追加日:2016/01/14
カテゴリー:
≪全文≫

●世界の強国の対立がシリアを戦場にしている


 皆さん、こんにちは。

 前回触れた「第二次冷戦」という事態についてですが、この第二次冷戦は、ロシアのシリア情勢への直接的な軍事干渉や、トルコによるロシア軍機の撃墜事件を機に、ロシアとトルコの対立がますます深まっています。さらに、ロシアとイランとの同盟が強化されて、新しい段階に入りました。

 この状況は、国内レベル、地域レベル、国際レベルという3つの局面において、それぞれ違う性格の政治性が対立、もしくは結び付いているところが特徴ですが、かつてシリアで行われていたのは、国内レベルでいえば、アラブの春がシリアに波及した「シリアの春」の延長線上にあったものです。つまり、アラブの春、シリアの春を圧迫したアサド政権に対して、自由を求める自由シリア軍などの反政府勢力との内戦という局面でした。中東全体、中東の地域レベルでいうと、アサド政権を容認するかどうかをめぐる関係各国の間の代理戦争という性格を持っていました。そして、グローバルな国際レベルで語るなら、シリアは、ウクライナやクリミアと共に、第二次冷戦の中で局地的に熱戦、つまり実際の戦闘・戦争が行われる、一種のエネルギー放出の場になっています。

 冷戦を全体として維持するためには、かつてのベトナム戦争や中東戦争、インド・パキスタン戦争といったように、地域における部分的なエネルギーの放出を伴うことが必要でした。誠に残念なことですが、いまシリアは、そうした冷戦をめぐる世界強国(アメリカ、ロシア、EUといった国々)の対立の実験場になっているという非常に嘆かわしい事態が進行しているのです。


●相互依存の構造を無下に否定できないロシアとトルコ


 しかし、今回ロシアがシリア空爆を開始し、トルコ軍機によってロシアのSU‐24が撃墜されたことを機会に、ロシアは、もはや代理戦争のパトロンであるという仮面をかなぐり捨てて、シリア内戦を通常の戦争に変える立役者になってしまいました。いまや、ロシアはシリア戦争の当事者だといっても過言ではありません。

 もっとも、トルコとの軍事的緊張だけならば、ロシアにとって国家対国家の対照的な、シンメトリーとしての原理に基づく妥協や、外交的な譲歩が不可能なわけではありません。現実に、ロシアとトルコは16世紀以来12回も戦い、戦争を繰り返してきました。そし...
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