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ISとのポストモダン型戦争で最前面に立つロシアのリスク

ポストモダン型戦争と第二次冷戦(3)プーチンの意図

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
首相官邸ホームページ(http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/actions/201411/9apec.html)より
「ロシアが、いまやシリア情勢の最大プレーヤーで間違いない」と、歴史学者の山内昌之氏は喝破する。では、ロシアはいま、シリアやトルコにどのような影響を及ぼしているのか。山内氏がプーチン大統領の意図と中東情勢を細やかに分析する。(全3話中最終話)
時間:13:15
収録日:2015/12/14
追加日:2016/01/18
カテゴリー:
≪全文≫
 皆さん、こんにちは。

 前回、私は、現在中東やヨーロッパにまたがる形で行われている戦争や大規模テロを「ポストモダン型戦争」と定義しました。この戦争は、アメリカやヨーロッパに生まれた若者たちが受けている就職差別、あるいは人種的な偏見に起因する社会的不満を基盤に起こったという側面が確かにあるかもしれません。しかし、私はそれ以上に、イスラムを主観的に解釈したイデオロギーや文化観を絶対視するイスラム国が、一種の「文明間衝突」の亜種として、自己実現的に西洋を挑発していることではないかと考えています。

 中東では、第二次冷戦とポストモダン型戦争が複合危機をもたらしていますが、その責任の一端は、オバマ大統領その人にあると言ってよいでしょう。アメリカは、北シリアの「クルド分離主義者」を支援する一方で、アラブの春以降、アサド政権と対峙してきた「アラブ人スンナ派の穏健派勢力」の育成に失敗してきました。最近の反政府派による民兵連合を「シリア民主軍(SDF)」と呼んでいますが、シリア民主軍は、現状、アサド政権には銃を向けず、クルド人とともにイスラム国と戦う仕事に専念しています。これは、アサド政権の打倒が、いまのアメリカ政府にとって最優先事項ではなくなっていることを示唆しています。

 最近、オバマ大統領は、自らが関与してきたイラク問題をアメリカが処理する代わりに、とうてい自分の能力を超えるシリア問題の処理をロシアの裁量に委ねたという解釈が出てきています。これは、1916年の「サイクス・ピコ秘密協定」を思い出させます。つまり、イギリスがイラクを、フランスがシリアを分割、領有した、その秘密協定によく似ているのです。シリアでロシアの権益や勢力圏を尊重する考え方は、冷戦の論理に他なりません。一方、現在のイラクでは、シーア派イランの力が強く、アメリカの影響力には疑問符が付きます。


●ロシアはトルコを孤立させようとしている


 ロシアが、いまやシリア情勢の重大プレーヤー、いや最大プレーヤーであることは、間違いのない現実となってきました。いまやプーチン大統領は、イスラム国とのポストモダン型戦争に対応しなければなりません。そのロシアはいま、アメリカやヨーロッパ、特にアメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領が提唱した「テロとの戦い」という原理を、反アサド勢力との戦争、シリア内戦にも援用して...
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